経済成長の停滞が中長期的に続く日本において、再び経済を成長軌道へ戻すため必要な産業構造転換とは

日本の文化創造産業の発展に向けた政策手法とエコシステム(序章)

  • 2025-03-11

日本経済の成長に不可欠な産業構造転換

少子高齢化をはじめとした内需減に伴い、日本の経済圏は縮小の危機に瀕しており、外需獲得の拡大なくしては事業者レベルでの経営環境も一層厳しさを増すと考えられます。

外需獲得の方法として、輸出または海外への展開が考えられます。近年の輸出額は停滞傾向にあります(図表1)が、海外事業展開※1は製造業/非製造業問わず総売上高や経常利益額などで右肩上がりの成長をしているとされ、事業者の高収益構造実現に寄与するとされています。

図表1:国内事業者の輸出額推移

しかしながら、GNI(Gross National Income:国民総所得)※2や名目GDP※3は双方同様に停滞あるいは縮退傾向(図表2)にあり、現時点では、海外展開による外需獲得の寄与は限定的と想定されます。したがって、さらなる外需獲得の拡大に向けた一層の対外競争力強化、例えば高付加価値化が必要です。個別事業者はDXなどを通じ、高付加価値化/低コスト化を推し進めているものの、一層の付加価値化を実現するために産業間連携を見据えた外需開拓の仕組み構築、すなわち産業構造転換の必要性が高まっています。

図表2:日本におけるGNI, GDP推移

産業構造転換の鍵は文化創造産業の活用

産業間連携により外需獲得の拡大を目指す際、産業間の掛け合わせ効果を最大化する「高い経済波及効果」と、対外競争力を担保する高付加価値化の源泉となる「唯一無二の価値」が必要となります。

この観点で産業を俯瞰した際、文化創造産業は「高い経済波及効果」(図表3)と「日本文化を根源とする唯一無二の価値」を兼備する特性があり、掛け合わせ先の産業が限定されません。したがって、既存産業の広範に対して外需獲得を促進するポテンシャルがある※4と言え、各産業の外需開拓加速に向けた産業構造転換上、鍵となりえます。

図表3:文化創造産業の経済波及効果

諸外国事例に見る、日本の文化創造産業の振興に向けたキードライバー

日本が金融・非金融面において種々の課題を抱える中、製造業を主軸とし少子高齢化に直面する日本と経済/社会的環境の近しい英国、フランス、ドイツ、韓国では、文化創造産業を起点にした産業構造転換により経済成長を成し遂げています※6
これらの国々における主な取り組みとして、産業構造転換に向けた投資対象領域を絞り込み、各領域に必要な資本蓄積と産業規模を明らかにしたうえで、その実現のための公的投資・支援を戦略的に計画・実行していたことが挙げられます(図表7)。

図表7:諸外国事例に見るキードライバーの方向性

日本の課題と比較した際、金融面では対象産業を定め、あるべき産業規模から逆算した戦略的投資を実行している点、民間からのリスクマネー供給増加を狙った複層的金融支援を展開している点で特徴的です。また、非金融面では整備した公的支援などの活用最大化を狙った窓口機能の集約、民間事業者と連携した商流構築や、官民連携を促進する人財育成等が特徴的です。

これらの諸外国事例から、日本の文化創造産業は図表8に示す6つのキードライバー※6により創成・拡大すると考えられます。

図表8:日本文化創造産業の創成・拡大に係るキードライバー

序章では、日本のおかれている経済的環境とともに、外需開拓拡大における文化創造産業の有用性と当該産業の創成・拡大に向けた課題/キードライバーを整理しました。本章では、文化創造産業の特性とキードライバーを基に、当該産業の創成・拡大をどのように行っていくべきかを論じます。

出所

※1:経済産業省「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」
※2:World Bank Group, 2025. “GNI (Current US$)” Accessed February 1, 2025. https://data.worldbank.org/indicator/NY.GNP.MKTP.CD
※3:World Bank Group, 2025. “GDP (Current US$)” Accessed February 1, 2025. https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD
※4:Strategy&「メディアミックスのパワーと可能性
※5:金融庁「主要国のリスクマネー供給に係る実態・規制等に関する調査報告書 」
※6:経済産業省「令和4年度海外需要拡大事業 文化経済領域等の海外需要開拓に係るリスクマネー供給の実態調査 調査研究報告書」

主要メンバー

岡村 周実

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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川埜 裕介

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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