これからの病院経営を考える 第2回 新たな「公立病院経営強化プラン」策定のポイント

2022-02-24

公立病院の改革・経営強化を促すガイドライン策定経緯

公立病院の多くは経営状況の悪化や医師不足などにより、医療提供体制の維持が極めて厳しい状況にありました。この問題に対して総務省は2007年に(1)経営の効率化、(2)再編・ネットワーク化、(3)経営形態の見直しを軸とした「公立病院改革ガイドライン」、2015年には上記3点に「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」を加えた「新公立病院改革ガイドライン」を公表し、公立病院改革を促してきました。

これを受け、公立病院改革ガイドライン公表後の2008年から2020年の間に全国84の病院が独立行政法人化し、また42の病院が指定管理に新たに移行するなど、経営形態の見直しが進められてきました*1。また、近年では、人口減少や少子高齢化に伴う医療環境の変化に加え、地域医療構想の実現に向けた医療機関の再編支援策や医師の時間外労働規制への対応といった医療政策が矢継ぎ早に公表され、公立病院を取り巻く環境は一層変化が進んでいます。さらに、昨今の新型コロナウイルス感染症対応においては、公立病院の役割の重要性が改めて認識され、病院間の役割分担などを平時から進めておく必要性が浮き彫りとなってきました。

これらの課題を踏まえ、持続可能な地域医療提供体制を維持・確保するため、地域医療を支える公立病院の経営強化に向けた新たなガイドラインが策定されることになったのです。

これまでの公立病院改革ガイドラインと何が違う?4つの視点

2021年12月の時点では、新たなガイドラインの方向性として①機能分化・連携強化の推進、②医師・看護師等の確保、働き方改革の推進、③経営形態の見直し、④新興感染症に備えた平時からの見直し――の4つの視点が示されています。このうち、②の働き方改革の推進、④新興感染症に備えた平時からの見直しについては、これまでの改革プランに係るガイドラインでは言及されていませんでした。つまり、現在の取り組みを新たに整理し、今後の方針を整備する必要があるということです。

また、今回のガイドライン策定に至るまでの議論の経過を追っていくと、新たに盛り込まれることが想定される項目も見えてきます。例えば、③経営形態の見直しに関して言えば、将来的には地方独立行政法人化への移行を強く促すような議論も見られ、漫然と一部適用を採用し続けている公立病院は、一部適用であり続ける理由を明記しなければならない可能性も出てくるのではないかと推察されます。この他にも同様に、ポイントごとに新たに盛り込まれると考えられる内容があります(図表1参照)。

図1) 新たなガイドラインの方向性で示されたポイントおよびPwCの見解

改革プラン作成における「よくある落とし穴」

これまで改革ガイドラインの経緯やポイントを見てきましたが、ガイドラインを理解しさえすれば、実行力のある改革プランを作成できるというわけではありません。これまでに公立病院の改革プラン策定業務を数多く支援してきた経験上、「よくある落とし穴」として次のような点が挙げられます。

(1)最初に着手すべき点が分からず、前回作成プランの焼き直しに終始する

プロパー採用でない限り、公立病院では人事異動により事務職員が2年ないし3年で入れ替わる場合が多くあります。そのため、着任して間もないにも関わらず、改革プランの作成を進めなければならない立場に置かれるケースが多く、何から着手して良いか分からない状況に陥りがちです。このような状況下においては、本質的な議論に至ることなく、前回作成した改革プランの分析をなぞり、言葉を置き換えることに終始する、KPI(業績評価指標)として確実に達成が見込まれる事項のみを設定する、といった形式的な作業で済ませてしまいがちになります。これでは実行力のある改革プランは作成できません。

(2)将来の病院経営を担う人材が関与していない

改革プランの作成を単なる作業と見なしてしまうと、作成担当者として誰が適任なのかを深く考えずにアサインしてしまうといった事態が生じます。つまり、現在または将来の病院経営を担うべき人材が作成に関与するとは限らないということです。その結果、変革あるいは人材育成の観点からも、折角の機会を存分に活かせないことが少なくありません。

(3)医療職を巻き込めないためプランの実行に至らない

改革プランは病院の将来の方向性を検討し、それに向けて院内一丸となって実行していくために作成するものであり、事務職だけでなく医療職を含めて検討することが必要です。しかし、実際には両者の間に心理的な壁があり、円滑なコミュニケーションがなされないケースが散見されます。そのため、医療職を巻き込むことを敬遠する意識が働き、病院長をはじめとする医療職との連携が十分に得られず、事務局の描いたシナリオに沿って事務職側だけで作成を進めてしまいがちになります。その結果、プラン作成過程の終盤で病院長からやり直しを命じられたり、プランの実行にあたり医療職の理解や協力が得られず、絵に描いた餅となってしまったりするケースがあります。

実行力のある改革プラン策定に必要なこと

実行力のある公立病院経営強化プランを策定するには、まずは今回のプラン策定を単なる作業と捉えずに、組織を強くするための絶好の機会と捉えることが必要ではないでしょうか。そのうえで、以下の3点が極めて重要になると考えられます。

  1. 過去の改革プランに捉われることなく「何をどのように決めていくべきか」に対する担当者自身の理解
  2. 未来を見据えた体制の構築
  3. 医療者の協力を得たうえで院内一丸となってのプラン策定

PwCが支援してきた公立病院の中にも、前回の新公立病院改革プラン策定を機に赤字体質から脱却し、2年間で約6億円の収支改善を達成した公立病院(400床規模)があります。そこでは、プラン策定の過程で事務職の方々から前向きな言葉が多く出ており、それまで心理的な壁のあった医療者に対して、自発的に議論を仕掛けるような場面が見られました。また、医療者からも各科の収益や費用についての質問が事務職側に多く寄せられるようになるなど、院内で職種を超えた議論が自発的かつ頻繁に行われるようになり、職員の意識に大きな変化が生まれました。

多くの公立病院は経営強化プランの作成にあたって、第三者の力を借りることを選択肢として検討されていると思います。

PwCは公立病院経営強化プランの作成を支援する際、プランの作成を目的とはせず、作成の過程を通じて、事務職のみならず医療職を含めた院内全体に改革の機運を醸成することを目指しています。単なるペーパーワークで終わらせず、これを機に病院の経営強化や、地域医療の充実について本腰を入れて検討してみてはいかがでしょうか。

*1:総務省 自治財政局 準公営企業室「新公立病院改革プランの取組状況等について」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000798843.pdf

*2:総務省「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」中間とりまとめ
https://www.soumu.go.jp/main_content/000782342.pdf

総務省「公立病院改革」資料
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/hospital/hospital.html

総務省「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化に関する検討会」資料
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/jizoku_iryo/index.html

執筆者

堀井 俊介

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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髙橋 啓

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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増井 郷介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小田原 正和

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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平川 伸之

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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川口 健太

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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