
日系消費財メーカーの「Go global」を考える 第4回 中国におけるライブコマースの変遷
中国で急成長するライブコマースの変遷と、KOLによるLiveコマースを活用して中国市場におけるECの売上拡大につなげるアプローチを紹介します。
2021-06-23
ASEAN(ここではシンガポール、タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピンを指す)において、同地域横串でのプロモーションの開催や広告リソースの獲得、ASEANの消費者データの解析からインサイト導出などを通じて同地域におけるスピーディーなブランド浸透・成長を実現する手立てとして、Regional ECプラットフォーマーとのパートナーシップが近年、注目を集めています。ASEAN市場でさらなる存在感を発揮したい場合、ASEAN全域でeコマース(EC)を展開するRegional ECプラットフォーマーとタッグを組むことを考えられる日系消費財メーカーは少なくないのではないでしょうか。
Regional ECプラットフォーマーにとっても、高単価・高品質の商品を持つ日系企業と協業することはメリットが大きく、双方にとってビジネスを拡大できる可能性は大いにあると言えるでしょう。ただし、そこで日系企業にとって課題になるのが、戦略討議の不足です。具体的には、Regional ECプラットフォーマーの本社にアプローチした上で、両社が協業してASEAN横串でいかに売上を伸ばすか、という俯瞰的な視点が欠けがちになってしまうのです。
伝統的に各国支社(Local)の権限が強く、地域全体(Region)としての機能が弱いと言われる日系企業。ウィズコロナ/アフターコロナにおけるASEAN市場を制するために、日系企業にフィットするRegion統括機能を早急に立ち上げ、Regional ECプラットフォーマーとの連携を強化するにはどうすればよいのか。本論考では、そのためのアプローチを考えます。
ASEANは、中国に比べれば購買のEC化はまだ進んでいませんが、近年、中国以上に速いペースで成長しています。2015年の市場は55億米ドルでしたが、2019年には382億米ドルまで到達しています*1。コロナ禍によりEC市場が活況を呈する昨今、この勢いが今後も続いていくのは確実と言えるでしょう(2025年は1,530億米ドルにまで成長するとの予測も出ています*1)。
ASEAN ECの特徴は、ASEAN各国に拠点を持つRegional ECプラットフォーマーが存在することです。このRegional ECプラットフォーマーにおける本社(HQ)とLocalの役割と保有リソースの違いを説明したのが図表1です。各国のLocal拠点では各々のマーケットでEC売上を最大化すべく活動しつつ、HQレベルでは限られた企業を「グローバルパートナー」として選定し、グループ対グループの付き合いを通じてASEAN横串の販促枠、データ、検索時の表示のされやすさなどを優先して提供することで、お互いにASEAN全体でスピーディーに成長することを狙う、といった動き方をしています。
企業はRegional ECプラットフォーマーとグループ対グループで取り組むことで、具体的には以下の3つをメリットとして期待できます。
1.ASEAN一帯でのブランド成長(ウィズコロナ/アフターコロナにおけるEC化率上昇への備え)
2.ASEAN未発売の商品カテゴリのスピーディーな浸透
3.デジタルトランスフォーメーション(DX)の「受け皿」強化
上記により、ASEANにおけるスピーディーな売上拡大やブランド浸透の実現性は高まると考えられます。
しかしながら、日系消費財メーカーがRegional ECプラットフォーマーと上記のような取り組みを十分に行えているかというと、必ずしもそうとは言い切れません。その理由は、市場開拓フェーズの成功モデルである「Local主導」から脱し切れていないことにあると筆者は考えます。
これまで多くの日系消費財メーカーは、各国市場の顧客ニーズや商習慣に根差した形で、リアル店舗を中心に市場を開拓してきた経緯があります。そのため、重点ブランド/チャネル、商品パッケージ、卸売を行う業者などは、Localごとに異なるのが実情です。ただし、Regional EC プラットフォーマーと密に取り組んでいく上では、Local各国を横串でサポートし、共通の見解や情報のもとでマーケティング活動を統括する機能が重要ですが、こうした機能がASEAN内に不在か、存在したとしてもリソース・ノウハウ共に十分とは言えない日系消費財メーカーは少なくありません。これにより、Regional ECプラットフォーマーのLocal拠点と各国単位で密に付き合うものの、HQが保有するデータにアクセスできていなかったり、HQだからこそ持ち得るバイヤーとの交渉力を活用できなかったりし、結果的に、グループ対グループで本来得られるであろうチャンスをロスしてしまっている可能性があるのです(図表2)。
前述のとおり、Reginal ECプラットフォーマーが存在するASEANのECチャネルにおいては、自社で「Region横串」での統括機能を強化したほうが、享受できるメリットは大きいと考えられます。では、具体的にどのような方針で強化すればよいのでしょうか。図表3は、企業とRegional ECプラットフォーマーの関係性をパターン化したものです。
筆者が見たところ、多くの日系消費財メーカーは、現状はパターン0かパターン1に留まっています。パターン0は、ほぼLocal同士の関係構築に留まっており、Regional ECプラットフォーマーのHQにアクセスできていない状況です。パターン1は、ASEAN統括役員などがHQを半期に1回程度表敬訪問するレベルで、パターン0よりはよいものの、具体的な「果実」を得られることは多くないでしょう。欧米のグローバル消費財メーカーのいくつかはパターン3のように、シンガポールのRegion統括主導でHQと商談して売上計画やマーケティングプラン、販促内容など大枠を決定し、それを各国に指示・命令の形で落とし込むスタイルを採用しています。ではこのパターン3を日系消費財メーカーも導入すべきかというと、必ずしもそうではありません。Localの遠心力が強い日系企業でこれを採用した場合、現場の反発が予想され、無理に導入しても、Localにおける柔軟な戦略・戦術決定という日系企業の強みを逸する結果となりかねません。日系企業にフィットすると考えられるのはパターン2です。これは最低限のRegion統括スタッフを配置し、彼らが週次でRegional ECプラットフォーマーのHQと商談し、各国の間に立って売上・マーケティングプランを調整しつつ、HQしか保有していないデータや横串販促枠などのリソースを獲得してLocalに提供する、といった役割を果たすパターンです。HQから獲得したリソースの具体的な使い方はLocal各国に一任し、Region統括はあくまでHQとの調整役・アシスト役に徹します。パターン3を「Local統制型」とするなら、パターン2は「知見・リソース提供型」と呼べるでしょう。日系企業においては「強い」統括より「役に立つ」統括となることが、Localにスムーズに受け入れられると筆者は考えます。また、パターン3よりも統括機能の立ち上げに多大なリソースを必要としないというメリットもあります。
なお、このパターン2においてRegion統括が具備すべき機能を整理したものが図表4となります。
Localに対して価値を提供し、ASEAN全体のEC成長に貢献するためには最低限、1.Region横串での交渉機能、2.Region施策企画・実行機能、3.CoE(Center of Excellence)/オペレーション集約機能を具備する必要があります。ただし、Region統括機能立ち上げの初期段階では、ASEANにおける営業やマーケティング経験のある人材を2・3名配置すれば十分です。各国に対する「お役立ち体験」を積み上げ、信頼関係を構築しながら、徐々に現場のニーズや要望に応じて機能を拡大していく形がスムーズでしょう。
最後に、Region統括機能立ち上げに向けた検討の進め方を紹介します。まずはLocal単体でそれぞれに活動することで生じているデメリットを整理し、それらを克服するためにRegion統括機能に何が求められるかを構想します。具体的には、具備する機能、体制、商品販売機能を持たせる場合の商流・物流、ビジネスケースなどの検討が考えられます。通常は、これに2カ月程度を要します。その構想に沿って、2・3カ月程度かけて年度計画/KPI(Key Performance Indicator)/業務フローの詳細化、Regional ECプラットフォーマーとの条件交渉、パートナー企業の選定・契約などを順次実施し、検討開始から最短4・5カ月での機能立ち上げを目指していくのがよいでしょう。
ASEANでのECチャネルを活用したスピーディーな市場浸透・売上拡大の実現に向けては、ASEANを「面」で捉え、Region統括機能ならびにRegional ECプラットフォーマーとの関係を強化することが重要です。まずは、すぐにでも各国拠点の責任者との討議を開始されてはいかがでしょうか。
中国で急成長するライブコマースの変遷と、KOLによるLiveコマースを活用して中国市場におけるECの売上拡大につなげるアプローチを紹介します。
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