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2022-04-07
業界を問わず、積極的に検討・導入が進められているDX(Digital Transformation)。医療業界においても、働き方改革や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を背景として、DXは業界に変革をもたらす重要なピースとして期待されています。しかしながら、実態としては多くの病院が導入に苦慮している、もしくは、成果を見出せていません。本稿では、幅広い業界に対してDX導入支援実績を有するPwCの知見を基に、医療業界の特性を踏まえたDXの進め方について考察します。
DXとは、一般的にどのような概念を指すのでしょうか。ペーパーレス化やシステム導入をイメージする方も多いと思いますが、経済産業省のDX推進指標は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています*1。つまり、IT導入のような局所的な取り組みにとどまらず、デジタル技術を活用し、業務そのものに対する考え方やビジネスモデル自体を変革していく壮大な取り組みと言えます。
このDXを病院において進める際には、図表1のとおり、一般的な概念をそのまま当てはめることができない部分があります。
①「医療業界を取り巻く環境は大きく変化している」ことは明らかでしょう。しかし医療業界の特性に鑑みると、②「病院においてコアとなるビジネスは医療の提供であり、デジタルという切り口のみでのビジネスモデルの変革は現実的ではない」ことに加え、③「医療の公共性・公平性の観点から、競争を勝ち抜くことより、より良い病院であるための課題解決が優先される」と考えられるため、DXの一般的な概念をそのまま当てはめにくい面があります。
そのため、PwCでは病院におけるDXを「医療業界を取り巻く課題に対して、デジタル技術を活用し、院内の変革を伴いながら医療の質向上を図るために課題を解決する取り組み」と捉えています。
近年、医療業界においてもDXという言葉を頻繁に耳にするようになりました。その背景として、現役世代1.5人で高齢者1人を支える時代に突入する2040年*2の医療提供体制を見据えた「三位一体改革」*3への対応としてのDXへの期待が挙げられます。また、ここ数年はCOVID-19対応における追加的な業務負荷の軽減、非接触や情報連携・共有などのニーズが急速に高まっており、DX促進への期待を後押ししています。
これら業務負荷軽減や地域連携ニーズを満たす取り組みとして、既にオンライン診療やアプリによる遠隔での医療情報の共有、内視鏡検査におけるAI診断支援、音声認識による電子カルテへの自動入力などが病院に実装されるようになりました。
取り組み事例はいくつかあるものの、他業種と比べると、病院はDXが進みにくい業界といえます。現場の医療者やIT担当者からの声に加え、これまでのPwCの経験を踏まえて考察すると、その理由として大きく以下の4点が挙げられます。
医療現場のスタッフは、あくまで医療のプロであり、必ずしもITツールやデジタル技術の知識や経験が豊富ではありません。また、病院におけるIT専門家は往々にして数が少なく、各病院にて孤軍奮闘している状態が多いといえます。人的な体制の観点から病院でのDX推進には難しさがあります。
製薬企業を例に挙げると、研究開発、製造、営業といった部門ごとに提供サービスが明確に分かれており、部門ごとに課題も異なります。一方で病院の場合は、同一の患者さんへのサービスに対して多くの職種が関与します。本来であれば全体最適の視点が求められますが、現実には一部の意見が優先されやすい傾向があります。例えば、情報共有が課題であるにも関わらず、互換性に欠けるシステムが導入されてしまうなど、部分最適に陥りがちです。多くの職種が関与している点で、他業種と比べると課題解決がより複雑になるのです。
一般的な病院の医業利益率は平均して1%前後で推移*4しており、収益性は決して高くありません。また、一般企業のように潤沢な予算を確保しているわけではないため、DX投資に対する制約が存在します。
規模や地域性、求められる役割や機能は病院ごとに異なります。そのため、他業界に比べて、ベストソリューションが生まれにくい環境にあります。他病院で成功したDXを横展開しても成功するとは限りません。
それでは、病院におけるDXはどのように進めていけば良いのでしょうか。PwCではあるべき進め方と検討すべき論点を以下のように考えています(図表3参照)。
なかでも上述の特性から、他施設の導入事例をそのまま取り入れるのではなく、自分たちにとって何が必要なのかを見極めることが最も重要です。その成功の鍵を握るのが、課題の把握です。
最も重要といえる「課題把握」のステップでは、今後5年、10年先を見据えた際に、どのような病院にしたいか、どこに注力すべきかを明確にすることが大切です。その際に検討初期の段階から、病院長やIT導入を主導する医師を交えて議論を行い、後で揺り戻しが生じないよう院内の目線を合わせることがポイントになります。院内のITリテラシーが低ければ、教育を行うことも肝要です。
また、ベンダーに紹介されたソリューションの導入を前提に検討を始めるなど、手段と目的を履き違えた議論にならないよう留意する必要があります。DXという言葉に踊らされることなく冷静に、自分たちは今後どうしていきたいのか、そのための課題は何かを整理することが出発点になります。
課題が同じだとしても、実現に向けた優先順位は病院によって異なります。例えば、職員の業務負荷軽減を本丸と考え、それに資するDXから始めることは、職員に対して、当院は「変わるんだ」というメッセージにもなります。大きな変革の狼煙を上げることで、職員のマインドを変えていくことを狙う病院もあれば、まずは案内板の電子化などのスモールスタートによって院内のITリテラシーを高め、効果を実感してから始める病院もあるでしょう。何から着手するのか、判断軸を持つことが大切です。
導入するソリューションを絞り込む際には、本当に課題を解決できるのかを検討するのはもちろんのこと、他製品との比較、購入金額の妥当性判断など、ソリューションに対する目利きができるかも重要なポイントになります。選択に際しては、第三者の意見を活用することも1つの方法です。
課題把握と並んで重要なステップが予算確保です。予算を確保できていない場合は、収益改善策やコスト削減策により投資原資を確保する必要があります。他方で既存システムよりも低い維持費で運用可能なことが、新たなシステム導入の決め手になる場合もあります。
DXの導入に合わせたオペレーションの見直しは十分にできているでしょうか。「業務を無くすことが不安だから」といった理由などにより、業務プロセスを見直さないままDXを推進すると、業務負荷軽減効果を狙っているにも関わらず、新たに業務が増えるという本末転倒な事態が生じることもあります。現場の動き方までフォローすることが必要です。
病院においてDXを推進するうえで重要なのは、「課題解決を図る取り組みとしてDXを捉える」という基本を守ることです。さらに直接的な費用対効果のみではなく、DXにより生じる業務負荷軽減効果、スタッフのモチベーション向上、患者さんへのサービスの質向上、ヒトが集まりやすい環境整備といった間接的な効果も考慮しながら進めていくことも非常に大切になると考えています。
本稿が、自分たちならではの姿を描く「病院DX」の検討、導入そして成功の一助となれば幸いです。
*1:経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0」
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf
*2:内閣府「令和3年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
*3:厚生労働省「社会保障審議会医療部会」資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000210433_00004.html
*4:福祉医療機構「2020年度(令和2年度)病院の経営状況」
https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/220128_No012.pdf