Global IPO Watch―世界のIPO動向 2022年第1四半期

1. 2022年第1四半期の概要

株式市場およびIPOにとって記録的な年となった2021年を経て、2022年は、IPOの価格決定への懸念や、世界経済および企業の将来見通しへ新たなインフレリスクが与える影響に関する懸念とともに、始まりました。新型コロナウイルスの変異株(オミクロン株)の影響は、予想よりも軽微で、かつ短期に留まりました。にもかかわらずIPO市場では、ウクライナでの戦争前から株価のボラティリティが大きく、IPOが困難な状況にありました。そのような状況のもと必然的に、中国と中東で見られた極めて例外的な案件を除き、多くの市場でIPO活動が実質的に停滞することとなりました。

世界的なパンデミックの中で、株価のボラティリティは2020年の水準へと戻っており、2022年第1四半期末の株価指数は、世界的に2021年12月よりも低い水準となっています。

2022年第1四半期における世界のIPOによる資金調達額は561億米ドルと、コロナ禍前の5年間の平均(323億米ドル)を著しく上回ったものの、2022年第1四半期の欧州・中東・アフリカ地域および米州のIPO活動は世界規模の地政学的状況や経済見通しによって重大な影響を受けました。アジア太平洋地域はより堅調であり、2022年第1四半期の世界全体のIPOによる資金調達額の61%に相当する342億米ドルを達成し、これには下記も含まれています。

  • 中国における182億米ドルの資金調達
  • 韓国における過去最高のIPO(2022年1月に107億米ドルの資金調達)

2020年のIPO活動が新型コロナウイルス感染症の影響により低調であったことを大きく反映して、2021年第1四半期は、世界的にIPO活動が近年において最も好調な第1四半期となりました。

世界全体のIPOによる資金調達額

世界全体のIPOによる 資金調達額

Dealogic社のデータを利用して作成

2. 2022年第1四半期のグローバルハイライト

IPOによる資金調達額(地域別)

IPOによる資金調達額 (地域別)

Dealogic社のデータを利用して作成

アジア・太平洋

2022年第1四半期のアジア・太平洋地域のIPOによる資金調達は、他の地域におけるIPOによる資金調達の推移トレンドと異なっており、主に中国でのIPOによる株式発行が要因となり2021年第1四半期とほぼ同水準となりました。業種としては、テクノロジーおよび消費財が資金調達総額の半分以上を占めました。

欧州・中東・アフリカ

2022年第1四半期の欧州・中東・アフリカ地域のIPOによる資金調達額は、これらの地域内のうち中東がけん引する形で特に多く、2020年第1四半期と比較して顕著に多かったものの、本地域全体では、2021年第1四半期と比較すると200億米ドル(71%)の減少となりました。本地域では、2022年1月と2月のIPOによる株式発行に勢いが見られましたが、この勢いはサウジアラビアを除き、2022年3月初旬に突然に止まることとなりました。サウジアラビアでは2022年3月に4件のIPOにより19億米ドルが調達され、これは2022年3月の欧州・中東・アフリカ地域のIPOによる資金調達23億米ドルの過半を占めました。

米州

米州のIPO市場も2022年1月と2月には勢いがあり、2022年第1四半期の最初の2カ月で124億米ドルが調達されましたが、一方で2022年3月のIPOによる資金調達は15億米ドルに留まりました。米州全体のIPOによる資金調達(139億米ドル)のうち、100億米ドル(72%)はSPACによるものでした。これに対し、前年(2021年)第1四半期のIPOによる資金調達は960億米ドル(63%)でした。

3. IPO上位10カ国

IPOによる資金調達額上位10カ国

IPOによる資金調達額 上位10カ国

Dealogic社のデータを利用して作成

2022年第1四半期は、近年の四半期の中で、中国のIPOによる資金調達額が米国のIPOによる資金調達額を初めて上回った四半期であり、77件のIPOにより182億米ドルが調達されました(2021年第1四半期:には 116件のIPOにより126億米ドルが調達)。IPOの平均規模は2億米ドルでした。

2022年第1四半期の米国のIPOでは139億米ドルの資金が調達され、そのうち100億米ドルはSPACのIPOによる資金調達でした(SPACのIPOに関する詳細な分析については下図参照)。

韓国では、2022年1月に過去最大のIPOにより107億米ドルが調達されました。これは、2022年第1四半期の世界最大のIPOでもありました。

サウジアラビアでは、2022年第1四半期に13件のIPOにより36億米ドルが調達され(2021年第1四半期には2件のIPOにより3億米ドルが調達)、うち14億米ドルは同国のドラッグストアチェーンが調達したものでした。

2022年第1四半期の香港でのIPO活動は低迷し、12件のIPOによる13億米ドルの資金調達に留まり(2021年第1四半期には27件のIPOにより109億米ドルが調達)、2009年以降で最低の四半期となりました。

英国は、2022年第1四半期において10件のみのIPOに留まり、資金調達総額は5億米ドルで上位10カ国には含まれず、21件のIPOにより83億米ドルを調達した2021年第1四半期と比べると、資金調達は大幅に減少しました。

4. SPACのIPO

SPACのIPOによる資金調達額(世界全体)

SPACのIPOによる資金調達額 (世界全体)

Dealogic社のデータを利用して作成

SPACのIPOによる資金調達額(米州)

SPACのIPOによる資金調達額 (米州)

Dealogic社のデータを利用して作成

SPACのIPOは2021年第1四半期において世界のIPOの42%を占めましたが、その比率は2022年第1四半期には22%に低下しました。依然としてSPACの過半数を占める米州地域では、SPACによるIPOと合併(De-SPAC)の公表が顕著に減少しました。これは、合併後の株価のパフォーマンスが相対的に悪化したことに加え、投資家心理も悪化したことにより、SPACにとっての課題が表出したためです。また、SPACは、2022年第1四半期末に公表されたSECの新しい規則案にも対処しなければなりません。

世界全体のSPACによるIPO(64件)のうち、55件が米州で行われました。

米州以外では、

  • 香港初のSPACによるIPOで1億2,780万米ドルが調達されました
  • SPACがアジアの投資家からの関心を集め、シンガポールにおける3件のSPACによるIPOで3億4,550万米ドルが調達されました
  • 欧州ではSPACの活動が続いており、ロンドンで2件のSPACのIPOが行われ、また、フランクフルトとアムステルダムでそれぞれ1件のSPACによるIPOが行われました

世界的に見ても、600超のSPACが依然として買収対象企業を探しており、近年、2,000億米ドルを超える資金がSPACによって調達されています。これは、SPACが2年という期限内にDe-SPACを行う機会を探っていることから、SPACによる調達が著しく可能性の大きなパイプラインとなっていることがうかがえます。

5. IPO後のパフォーマンス

2022年第1四半期 IPO後のパフォーマンス(MSCI指数との比較)
- アンダーパフォームとアウトパフォームの割合

2022年第1四半期 IPO後のパフォーマンス(MSCI指数との比較) - アンダーパフォームとアウトパフォームの割合

Dealogic社のデータを利用して作成

2021年 IPO後のパフォーマンス(MSCI指数との比較)
- アンダーパフォームとアウトパフォームの割合

2021年 IPO後のパフォーマンス(MSCI指数との比較) - アンダーパフォームとアウトパフォームの割合

Dealogic社のデータを利用して作成

2021年には、地域的なバラつきは一部見られるものの、かなりの割合のIPO銘柄のパフォーマンスが世界の代表的な株価指数を下回りました。これは、一つには、市場が好調で株式の評価額が高い時点において株式の発行が好調だったことを反映しています。

IPO後のパフォーマンスの考察を行うには2022年第1四半期のデータのみでは十分でないため、PwCは、2022年の残りの期間についても市場データを引き続き注視していく予定です。しかしながら、IPO銘柄のパフォーマンスの水準についてはおそらく保守的なIPO価格設定を反映し、地域的なバラつきはこれまでのところあまり目立たないように見えます。

6. 2022年の見通し

現時点では、IPOが再び活発化する時期を予測することは難しいように思われます。投資家が直面する流動性リスクの水準は横ばいであるものの、インフレリスクが依然として大きな懸念材料であり、市場における株価のボラティリティが大きく、IPOの価格設定にとって著しい障害となっています。ウクライナでの戦争の終結までの道筋がより明確になるまで、投資家心理に重くのしかかるでしょう。

とはいえ、いくつかの大規模な企業がIPOの最適な時期を窺いつつIPOの準備を進めており、いったん株価のボラティリティが低下すれば、これらの上場予備軍の企業が実際に上場する件数が大幅に増加する結果となる可能性がある、と我々は観測しています。

ESGは株式投資家からの注目度を高め続けており、投資家の投資意思決定において重要な要素となるでしょう。規制当局もESGに着目し始めており、2022年3月、SECは規則の改訂を提案しましたが、この規則改訂案は公開会社が特定の気候関連情報を届出書や年次報告書などに記載することを義務付けるものです。

これらすべての要因を踏まえると、リスク管理、企業・市場の適応力へ焦点がより一層当てられることが見込まれます。

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資金調達を成功させるには、投資家と知り合い、彼らのニーズ、目標、動機を理解する必要があります。本稿では、スタートアップの経営者と投資家双方にアドバイスしてきた経験に基づいて、資金調達を成功させるための10のポイントを紹介します。

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主要メンバー

顧 威(ウェイ クウ)

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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坂元 新太郎

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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杉田 大輔

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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稲田 丈朗

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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