2016-06-27
コンサルティングの職業は、仕事のボリュームが多い一方で、短納期と高品質を両立させることを求められる機会が多いという特性があります。このため私自身は常々、時間の使い方に悩んできました。時間の使い方をもっと上手にできないか――その一心で、関連する書籍や雑誌を読みあさったり、手帳や文具、テクノロジーガジェット、Webやスマホのアプリなど、さまざまなものを試したりしてきました。これらの媒体では、時間の効率的な使い方のガイドとして、重要度と優先度のマトリクス(下図)に基づいて自分の割り振る時間を意思決定していくことが重要であると、頻繁に指摘されています。
このマトリクスですが、私の記憶が正しければ、少なくとも10年以上は同様の概念が世の中で言われています。しかしながら、働き方についての意識が高い一部の層には浸透している概念ではあっても、この概念が組織全体に浸透している企業をいまだかつて見たことがありません。実際のところ、企業の大多数の人々――特にミドルマネジメント層は、業績を上げるために必要となる長期的な取り組みにはほぼ時間が取れておらず、日々発生している急ぎの用件やトラブル対応に時間を奪われている状況ではないでしょうか。
このような多忙ではあるものの本来の目的に沿った行動を行えていない状態は「アクティブ・ノンアクション」と呼ばれています。(注1)
もし仮に、企業のあらゆる層において日々追われている雑多な業務から解放され、長期的な取り組みのための時間を取ることができたら、業績へのインパクトはどうなるでしょうか。一度、真剣に考えるべきテーマだと思います。
前々回、前回とキーワードを紹介していた「業務時間のスマート化」は、前述のマトリクスに基づき、業績に貢献しない取り組みに要している時間を最小化(Minimize)し、緊急度が高く業績に貢献する取り組みに要している時間を効率化(Optimize)することで、業績向上のために長期的に取り組むべき仕事の時間やアウトプットを最大化(Maximize)していく、というアクティブ・ノンアクションから脱却するための考え方です。
このスマート化のアイデアはシンプルです。しかしながら、いざ組織的に実行しようとしても、やはり優先度の高い仕事に流されてしまう人が多々発生し、頓挫してしまいがちです。
それはなぜなのか。次回は、この点について掘り下げたいと思います。
注1: ハイケ・ブルック、スマントラ・ゴシャール 著、野田 智義 訳「アクション・バイアス: 自分を変え、組織を動かすためになすべきこと」(東洋経済新報社)より
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
井手 健一