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健康寿命の延伸や持続的な社会の構築に向けて健康予防の重要性が広く訴えられる中、日本では個人レベルでの健康意識の高まりが多少は見られるものの、グローバルの中で諸外国と比較すると、その健康意識は相対的にいまだ低い水準にとどまっています。GfK ジャパン社の調査によると、健康予防に直結する睡眠・食事・運動の3要素のうち、日本人の睡眠への関心の高さは他の17カ国1と同等ですが、食事と運動については、ここ数年で大きくその意識は高まったものの、依然15~20%の開きがあります。また、家族や友人とのコミュニケーションによって得られる健康、スキンケア、理美容といった身体的および精神的な健康に関する項目においても、日本人の関心の高さは相対的に低くなっています。
がんや心不全などの重疾患の罹患後、社会活動や通常生活に復帰するためや、生活の質の低下を予防するために行われるリハビリテーションも、健康予防の一環として重要な活動です。具体例を挙げると、心疾患罹患後の生活の質を改善させる効果が医学的に認められているリハビリテーションへの参加率は、グローバルでも向上が求められています。米国での試算によると、この心臓リハビリテーションへの参加率を20%から70%まで上昇させることができれば、1年間で2万5,000人の死亡と18万人の入院を予防できるとのことです。日本における心臓リハビリテーションの参加率は、罹患後入院中は40%と高い一方、退院後外来ではわずか7%にとどまっているという調査結果もあります2。この結果によると、参加を妨げる要因として、そのための費用や時間がとれないことが挙げられています。
これらの調査結果や研究結果を見ると、人々が健康意識を高め、健康予防活動に参加し続けるためには、経済的、心理的な動機付けをいかに行うかが重要であると考えられます。国内でも厚生労働省や経済産業省、関連学会が健康予防の啓発を行っていますが、さらに踏み込んで動機付けを行うためには、健康予防に資するヘルスケア製品・サービスを、そのための重要な設計要素として捉える必要があります。
ヘルスケアに係る製品およびサービスの利活用を拡大させるため、金銭的なインセンティブを付与する事例が増えてきています。例えば、企業の健康診断情報を管理するスマートフォンアプリの事例では、歩数に応じてポイントが付与され、ギフト券と交換できる仕組みが導入されています。
また健康予防に取り組むことで楽しくなる、心が豊かになる、人々と共感するといった心理的なインセンティブをヘルスケアに係る製品やサービスに導入することも、健康予防への動機付けを高めるために必要な要素です。うれしい、楽しいなどポジティブな感情が得られる体感型のサービスを提供する、心が豊かになるヘルスケア製品を開発する、といった視点が企業に求められるのではないでしょうか。以下、特徴的な3つの事例を紹介します。
健康寿命の延伸に向け、人々の健康意識を高め、健康予防の行動につなげるべく、ヘルスケア製品・サービスに心理的な動機付けを導入するという視点は極めて重要です。本稿では、ツーリズム、ゲーミフィケーション、コミュニティという切り口で事例を紹介しましたが、そのような要素を軸に利用者体験をデザインすることが、製品やサービスの普及に直結すると考えられます。
また、ヘルスケアに係るいくつかの製品・サービスでは、それらを通じて得られた体験をデータとして提供しています。実際にこのデータを利用することで、それらの製品やサービスがどのように健康予防に寄与したか、またどのようなリスクを生じさせたかについての検証も進められています。こうした科学的検証を適切に行い、結果を利用者や社会と共有する枠組みをつくることも、製品やサービスの信用を高めることにつながります。データに基づいて製品やサービスの質を継続的に向上させることは、100歳時代のヘルスケア社会を構築する上で重要な要素の1つといえます。
1:17カ国とは アルゼンチン、オーストラリア、 ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、メキシコ、オランダ、ロシア、韓国、スペイン、英国、米国
2:https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf