
公共財としてのデジタル行政とGovTech産業の可能性――日本が旗振り役を務める「ルワンダ・モデル」を携え、世界進出へ
発展途上国が段階的な発展過程を跳び越えて急成長する「Digital Leapfrog」(蛙の跳躍)現象を巡る考察を足がかりに、ルワンダで推進する「デジタルイノベーション促進プロジェクト」の意義や今後の展開について論じ合いました。
序章では、外需開拓拡大に向けた文化創造産業の活用可能性とその実現に向けたキードライバーを整理しました。本章では、文化創造産業の特性とキードライバーを踏まえ、当該産業をどのように創成・拡大するべきかを論じます。
序章では文化創造産業の創成・拡大に向けた6つのキードライバーを整理しました(図表1)。他方、キードライバーの実現に向けては、文化創造産業の特性を踏まえた創成・拡大の流れを捉える必要があります。
図表1:日本の文化創造産業の創成・拡大に係るキードライバー
従来の基軸産業、例えば製造業ではケイレツ構造の現地移植を通した海外展開、すなわち「縦型閉鎖系」での外需獲得が主に取られています(図表2)。
図表2:日本における伝統的基軸産業の海外展開(縦型閉鎖系)
一方、文化創造産業における海外展開では、事業者が多くの需要者とプラットフォームを介してつながり外需獲得を進める「横型開放系」であり、製造業等と海外展開におけるビジネススキームの異なる特性があります(図表3)。
図表3:文化創造産業の海外展開(横型開放系)
さらに、文化創造産業では当該産業の有する高い経済波及効果とプラットフォーム間の相互送客・誘客機能との親和性の高さを活かした「顧客たすきがけ戦略」により、一層効果的な外需獲得拡大を図れる点も挙げられます(図表4)。
図表4:文化創造産業の海外展開(横型開放系)
文化創造産業と製造業に代表される従来の基軸産業を対比すると、産業構造とそれに伴う海外展開方式が全く異なることがうかがえます(図表5)。よって、公的機関主導で外需獲得の拡大施策を打つ際に必要な財政投融資の在り方も異なります(図表6)。
図表5:従来の基軸産業と比較した文化創造産業の特徴
製造業を例にとると、ケイレツ構造の移植、すなわち縦型閉鎖系で海外展開が行われるため、展開後のキャッシュフローを見積もりやすいと想定されます。そのため、多額の設備投資を伴っても個社へのデットファイナンスが外需開拓促進に向けて有効に働きます。
他方、文化創造産業はステークホルダーが多様である横型開放系で海外展開を行うため、流通の結節点となる「準公共財としての」プラットフォーム投資が重要となります。また、複雑なステークホルダー構造に起因し、外需開拓にあたってキャッシュフローの見えにくい点もあり、必ずしもデットファイナンスを行えば外需獲得が促進されるわけではありません。したがって、個社の外需開拓支援に向け、将来的な返済義務を伴わないエクイティファイナンスも有効に働くと考えられます。
図表6:文化創造産業の海外展開を促進する財政投融資の在り方
文化創造産業の産業特性を踏まえると、創成段階ではプラットフォーム整備や民間投資機関が参入しづらいエクイティファイナンスなどの観点で公的支援の必要性が大きく、産業として活性化した段階からは民間投資・民間主導での成長が促進されると考えられます。このため、文化創造産業は公共主導フェーズと民間主導フェーズの2フェーズで創成・拡大すると考えられます(図表7)。
図表7:文化創造産業の創成・拡大に必要なフェーズ
公共主導フェーズにおいては、産業創成の基盤整備という観点で行政・公的金融機関の主体的働きかけが不可欠であり、したがって必要な施策はプラットフォームなどへのリスクマネー供給など、外需開拓を行う事業者層への直接的支援が中心となります(図表8)。
図表8:公共主導フェーズにおける必要施策とエコシステム理想図
一方、民間主導フェーズにおいては、行政・公的金融機関からの働きかけを最適化し、民間マネーの供給加速に向けてファンドへ投資信託するFund of Funds(FoF)などを活用することが重要です。また、直接的支援内容の最適化と、外需開拓を支援する民間事業者等への支援、すなわち間接的支援の重層化を通して、当該産業を拡大することが好ましいと考えられます(図表9)。
図表9:民間主導フェーズにおける必要施策とエコシステム理想図
関連レポート
発展途上国が段階的な発展過程を跳び越えて急成長する「Digital Leapfrog」(蛙の跳躍)現象を巡る考察を足がかりに、ルワンダで推進する「デジタルイノベーション促進プロジェクト」の意義や今後の展開について論じ合いました。
JICAからガバナンス・平和構築部 STI・DX室の山中敦之国際協力専門員と浅沼琢朗職員、KICから副学長の内藤智之特任教授をお迎えし、「ルワンダ共和国」におけるガバメントテクノロジー(GovTech)産業の創出と行政デジタル化の取り組みついて語り合いました。
PwCコンサルティング合同会社と神戸情報大学院大学は、国際協力機構より、ルワンダ国向け技術協力プロジェクト「デジタルイノベーション促進プロジェクト(Rwanda Digital & Innovation Acceleration Project)」を受託し、2022年7月1日に支援を開始しました。