米国資本市場の動向―2021年第3四半期

PwCグローバルネットワークのメンバーファームであるPwC米国が発表した「Q3 2021 Capital Market Watch」の概要を紹介します。

2021年第3四半期のIPOは過去最高の2021年上半期から鈍化

2021年第3四半期(2021年7月から9月)のIPOは、2021年第1四半期と比べると大幅に減少したものの、第3四半期としては、過去20年間で最も活況を呈しました。IPOや資本調達の環境は、短期的には米国や世界経済への潜在的なショックに関する不確実性はあるものの、記録的な株式市場と潤沢な待機資金(ドライパウダー)を背景に、引き続き好調に推移しています。残る2021年第4四半期のIPO市場の動向は、経済、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)および地政学の状況次第などで決まるでしょう。

COVID-19デルタ株の流行、景気刺激策の縮小、資本・労働力の供給に対する制約の継続により、米国経済の成長は減速しています。経済成長の伸び率のピークは過ぎた可能性が高いですが、今後の見通しは依然として明るく、COVID-19の感染状況の改善、堅調な家計のファンダメンタルズ、供給面での制約の緩和により、今後数四半期にわたって高い経済成長率が維持されることが期待されます。2021年現在、2021年の実質GDPは年率5.7%で上昇していますが、2022年もある程度は継続し、最終的には2%前後の長期的な傾向に落ち着くと予想されています。

2021年におけるIPOブームの鈍化

IPO

  • 通常のIPO - 2021年第3四半期においては、82件の通常のIPOにより、270億米ドルが調達されました。2021年第2四半期と比較して、IPOの件数はマイナス17%、調達額はマイナス33%と、共に減少しました。
    一方で、特別買収目的会社(SPAC)のIPO件数はプラス38%となりました。
  • 業種別 – 2021年第3四半期は、医薬・ライフサイエンス業においてIPOが最も多く、32件のIPOにより50億米ドルを調達しました。これに次いで、テクノロジー業においてIPOが多く、27件のIPOにより120億米ドルを調達しました。
  • 2021年の第3四半期においては、株式市場は横ばいだったのに対し、IPO銘柄の平均リターンは、17%(年率)となり、株式市場全般を上回る結果となりました。
  • 投資家のIPOへの関心の高さは、年末に向けて継続し、IPOの5件に1件以上では株式市場全般のリターンの2倍になる可能性があります。
米国IPOの件数と調達金額(四半期)
米国IPOの件数と調達金額 (四半期)

PwC米国による、SEC EDGARにおけるSEC提出書類の分析(2021年9月30日現在)

SPAC

  • 2021年第3四半期には、88件のSPACによるIPOにより、160億ドルが調達されました。これは、2021年第2四半期に比べて、38%の増加となりました。
  • 2021年第3四半期に公表されたSPACの合併は、59件でした。これは、過去最高となった2021年第1四半期におけるSPACの合併件数から20%以上の減少となりました。また、71社のSPACが買収対象会社との合併手続を完了しました。
  • 2021年第3四半期に買収対象会社との合併を公表したSPACは、マイナス1%のリターンとなり、株式市場全般のリターンを下回っています。PIPE(公開企業による私募増資)投資家は、一部のSPACの合併に影響を与える可能性のある課題とSPACに対する監視の強化に直面しています。しかし、SPACと買収対象会社の合併は、2022年も引き続き、株式市場の重要な牽引力であると考えられます。
  • 買収対象会社との合併をまだ公表していないSPACは、約1,200億米ドルの現金を保有しています。
SPACの合併の公表件数(四半期)
SPACの合併の公表件数 (四半期)

Dealogic社のデータをもとにPwC米国が作成(2021年9月30日現在)

ベンチャーキャピタル

  • ベンチャーキャピタル(VC)は、記録的なペースで投資を続けています。2021年第3四半期において、1,239件の案件に580億米ドルが投じられ、そのうち539件は成熟段階にある企業への投資案件でした。
  • テクノロジー企業およびバイオテクノロジー企業が、引き続きVCからの資金の大半を調達しています。人工知能(AI)、データアナリティクス、医薬・ライフサイエンスの分野では、イノベーションは引き続き堅調となっています。
  • 2021年第3四半期のVCの投資の回収は391件で、そのうちIPOによる投資の回収は52件でした。VCの投資の回収のパイプラインは堅調で、評価額10億米ドル以上の成熟段階にある企業が450件近くあります。
  • 次世代のイノベーションがヒューマンエクスペリエンスに大きな変化を起こそうとする中で、ブロックチェーン、オートメーション、ゲノム治療、その他のヘルスケアテクノロジーなどの革新的な技術に対して、VCからの投資が続くと予想されます。2021年初におけるVCの待機資金(ドライパウダー)は、2,700億米ドルに達しています。
投下資本および案件数
投下資本 および案件数

PitchBook社のデータをもとにPwC米国が作成(2021年9月30日現在)

テーパリング(量的緩和の縮小)の発表を狙う債券市場

2021年第3四半期において、米国債券市場では6,220億米ドルの資金が調達されました。雇用統計や企業収益などの好調なファンダメンタルズ、M&Aでの資金調達、レバレッジドバイアウト(LBO)取引、リファイナンスなどによる下支えのため、2021年末にかけて債券市場は拡大を続けると予想されます。米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーは、2021年9月の会議で、経済が予想通り改善すれば、テーパリングを開始すると発表しました。

  • 利上げの可能性に備えて適格発行体が低金利を維持するため、投資適格債券市場では3,160億米ドルが調達され、そのうちの54%が運転資金や営業費用など企業のニーズに対応しています。
  • 米国のレバレッジドファイナンス(高利回り債とレバレッジドローン)においては、2021年のわずか3四半期で1兆米ドル以上を調達し、既に過去最高となる年間調達額を記録しています。
  • 2021年において、高利回り債券市場は、年間で過去最高の記録に到達するペースで推移しています。2021年第3四半期において、高利回りの債券の発行体は、1,080億米ドルを調達しましたが、そのうち業種別にみると消費財・小売業と工業製品業がそれぞれ発行額の23%を占め、320億米ドルの調達額がM&AおよびLBO活動を支えました。
  • 2021年第3四半期のレバレッジドローン市場では1,980億米ドルが調達され、2020年第3四半期と比べて124%の増加となりました。これはインフレと経済成長に対する懸念から、貸手が変動利付債に関心を向けているためです。
  • 10年米国債利回りは2021年6月以来の高水準に近いことから、市場は引き続き連邦準備制度理事会(FRB)の政策に注目しています。
米国債券市場の動向(四半期)
米国債券市場の動向 (四半期)

S&P LCDのデータをもとにPwC米国が作成(2021年9月30日現在)

債券・貸付金利回り
債券・貸付金 利回り

S&P LCDおよびRefinitiv社のデータをもとにPwC米国が作成(2021年9月30日現在)

注:取引額が2,500万米ドル未満のIPO、ベストエフォート方式の売出(best effort offering)、石油・ガス関連ロイヤルティ信託、BDC(Business Development Companies)、OTCブリティンボードまたはOTCピンクシートにおけるIPOの価格設定については、この記事から除外されています。ベンチャーキャピタルのデータは、米国に本社を置く企業を対象としており、最低取引規模が100万米ドル、プレマネーバリュエーションの最低額が500万米ドルとなっています。SEC提出書類および第三者データベースのデータは2021年9月30日現在のものです。

IPOマーケット情報

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主要メンバー

顧 威(ウェイ クウ)

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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坂元 新太郎

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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杉田 大輔

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稲田 丈朗

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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