
地政学的動向を背景としたロシア系脅威アクターの活動と日本への影響(前編)
2025年に予定または進行中の政治・外交等のイベントにおいてロシア系脅威アクターが日本の組織に対してどのような活動を展開する可能性があるかについて考察します。
第2次トランプ政権は発足後、関税や税制改正といった経済政策を矢継ぎ早に打ち出しています。日本企業はこれらの政策をどう理解し、関税やサプライチェーン、税務の対応を進めるべきなのでしょうか。トランプ2.0の関税・税制動向と日本企業への影響に関して、PwC JapanグループとPwC米国の専門家が議論しました。
(本レポートは、2025日2月18日時点の情報に基づき作成しています。)
左から南 大祐、スコット・マキャンドレス、ロバート・オルソン、山口 晋太郎
登壇者
PwC米国 タックス・ポリシー・サービス パートナー スコット・マキャンドレス
PwC関税貿易アドバイザリー合同会社 パートナー ロバート・オルソン
PwC税理士法人 パートナー 山口 晋太郎
PwC Japan合同会社 マネージャー 南 大祐
南:第2次トランプ政権の経済政策(トランプノミクス2.0)を端的に表すと、減税と規制緩和を軸とした小さな政府の方針と、関税や移民排除といった保護主義的・排他主義的な施策の組み合わせです。税制では、第1次政権時に成立した2017年減税雇用法(TCJA)の延長や追加減税策を提案しています。規制緩和では、既に人工知能(AI)や暗号資産に関する規制撤廃に着手しており、今後、反トラスト法や金融など他分野でも緩和を進めるでしょう。こうした成長戦略は産業界の支持を集めています。
一方で、対中一律60%関税といった貿易政策や不法移民の国外追放といった移民政策に関して、産業界から懸念の声が出ています。トランプ大統領がこれらの政策をどこまで実行するのか不透明ですが、関税や移民排除が物価上昇や経済減速につながると危惧されています。
PwC Japan合同会社 マネージャー 南 大祐
南:まず、関税政策について、マキャンドレスさんにお聞きしたいと思います。トランプ大統領の関税の提案をどこまで真剣にとらえるべきでしょうか。関税は交渉ツールであって文字通り実施されないという見方もあれば、関税は製造業の米国回帰に向けた産業政策の一環であり、トランプ大統領は関税引き上げに本気だという見方もあります。
マキャンドレス:トランプ大統領は関税引き上げに極めて本気です。1期目でも関税引き上げを提案したり実施したりしましたが、2期目ではさらに積極的な姿勢を見せています。
指名承認公聴会において、ベセント財務長官は関税の目的を3つ挙げています。1つ目は、他国が米国の輸出品に対して高関税や規制負担をかけるなどして生じた経済的損害を是正することです。2つ目は、関税収入を米国財政に充てることです。3つ目は、他国との交渉を有利に進めるためのツールです。トランプ大統領は、これら3つの目標を全てないしは組み合わせて実現できると信じており、行動に移しています。
PwC米国 タックス・ポリシー・サービス パートナー スコット・マキャンドレス
南:トランプ大統領は就任初日から関税を引き上げると発言していましたが、実際は米国の貿易赤字や他国の貿易慣行などに関する調査実施を関連省庁に指示するにとどまりました。こうした動きは、今後の関税政策にどのような影響を与えるのでしょうか。
マキャンドレス:トランプ大統領は就任初日、多くの大統領令に署名しましたが、すぐさま関税を引き上げはしませんでした。しかし、世界を長く待たせることはせず、2月1日、カナダ、メキシコ、中国に対する関税を指示しました。これらの関税は2月4日に施行される予定でしたが、カナダとメキシコはトランプ大統領との交渉に動き、国境警備や違法薬物取締りで合意に至りました。結果、両国に対する関税は1カ月延期されましたが、いまだリスクは残っています。一方、対中追加関税は実施されました。
関連省庁に対する貿易赤字などの調査命令は、トランプ大統領が今後関税を実行する上で必要な理論的根拠や法的支援を提供するでしょう。新たな関税に対して訴訟が起こる可能性に備えて、政権内の貿易担当チームがこうした裏付けとなる情報を提供することは重要と言えます。
南:選挙戦中、トランプ大統領は全ての国からの輸入に対する10〜20%の普遍的基本関税を提案しました。選挙後は、トランプ政権が対象を絞った、ないしは段階的な関税実施を検討しているという報道も見られます。今後の展開をどう見ていますか。
マキャンドレス:トランプ大統領は関税の力を強く信じており、カナダ、メキシコ、中国以外にも対象を拡大する可能性があります。今後の展開は現在の関税がどの程度成功するかにかかっていると思いますが、カナダとメキシコが米国の要求に応じていることから、トランプ大統領は自身の関税戦略の正しさが証明されたと感じているでしょう。
カナダなどへの関税賦課にあたり、トランプ大統領は、国家非常事態宣言によって大統領に貿易を規制する広範な権限を与える国際緊急経済権限法(IEEPA)を用いています。しかし、IEEPAがこのような関税に使われた前例はなく、何らかの非常事態宣言が必要です。カナダやメキシコの場合、危険薬物であるフェンタニルの流入などが問題となっています。他国の場合、具体的な緊急事態が存在するか不透明で、10~20%の普遍的基本関税の実施にはその他の法的根拠を求める必要があるかもしれません。
南:ご指摘の通り、トランプ大統領はメキシコとカナダに対し、移民・麻薬問題をめぐり25%の追加関税を賦課するとしています。一方で、メキシコを経由した中国製品の米国への迂回輸出や2026年の米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しなど、既存の貿易紛争もあります。今後の動向をどう見ていますか。
マキャンドレス:バイデン政権は、中国がメキシコを米国市場への「バックドア」として利用し、対中関税を回避したり、USMCAの特恵関税を受けようとしたりしていると批判していました。バイデン政権は対抗策として、対中関税の引き上げやメキシコ産鉄鋼・アルミ製品に関する原産地規則の厳格化などを行いました。
このような多くの問題の蓄積が、USMCAの変更・改善に関する長い交渉のベースとなるでしょう。しかし、米国がカナダとメキシコに25%の追加関税を課したり、脅したりすれば、交渉は難航します。USMCAの詳細に関する議論は、3カ国が現在の関税をめぐる係争を解消してからになるのではと思います。
南:先ほど指摘された通り、トランプ大統領は中国に対して10%の追加関税を課しています。一方、トランプ大統領は選挙戦中、一律60%の関税を提案していました。今後、トランプ政権はどのような動きを見せ、中国はどう対応するとお考えですか。1期目のように米中貿易合意を締結する余地はあるのでしょうか。
マキャンドレス:トランプ大統領が政権貿易担当チームに出した指示の1つは、中国が過去の合意を履行しているか調査することでした。1期目の米中貿易合意は「第1弾」と位置付けられており、トランプ大統領が2020年に退任する前まで中国は履行に取り組んでいたため、本調査が新たな交渉の礎となるかもしれません。
問題は、トランプ大統領が関税回避・削減の条件として相手国に何を求めているのか、相手国はその要求に応えることが可能なのか・応える意思があるのか、という点です。カナダとメキシコの場合、移民や麻薬の流入への具体的な対策がありました。
しかし、中国に対するトランプ大統領の「要求」は、より広範で、両国の地政学的・経済的バランスに関するものです。中国が関税回避・削減に向けて取りうる具体的措置を見つけるのは難しいかもしれません。
南:第1次トランプ政権の米中貿易戦争では、多くの企業が中国から東南アジア諸国に生産をシフトしたため、これらの国々は漁夫の利を得ていました。第2次トランプ政権でも同様の傾向が見られるとお考えですか。それとも、これらの国々にも関税が課され、チャイナプラスの生産移管先としての魅力が低下するのでしょうか。
マキャンドレス:この傾向は続くと思います。不確実性の高い貿易・関税環境において機敏に対応するために、企業はサプライチェーン多様化を少なくとも検討しています。問題は、利用可能で有用な施設を確保できるかどうか、グローバルやリージョナルな供給網に必要な量と質を扱える労働者を確保できるかどうかです。ただし、製造業の米国回帰はトランプ政権が掲げる目標の1つであり、その実現に向けた関税政策が今後も取られることには注意が必要です。
南:最後に、日本についてお聞きします。トランプ大統領は1期目、日本の自動車に25%の関税を課すと示唆しましたが、日米は農産物の市場アクセスや防衛費増額に関する合意に至り、関税は回避されました。2期目ではどのような展開を予想しますか。
マキャンドレス:トランプ大統領は日本に対して好意的な姿勢を見せており、日本への懲罰的な関税は回避される可能性があります。しかし、トランプ大統領は、日本企業の鉄鋼業における対米投資を批判するなど、自身が支持しない取引を批判することを躊躇しません。トランプ大統領は取引を行うこと自体には関心があるため、日本としては米国に関与して協力方法を見つけることが生産的なアプローチでしょう。
南:マキャンドレスさん、ありがとうございます。次に、オルソンさんにお聞きします。これまでの議論を踏まえると、トランプ2.0の関税政策は日本企業にどのような影響を与えるのでしょうか。特に影響を受けるのはどの産業だと思いますか。
オルソン:日本の多国籍企業は間違いなく影響を被るでしょう。全ての国に対する普遍的基本関税の場合、競争条件は平等です。ただし、米国の子会社は、全ての輸入品に対するキャッシュフローへの影響に備え、値上げや追加料金の形で顧客にどれだけ関税負担を転嫁するか決定する必要があります。影響緩和のために、サプライヤーへの値下げ要求も検討する必要があるでしょう。
中国に対象を絞った関税の場合、その影響は、過去4年間のサプライチェーン多様化・強靭化の取り組みを経た現在、企業がどれだけ中国へのエクスポージャーを有しているかに左右されます。一部の企業はすでにサプライチェーンの大部分を中国から移管しており、優位な立場にあります。一方で、多くの日本企業が中国から部品を輸入し、完成品を日本で製造しています。現在、日本原産の完成品に含まれる中国製部品に関税を賦課する施策は取られていません。トランプ政権がそのような措置を行えば、日本企業により大きな影響が及び、税関対応も非常に複雑化するでしょう。
これらの政策は、中国で製品を生産し、直接米国に輸出している全ての日本の産業に影響を与えます。電子機器、コンピューター、バッテリー、玩具、自動車部品など、中国はありとあらゆる製品を生産しています。つまり、産業よりも、個社のサプライチェーン戦略によって影響度合いが変わってくるでしょう。
PwC関税貿易アドバイザリー合同会社 パートナー ロバート・オルソン
南:関税対応やサプライチェーン戦略の観点で、日本企業は影響軽減のためにどのような行動を取ることができますか。第1次トランプ政権時の経験から得られる教訓は何かありますか。
オルソン:特定国に対する関税の場合、関税を回避する唯一の現実的な選択肢は対象国で製品を生産しないことです。そして、中国だけでなく、メキシコやカナダ、その他の国々も対象となる恐れがあります。メキシコは、中国のサプライチェーンをニアショアリング(隣国に移転)する際、有力な候補国です。ほとんどの企業は、トランプ政権がここまで対メキシコ関税に注力すると予想していなかったでしょう。メキシコに懲罰的な関税が賦課され、迅速に解決できなければ、中国からメキシコに生産を移管した企業の計画が台無しになる可能性があります。
先ほど話したように、第1次トランプ政権の米中貿易戦争を受けて、多くの日本企業が中国サプライチェーンの多角化を進めました。経済産業省による東南アジアへの多角化推進策まで実施されました。それが、1期目から学ぶべき教訓ではないしょうか。つまり、断固として対応した企業の方が有利ということです。第1次トランプ政権が対中関税を引き上げた後、バイデン政権は関税を撤廃せず、数ある訴訟において法廷で弁護した事実も忘れてはいけません。
南:日本企業の関税対応における課題は何ですか。これらの課題をどう解決すればよいのでしょうか。
オルソン:いまだ中国での生産に大きく依存する企業の場合、先んじて多角化を進めた他社が他国の生産能力の多くを押さえているため、対応は難しくなるでしょう。しかし、多角化は関税を回避する唯一の戦略です。
そのため、米国への輸出業者が対中エクスポージャーを減らしたい場合、初手の対応として最善なのは、米国政府運営のACEポータルから輸入データを取得することです。これによって、自社のエクスポージャーを明確かつ迅速に把握することができます。私たちは現在、エクスポージャーを定量化した分析レポートをクライアントに提供しています。
エクスポージャーを確認できたら、生産を他国に移すオプションを検討する必要があります。しかし、全ての国が必要な生産キャパシティを有しているわけではないため、詳細な検討が必要です。電力、道路、港湾、航空貨物施設、労働力の質など、多くの検討事項があります。
また生産拠点の変更はすぐに対応できるものではないことから、並行してその他の関税コストの削減方法について検討することも肝要です。例えば、現状の関税の課税標準である米国当局への輸入申告価格を軽減する、「ファーストセール」や「アンバンドリング」と呼ばれる制度・機会活用の検討が考えられます。これらの活用により追加関税分のコストを全て吸収することは難しいと考えられるものの、商流の変更により実現可能な対応であることから、生産拠点の変更等と比べ、比較的導入しやすい関税コスト削減方法と言えます。
とはいえ、最初のステップはエクスポージャーの度合いを理解することであり、その部分から私たちはクライアントを支援しています。
南:つまり、日本企業は、トランプ大統領の関税に関する言動を真剣に受け止め、サプライチェーンの可視化や戦略見直しを積極的に行うべきということですね。
南:それでは、税制についてマキャンドレスさんにお聞きします。トランプ政権の掲げるTCJA延長や追加減税について、概要を教えてください。
マキャンドレス:2025年末には、2017年に成立したTCJAに含まれる多くの企業向け減税措置と、全ての個人向け減税措置が失効または縮小される予定で、経済全体で4兆米ドル以上の増税となります。トランプ大統領と議会共和党はTCJA延長による増税回避と追加減税の実施を掲げていますが、容易ではありません。税制改正には連邦議会の法案可決が必要ですが、共和党は過半数すれすれの状態で多数派を占めており、下院ではわずか2票、上院ではわずか3票しか失うことができません。
参考までに、2017年のTCJA可決時、共和党議員12人が反対票を投じました。今回も同様な離反があれば、法案は可決できません。可決にはほぼ全会一致の賛成票が必要で、実現するのは非常に難しいでしょう。法案の審議は2025年終わりごろまでかかるかもしれません。
南:米国シンクタンク、タックスファウンデーションの試算によると、TCJA延長は10年間で4兆米ドル以上の財政負担、トランプ政権が掲げる追加減税は3兆米ドル以上の負担を伴います*1。共和党はどのようにその財源を確保しようとしているのでしょうか。
マキャンドレス:これは、共和党が税制法案を可決するのがどれほど難しいかを理解するための最も重要な質問です。共和党議員の間では、数兆米ドルにも上る財源をめぐり激しい議論が行われています。
イーロン・マスク氏が率いる行政効率化省(DOGE)が提案する支出削減案などによって、財源が確保できるという見方もあります。DOGEは連邦予算の大幅な削減案をまとめていますが、その全てを大統領権限で実行できるわけではなく、多くは議会承認が必要です。しかし、DOGEによる支出削減を財政負担の一部に充てることは可能でしょう。
また、先ほど議論した関税は国庫に歳入をもたらすため、それを財源に充てることも考えられます。このように、トランプ政権は会計面で工夫を凝らすかもしれませんが、必要な財源は多額であり、財源確保がどれだけ難しいかを浮き彫りにしています。
削減対象となりうる支出の1つに、インフレ抑制法(IRA)に含まれる再生可能エネルギー関連補助金があります。電気自動車(EV)向け購入時税額控除など一部の項目が見直し対象となりうる一方、その他の項目を支持する共和党議員が十分にいるため、IRAが完全に廃止される可能性は低いと思われます。一部の項目は段階的な削減といった修正が加えられるでしょうが、IRA税額控除の多くはそのまま残ると考えられます。
南:共和党は経済協力開発機構(OECD)/G20の 「BEPS包摂的枠組み」において合意された第1の柱(「市場国への新たな課税権の配分」)、第2の柱(グローバル・ミニマム課税)に長年反対しており、トランプ大統領は就任初日、同合意から離脱する大統領令に署名しました。今後、どのような事態が起きるのでしょうか。
マキャンドレス:トランプ大統領が大統領令を発布した一方、議会共和党は同合意を国内法で施行して米国の利益を損害した国々に対して報復課税を課す法案を提出しています。大統領と議会がこれらの措置を実行するのか明らかではありませんが、他の関税の提案と同様に、この動きは他国との交渉を目的としています。トランプ大統領が同合意を国内法で施行する国々と交渉し、合意による解決に至る可能性があるため、他国が交渉に前向きな姿勢を示すか要注意です。
南:トランプ大統領は就任初日、他国が米国企業や市民に差別的な課税を行う場合、米国内にいる同国の企業や市民に対する税率を倍増するという措置を発表しました。企業が注意すべき点は何でしょうか。
マキャンドレス:米国大統領は、このような場合に外国人や外国企業の税率を倍増する権限を持っています。この権限は1930年代の法律で設けられましたが、これまで使用された前例がなく、未知の領域です。企業における検討事項の1つは、米国で勤務する非米国市民がどれだけいるかという点です。自国政府が同合意を国内法で施行した場合、経営層から従業員に至るまで税率倍増の対象となる恐れがあります。これによって人材配置が複雑になるため、企業は自国の税制と米国の対応を注視すべきでしょう。
南:それでは、山口さんに日本企業への影響をお聞きします。2017年に成立したTCJAと比較して、現在の税制改正の動向と事業活動への影響をどう評価していますか。税制改正案の中で、日本企業が最も注目すべき点は何でしょうか。
山口:第1次トランプ政権下の2017年にTCJAが議会で可決された際、30余年ぶりに抜本的税制改革が行われました。連邦法人税率の35%から21%への引き下げに加えて、米国の多国籍企業の国際競争力の強化、米国への投資の促進と雇用の創出のためのさまざまな項目が設けられました。
加えて、2022年にはバイデン政権がIRAを成立し、クリーンエネルギーの税制優遇措置が大幅に拡充されました。IRAにより、EV、バッテリー、風力、太陽光、水素、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの分野への投資が加速しています。
第2次トランプ政権における税制改正は、マキャンドレスさんも触れた通り財政へのインパクトにも鑑みて、TCJAほど大幅なものとはならないと予想されます。しかし、日本の多国籍企業の米国事業に影響を与えうる重要な項目がいくつかあります。
特に、米国に大きな生産拠点を持つ企業にとっては、国内製造業者の法人税を15%まで引き下げる改正案は大きな影響をもたらすでしょう。また、固定資産の即時償却の再導入は、企業の設備投資を刺激する可能性があります。さらに、TCJA下で廃止された研究開発費用の即時控除が再導入されれば、米国で研究開発に従事する企業は恩恵を受けるでしょう。
最後に、仮にIRAが削減されれば、日本企業のグリーン投資に影響が及ぶでしょう。共和党は減税措置の財源確保の手段としてIRA税額控除の修正を検討していますが、マキャンドレスさんが述べたように法案審議の動向は流動的で、最終的な法案成立を待つ必要があります。一方で、トランプ大統領が就任初日に署名した大統領令の1つはIRAに含まれるグリーン事業向け助成金を停止しており、同措置を活用している企業においては影響が予想されます。
PwC税理士法人 パートナー 山口 晋太郎
南:関税や税制改正は、企業による対米投資や国内生産の推進を目的としています。第2次トランプ政権のこれらの政策が日本企業の対米投資に与える影響をどう見ていますか。
山口:過去5年間、日本は対米直接投資額で第1位でした。先に述べた関税や税制の動向、米国における高度な技術開発やイノベーション、その他の国・地域における不透明な地政学的状況などから、日本の多国籍企業にとって米国は重要な投資先であり続けると見ています。
各州が提供する税制優遇も、多国籍企業の投資決定で重要な役割を果たしていることを強調しておきます。連邦政府の税制改正が進む一方、各州は投資を呼び込むためにさまざまなクレジットやインセンティブを提供していくでしょう。日本企業には、トランプ政権だけでなく各州の動向にも目を向け、その政策をどう活用するかを検討いただきたいと思います。
南:以上のお話を踏まえ、あらためて日本企業への示唆をお願いします。
マキャンドレス:2024年末に、2025年の予想を表す一言を聞かれたのですが、選んだ言葉は「ディスラプション」でした。世界中で新たな課題や予測不可能な動向が渦巻いており、その予想は今でも変わりません。関税と税制における政策変更の影響は甚大であり、短期的な舵取りはもちろんのこと、長期的な計画立案は困難を極めます。しかし、ディスラプションが当たり前になっても、適応し、成功のカギを見つける術は残っています。ですから、当面は困難な課題があるにせよ、最終的には楽観視しています。
オルソン:来るべき関税環境に対応するために必要な基本的ステップは、自社の製品とサプライチェーンに基づいてエクスポージャーを理解することです。原材料から顧客まで、サプライチェーンにおける製品の流れの把握に注力した企業は、今後のさまざまな関税の影響を最小限に抑えるだけの準備ができているでしょう。
山口:日本の多国籍企業は米国で大規模な事業や投資を行っており、米国税制の変化を追っていくことは、これまで以上に重要になります。さらなる税制改革に備える中で、TCJAやIRAといった最近の税制改正の内容を再検討し、これらが米国の事業や投資に与える影響を理解する良い機会でもあります。また、グローバルミニマム課税など国際課税をめぐる米国の動向も注視していく必要があります。
南:第1次トランプ政権下では、多くの日本企業が政策動向や事業影響の分析に追われましたが、第2次トランプ政権では更なる対応が求められるでしょう。今回の議論が、日本企業がトランプ2.0の関税・税制環境を乗り切るのに役立てばと思います。
*1 Erica York, “Donald Trump Tax Plan Ideas: Details and Analysis,” Tax Foundation, October 14, 2024, https://taxfoundation.org/research/all/federal/donald-trump-tax-plan-2024/
2025年に予定または進行中の政治・外交等のイベントにおいてロシア系脅威アクターが日本の組織に対してどのような活動を展開する可能性があるかについて考察します。
2025年における重要なイベントを視野に入れ、日本を標的としたロシア系脅威アクターによるサイバー攻撃のシナリオと対応策をまとめます。
第2次トランプ政権の関税・税制動向と日本企業への影響に関して、PwC JapanグループとPwC米国の専門家が議論しました。
2025年5月17日までに施行される経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度に関して、特に影響があると見込まれる事業者や事業者の担当者において必要となる対応を、2025年1月31日に閣議決定された運用基準を踏まえて解説します。