連載コラム 地政学リスクの今を読み解く

地政学的動向を背景としたロシア系脅威アクターの活動と日本への影響(前編)

  • 2025-04-11

はじめに

2022年2月頃に始まったロシアによるウクライナ侵攻を背景に、日本を含む西側諸国は対露経済制裁やウクライナ支援等を実施してきました。それと同時に、このような政策に対する報復を意図した親露派ハクティビストによるDDoS攻撃が日本の官公庁や民間企業で近年多く報告されています。

かつては、中国や北朝鮮と比較すると、ロシア系脅威アクターが日本を標的としたサイバー攻撃を行うことはそれほど明確には確認されていませんでした。しかし、攻撃の頻度とそれによる日本社会への影響度はウクライナ侵攻以降次第に高まっています。

これは同時に、日本を今まで直接攻撃してこなかったロシア系脅威アクターが今後の情勢次第で日本を標的にする可能性を示唆しているとも考えられ、改めて攻撃手法やその背景を理解したうえで備える必要があると言えます。

本稿では、上記の課題意識のもと、2025年に予定または進行中の政治・外交等のイベントにおいてロシア系脅威アクターが日本の組織に対してどのような活動を展開する可能性があるかについて考察します。そのためには、過去に観測された地政学的動向を背景としたロシア系脅威アクターの活動を整理する必要があります。

そこで、国家支援型スパイ活動・妨害工作グループ、ハクティビスト、影響工作に特化したグループの3種類に大別したうえで、金銭目的ではなく地政学的な文脈で国家的目標の達成に資するような攻撃パターンを分析します。

また、脅威アクターのプロファイリングと攻撃パターンの分析の結果をもとに、2025年における重要なイベントに視点を向けながら、日本を標的としたロシア系脅威アクターによるサイバー攻撃のシナリオと対応策をまとめます。

このような考察を通じて、ロシア系脅威アクターによる日本を狙った攻撃の予見可能性を引き上げることができます。

国家的目標の遂行に寄与するロシア系脅威アクターの活動

情報技術が発達した現代社会において、国家が地政学的な利益を追求するうえでサイバー攻撃が積極的に活用されている理由の一つに、少ないリソースでより多くの損害を標的にもたらすことが可能な「非対称性」という特徴が挙げられます。これはとりわけ平時において、敵対国の政策方針の変更等を引き出すうえでは有効な手段になり得ます。

ただし、2022年2月下旬からロシアはウクライナと交戦状態にあることから、当該2カ国間で果たすサイバー攻撃の役割は「紛争の閾値を操作するためのツール」から、作戦支援やエスカレーション管理等の「軍事パフォーマンスに寄与するためのツール」に変化している点が指摘されています*1

この点を考慮した場合、ウクライナと同国を支援する西側諸国や日本に対するロシアのサイバー攻撃もその動機において差異があると考えられます。つまり、直接的な交戦相手であるウクライナとは異なり、当該戦争に対する関与の程度によって、その他の支援国に対する姿勢は変化するということです。

日本はG7の一員であり、なおかつ米国の同盟国でもあることから、今次の戦争に対しては西側諸国と歩調を合わせて対露経済制裁やウクライナ支援を実施しています。

このような地政学的背景に着目しながら、日本を標的とする、または今後その可能性が考えられるロシア系脅威アクターの活動を分析します。

*1 スコット・ジャスパー著、川村幸城訳「ロシア・サイバー侵略 その傾向と対策」2023年、作品社

*2 Mandiant, 2022. Trello From the Other Side: Tracking APT29 Phishing Campaigns(Last Accessed: 2025/03/18)
https://cloud.google.com/blog/topics/threat-intelligence/tracking-apt29-phishing-campaigns/?hl=en

*3 Health Sector Cybersecurity Coordination Center (HC3), 2024. New Spear Phishing Campaign by Midnight Blizzard(Last Accessed: 2025/03/18)
https://www.hhs.gov/sites/default/files/new-midnight-blizzard-campaign-analyst-note-tlpclear.pdf

*4 Mandiant, 2024. Unearthing APT44: Russia’s Notorious Cyber Sabotage Unit Sandworm(Last Accessed: 2025/03/18)
https://cloud.google.com/blog/topics/threat-intelligence/apt44-unearthing-sandworm/?hl=en

*5 CYFIRMA, 2023. ISRAEL GAZA CONFLICT : THE CYBER PERSPECTIVE (Last Accessed: 2025/03/18)
https://www.cyfirma.com/research/israel-gaza-conflict-the-cyber-perspective/

*6 U.S. Department of Justice, 2024. Justice Department Disrupts Covert Russian Government-Sponsored Foreign Malign Influence Operation Targeting Audiences in the United States and Elsewhere(Last Accessed: 2025/03/18)
https://www.justice.gov/archives/opa/pr/justice-department-disrupts-covert-russian-government-sponsored-foreign-malign-influence

インサイト/ニュース

執筆者

村上 純一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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金野 楽

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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遠藤 淳人

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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富澤 寿則

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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浦野 晃

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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佐高 迅

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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