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2022-09-27
持続可能な医療を提供する観点から、医療機関における働き方改革は極めて重要なテーマとなっています。また、昨今の新型コロナウイルス感染症への対応に係る業務負荷の増大が、その取り組みの必要性に拍車をかけています。
働き方改革に取り組む際は、ともすれば時間規制についての議論が先行しがちですが、忘れてはならないのは「働きやすさ」を追求することです。医師、そして医療機関で働く人が求めるワークスタイルとは何か、そして目指している医療機関とは何か。それらを実現するための手段の1つが働き方改革です。
今回は、2024年4月に適用が迫っている医師の時間外労働の上限規制によって求められる事柄を俯瞰したうえで、働き方改革の根幹をなすであろう、今すぐ着手可能な業務負担を軽減させる取り組みについて考察します。
働き方改革の柱となるのは、2018年7月6日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(以下、「働き方改革関連法」)」です。働き方改革関連法では、大きく6つの対応項目が示されており、医師の時間外労働の上限規制については2024年4月1日から適用されます(図表1参照)。
現在、病院勤務医の約1割が年間1,900時間以上の時間外労働を行っているとされていますが*2、これを2024年4月までに一般労働者と同水準である年間960時間、特例水準でも年間1,860時間以内に抑える必要があります(図表2参照)。
まずは、医師の勤務実態を把握したうえで、医師の労働時間短縮計画(以下、「計画」)を作成することが求められます。そして計画に沿って、医療機関の管理者のリーダーシップの下、医療機関全体として医師の働き方改革を進めていくことが必要になります。
2024年3月末までの間に、B水準、連携B水準、C水準の指定を受ける予定のない医療機関を含め、年間の時間外労働が960時間を超える医師が勤務する医療機関であれば、2023年度末までの計画を作成するよう努めることとされています。
加えて、A水準を超えるB水準、連携B水準、C水準の指定を受けることを予定している医療機関もしくは地域医療体制確保加算の取得を予定している医療機関*4は、2024年度以降の計画案(取り組み実績と2024年度以降の取り組み目標を記載)を作成、2023年度末までに医療機関勤務評価センターによる評価を受審し、それを踏まえた都道府県による特例水準の指定を受ける必要があります*5。
特に、医師の勤務実態の把握には難航することが予想されます。労働時間の該当性の判断、副業・兼業先における労働時間の把握に加え、患者の病状の変化などに備える必要性などから、実態把握に慎重な姿勢を見せる医師もいるからです。その点では、病院長をはじめ、各課の診療部長クラスが働き方改革の重要性を理解し、改善に向けた風土作りを行うことが第一歩といえるでしょう。このような意識改革・啓発活動は計画の必須記載事項でもあります*5。
ここまで、法律上求められている医師の時間外労働の上限規制について見てきました。その足がかりとして、医療機関内で着手可能な労働時間短縮に向けた取り組みについては、以下の観点で整理することが可能です(図表4参照)。
診療報酬改定等への対応などにより、業務が増えることはあっても、これまで実施していた業務の削減には着手できていないケースが多く見受けられます。医療現場における業務削減プロジェクトに関するインタビューを実施し、改めて業務の実施目的について尋ねてみると、以下のような返答が多く聞かれます。
業務そのものをなくす、減らすといったプロジェクトでは、往々にして「必要ではないが、あった方が良い業務」に区分できるケースが多くなります。これを勇気を持っていかに削減できるかが、業務削減プロジェクト成功の鍵といえます。例えば、「自分たちの業務を1時間/日、削減しなければならない」と設定することで、「削ることができる業務はどこなのか」という思考に切り替わり、業務の見直しが現実的になります。
これまでの当社の経験からすると、「業務そのものをなくす、減らす」という観点は、特に看護職や事務職の業務整理に有効です。一方で、医師の業務は電子カルテへの代行入力をはじめ、事前に取り決めたプロトコールに基づくタスクシフト/シェアが中心になる場合が多いといえます。
上記は、考え方の広がりから着想しましたが、他医療機関における好事例を参考にして自分たちにも適用可能な取り組みを検討するというアプローチも効果的です。具体的な事例が厚生労働省のウェブサイト*6などで公開されていますので、イメージをつけるのに有用です。
ここまで労働時間を短縮させる取り組みについて考察してきましたが、働き方改革が本来目指すべきところは個々人の「働きやすさ」です*7。単純に労働時間を減らすだけでは医療従事者の納得は得られません。医療従事者の多くは「目の前の患者のために」という想いを持って働いていると思います。長時間労働になることを厭わない、あるいは仕方ないと許容している人もいるのではないでしょうか。ただ、医療従事者の自己犠牲に頼った医療は、持続可能とは言えません。だからこそ、働き方改革にあたっては医療従事者の想いや、やりたいことを大切にしつつ、働きやすさを追求することが不可欠です。例えば、労働時間を削減した分、医療に集中する、研究を拡充する、自己実現の時間に充てるなどのメリットを享受できるような仕組みが必要です。また、当社では「時間軸」だけではなく、職員の「生活のクオリティ軸」で働き方を検討することも極めて重要と考えています。
少子高齢化が進む日本においては、労働力人口の減少が見込まれます。これからの病院経営を考えるにあたっては、「患者」は当然のこととして、「職員」にも選ばれる病院でないと生き残れません。職員の採用・定着を図るためにも勤務環境の見直しをセットで考える必要があります(図表5参照)。
医療機関における働き方改革は、地域での医師の充足状況をはじめ、役割分担や機能分化の状況や、国民の理解と協力に基づく適切な受診環境などを踏まえ、医療機関単体のみならず、患者を含むステークホルダー全体で取り組むべきです。しかし、これらステークホルダーの動きを待っていては、働き方改革は遅々として進みません。現場で働く医療従事者の心身の健康を守るためにも、医療機関主体で着手することは必要不可欠です。
職員が生き生きと働いている病院は、医療の「質」の向上にもつながり、「患者」に選ばれ、「職員」にも選ばれるという好循環が期待できます。
本稿が、医療機関における働き方改革を進めるにあたっての一助になれば幸いです。
*1:厚生労働省「病院長、医師として押さえておくべき、医師の働き方改革」資料
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/pdf/information/2021/20220404_02.pdf
*2:厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」第21回 資料2
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000489071.pdf
*3:厚生労働省「医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめ」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000708161.pdf
*4:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料等について」 06 令和4年度診療報酬改定の概要 入院Ⅳ(働き方改革の推進、横断的個別事項)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00008.html
*5:厚生労働省「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン(第1版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000919910.pdf
*6:厚生労働省「働き方改革特設サイト」
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/top/point.html
*7:厚生労働省「いきいき働く医療機関サポートWeb」
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/