
日系消費財メーカーの「Go global」を考える 第4回 中国におけるライブコマースの変遷
中国で急成長するライブコマースの変遷と、KOLによるLiveコマースを活用して中国市場におけるECの売上拡大につなげるアプローチを紹介します。
2021-05-26
本稿では、企業の諸費用の中で大きな構成比を占め、かつ大きなムダ・ムラが隠れており改善効果の高い「中国での販売促進費」に焦点を当て、費用効率・効果を上げていくためのアプローチを紹介します。中国の複雑な流通構造や取引慣行においては、効果が不明なまま流通に従って販促費を支払ったものの、肝心の売り場に変化がもたらされず販促費が「どこかに消えてしまった」経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか。さらに、「よい商品を作り、流通政策を駆使して売り切る」という日系企業の成功モデルが、中国産製品の品質向上やeコマース(EC)をはじめとしたチャネルの多様化により逆風を受けている現在、販促費のスリム化を図ることは、欧米企業に倣ったブランディング投資の原資を生み出すためにも、待ったなしの状況です。日系企業が陥りがちな典型的な課題を踏まえながら、販促費の改善に向けた目の付けどころを紹介します。
これまで日系消費財メーカーの典型的な中国開拓アプローチは、前述のとおり「品質の高い商品を作り、流通政策を駆使して売り切る」というものでした。これはつまり、売上に占める原価と販促費の割合が大きいことを意味します。かつては市場を席捲したこのモデルが今、逆風を受けています。
商品の品質面ではローカル企業にキャッチアップされてきており、また販促費を投下し(つまり売価を下げて)売り切るモデルも、ECの勃興によりチャネル間で価格が簡単に比較可能になると、全体的な値下げ圧力が強まった結果、「全チャネル安売り」と化してしまっています。つまり、商品が売れない、売れてももうからない、という隘路にはまりつつあるのです。
この逆境から抜け出すには、これまで欧米企業に比べ投資規模の少なかった「広告宣伝費」を拡大することでブランド力を高め、(流通ではなくその先の)消費者から選ばれるメーカーとならなければならないと筆者は考えます。そのための原資を生み出すために、20-30%と大きな売上構成比を占め、やり方次第で一気にムダ(贅肉)取りを実現できる「販促費」の改革が待ったなし、なのです(図表1)。
では、日系消費財メーカーが中国において販促費の筋肉質化に取り組む上で、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。その目の付け所を整理したのが図表2となります。視点は、1.そもそも流通に際して支払う謂(いわ)れのない支払いは行わないし、2.支払ったお金についてはしっかり元を取る(販促費の効果を高める)、3.社員や得意先に不正に着服されている可能性をなくす(不正余地を無くす)、という3点です。特に1と3は、いずれもアジアの新興国では起こりがちで、中国においても度を越した支出を強いられている日系企業が多く存在します。以下、順に解説していきます。
ここでは例として、「片務的契約」について説明します。図表3に例をまとめました。小売企業と不平等な契約を結ばされ、同企業の言いなりに、ムダな販促費を支払い続けるケースは多く存在します。
片務的な契約は、販促費というよりは小売企業の利益補てんの片棒を担がされているとも言えるため、断固として拒否もしくは支払い基準を変更する必要があります。具体的な対策として、際限なく請求されないためにも、何に対してどんな基準で、どんな証拠に基づいて販促費を決め、支払うのかを小売企業側と明確にし、合意する必要があります。図表3を見て思い当たる節がある場合は、販促費の主導権を自社に取り戻すための決意を固め、そのための交渉に断固として取り組むべきです。
一方で、上記のようなすぐに改善に着手すべき(法律上も問題があるような)片務的契約の他にも、さまざまな名目で小売企業に支払っている費用が存在します。変動費的な部分、つまり店舗の配荷や露出スペース、商品の値下げに応じて支払う費用はよいとしても(ただし無駄があるのも事実で、その効果を高める工夫は次の2でお話しします)、固定的リベート、つまり新店費、商品管理費、継続契約リベートなど、支払っても売り場の変化、つまり売上向上には一向につながらない費用を、さまざまな名目で支払わされているケースも存在します。固定的なリベートをいくら支払っても販促費率が上がる一方で売上は変わらないので、ボトムラインの低下という形で自社に跳ね返ってきます。欧米の大手企業は、この固定的支出を限りなくゼロに抑えることで、高い利益率や旺盛な広告宣伝費投資につなげています。
この固定的リベートを削減するための、小売企業との効果的な交渉アプローチを紹介します。それは、変動リベートも含めた先方のリベート(利益額)の総額に着目し、その金額は変えることなく、中身を変えていくやり方です。つまり固定的リベートを変動費的リベートにスイッチし、かつバイヤーの粗利が最大になるような商品構成や価格の提案をするのです。結果として、自社の固定リベートを削減しつつ、小売(バイヤー)の全体利益と自社売上を拡大させるWin-Winの成長シナリオを描くことが交渉の肝となります(図表4)。
中国における小売企業は、商品の販売利益と同時に、メーカーからのリベートで稼ぐ「不動産業」としての側面も強いのが特徴です。バイヤーが何かにつけ交渉力の弱いメーカーに販促費を多大に要求しようとする傾向が見受けられます。店長の仕入れの裁量権が比較的強いこともあり、結果としてSKU登録費、陳列費、イベント実施費などさまざまな名目で販促費を取られる一方で、店頭実現度はおしなべて低いのが実態です。図表5は中国における低い店頭実現率を表したものですが、FMCG(Fast Moving Consumer Goods)を取り扱う企業の幹部の80%が、低い店頭実現率のために毎年1-5%程度の売上損失が発生していると認識しているのは驚きです。店頭実現率向上に向けた改革に取り組めば、販促費の削減・適正化に加え、売上向上にもつながるということが見て取れます。
この課題を解決するために重要なのが、中国の全重要店舗の店頭状況が、本部商談における決定どおりになっているかをモニタリングすることです。具体的な課題さえ特定できれば、営業担当者に指示して改善することもできますし、小売企業側の都合で改善できなれば販促費の払い戻しを要求することも可能です。とはいえ、中国の国土は広く、店舗は至る所に散らばっており、一つひとつの店頭の写真を撮るだけでも膨大なコストが掛かりますし、販促がきちんと実施されているかを写真で目視してチェックするとなればなおさらです。確認漏れや虚偽報告が引き起こされる恐れもあり、決してお勧めはできません。
ここで、効率的に店頭売り場を可視化し、成果につなげていくためのポイントを図表6に明示します。
まずは大前提として、「重点SKU配荷」「棚割シェア」「特売実施」などのKPI(Key Performance Indicator)をセットします。この際、「棚割シェア30%」など、本部商談の結果に基づき店舗別の合格基準を具体的に明示することが必要です。いたずらに本部商談で決まってもいない理想的なシェア(棚割100%など)を掲げ、店舗で実現できていないことを問い詰めても、現場を困らせるだけでしょう。ここでは、各営業担当者が確実にクリアすべき数字に落とし込むことが必要です。
次に、実際の店頭売り場の写真を撮影します。このステップは、クラウドソーシング会社を起用し、低価格に抑えることを考えるべきです。写真を撮ることが重要ですので、従業員の手間を発生させるのではなく、店舗の近くの住人を起用するといった方法が有効です。
次は、撮影した売り場写真をもとにKPI達成率を可視化するステップとなります。ここでは、先述のように目視でチェックすると時間も費用も際限なく掛かり、かつ誤判定なども頻繁に生じる可能性があるので、人工知能(AI)によりKPI合格率を自動判定する仕組みを導入することをお勧めします。導入当初は5-10%程度の誤答が生じますが、機械学習により2・3カ月後には100%に近い正答率を達成することが可能になります。この結果をダッシュボードで明示しつつ、現場レベルでの「店舗×SKU」単位での改善活動を実施・フォローしていくのです。
このように、クラウドソーシングサービスや最新テクノロジーを駆使しながら効率的に店頭売り場を可視化し、課題を解決していくことで、支払っている販促費の歩留まりを改善し、投資利益率(ROI)を高めていくことができます。こうした一連の流れを自社のみで行うのは至難の業ゆえ、外部の専門家に委託し、虚偽報告などのリスクを抑えながら、AIなどテクノロジーの導入をスピーディーに行うのが有益でしょう。
消費財メーカーにおける販促費を巡る不正にはさまざまなケースが見受けられます。例えば、「キャンペーン企画費を支払ったが、実際には実施されず販促費だけを着服される」「特売期間中のPOSが実際より水増しされ、価格補てん販促費を多めに請求される」などが代表的です。これらは実は、小売企業の担当者と自社営業担当者が結託して行われるケースが少なくありません。つまり、自社の営業担当者が申請書類や写真を偽造することで「計画どおりに販促が実行された(請求額が正当である)」と見せかけることに協力する代わりに、販促費の数%を小売企業からバックしてもらうのです。特売期間中の販促費補てんは、大規模な小売企業であれば数億円に達します。売上の過大報告などでその5-10%が差し引かれるとなると、すぐに数千万円単位の損失になってしまいます。
一連の不正対策として、商品にQRコードを付けたり、在庫棚卸を徹底したりして「カネとモノの流れを可視化する(ブラックボックスを無くす)」ことや、証憑や証拠を提出しないと支払いを行わないルールとするなど、「監査機能を強化する」ことがポイントです。後者は、視点2で紹介した、決まった販促が店頭できちんと実施されているかを現地現物で定期的に確認し、実施していない場合は販促費を支払わない(返金を求める)ことが該当します。
また、不正を根本から絶つために、組織体制・機能配置、組織風土、人材マネジメントなど、不正を生み出す構造に焦点を当て、経営手法・コンセプトそのものを見直すことも不可欠です(図表7)。
例として、「不正を起こす気を無くす」ための評価・報酬制度デザインについて考えてみましょう。多くの日系企業が、「全員平等」の報酬マネジメントを中国でも展開しています。これは雇用の安定を生み出す一方で、「低い手取り」を補うために、現場の従業員が日常的に不正・横領に手を染めやすくもしてしまっています。つまり、給与補てんの位置付けで不正が発生しているのです。
一方で、欧米企業や中華系企業においては、営業担当者の報酬システムを変え、望ましい行動を後押しするための制度をデザインしています。欧米企業は、社内外の監査チームの設置、QRコードでの納品先の徹底管理などにより、営業の活動内容を可視化した上で、KPIの達成度により基本給の50%以上にも及ぶ成果給を支払うといった内容です。一方で、不正が見つかった場合は厳罰(減給・解雇)を実施するなど、成果に応じた信賞必罰を徹底するのです。
一方で中華系企業の中には、真面目に行動したほうが得をするインセンティブ制度を設計している例があります。利益目標を上回って達成した金額は全て営業担当者に還元することで、リスクを冒して販促費を不正に着服することに時間を掛けるのではなく、正面から提案営業をしたほうが実入りが多くなるように仕向けているのです。このように、評価報酬制度を再設計し、「不正したら損」「真面目に活動したほうが得」というカルチャーを根付かせることが、不正を無くす最も効果的な水際対策となります。
以上、販促費の筋肉質化に向けた3つの視点を解説しました。本稿を参考に、ぜひ自社の販促費の支払い方・使い方をゼロベースで見直し、消費者創造に向けてのブランド投資の原資を作っていただければ幸いです。なおPwC Japanグループは、中国の消費財インダストリーに精通したコンサルティングとリスクアシュアランスのメンバーが、販促費マネジメント強化に向けた現状分析から改革構想、実行計画作成までを現場と一体で支援しています。ご興味があればぜひお問い合わせください。
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