これからの病院経営を考える 第7回 改革が進む病院に見られる人材・組織の共通点

2023-02-21

改革が進む病院の共通点

当社が日々接している病院を見ると、特に改革が進んでいる病院には以下の3つの共通点が見られます。

共通点① 院長の強いリーダーシップ

改革の推進にあたり、非常に重要なのが院長(理事長)のリーダーシップです。院長のリーダーシップスタイルは「ビジョンの表明度」と「アクションへの関与度」によって、以下の4つのスタイルに分けられます。

改革が力強く推進されている病院では「達成志向型」のリーダーシップがよく見られます。院長が改革に対して明確なビジョンを示しており、ある意味「ワンマン」的な手腕で改革に向けた指示を出しているケースです。

「支援型」リーダーシップが注目される昨今、「達成志向型」は古いと思われるかもしれません。しかし、病院は異なった専門性や志向を持つ多職種の集合体であるため、課題解決には高い専門性や現場感が求められる傾向にあります。そのため、具体的なアクションをトップではなく現場に考えさせた方が、より良質かつ現実的な解決策につながることがあります。病院の特殊性を踏まえると、方向性を示しつつ現場にアクションを求める達成志向型のスタイルには、一定の合理性があると考えられます。

共通点② 現場をリードする“右腕”の存在

改革が進んでいる病院には院長をサポートし、改革をリードする、院長の右腕となる職員がいるケースが多く見られます。
右腕の役割は大きく3つあります。

  1. 改革に関する検討・実行をリードする:多忙な院長の代理として、実際の改革に向けた施策を立案し、実行をリードします。改革に際して設置されるワーキンググループ(WG)のリーダーとして議論を進めるとともに改革にコミットし、結果を出すためのアクションを起こします。また、必要に応じて意思決定を行い、その決定を院長に承認してもらいます。
  2. 職種横断の意見を取りまとめる:近年の改革テーマは単一部門で解決できることは稀であり、多くの場合、全病院的な取り組みが求められます。病院職員は専門職の集合体であり、各職種の優先事項が異なる中で、職種間の合意形成を図るのは容易ではありません。WGや会議外のコミュニケーションも含めて各部門に根回しをしつつ、意見をまとめます。
  3. 院長を諫める:達成志向型の院長でも、院長の持つ具体的な施策の実現を目指す場合があります。しかし院長案を実行するためには、優先順位が高い他の施策ができなくなる、もしくは、これまでWGなどで行った分析や議論に照らすと間違えているといった場合には、右腕から院長への説明を行い、改革を正しい方向へ軌道修正します。

「右腕人材がいない」「育てようにも誰が適任か分からない」との声も聞かれますが、日頃から目星をつけた数人に対して、小さな改革を任せ、徐々に大きな改革を任せて適性を見ながら育てていくことが重要です。まずは院内で1人、院長の思いと現場の思いをすり合わせながら、当事者意識を持って進められる右腕を見出していきましょう。

共通点③ 全病院的な経営および改革への高い意識

病院における改革はほとんどの場合、現場の多くの人を巻き込み、動き方を変えてもらう必要があります。院長と事務部門などの限定的なチームで改革を計画し、実施する段階で急に現場を巻き込もうとしても、理解を得られずに機能しない可能性があります。

改革が進んでいる病院では、経営状況などを日頃から全職員の間で共有し、経営および改革への高い意識が全病院的に醸成されています。また、現場が大切にしている患者のためにも改革が必要であるということを多くの職員が理解しています。そのため、改革に対して現場の同意をすぐに得ることができ、スピード感ある対応が可能となるのです。経営陣が手を打つ前に現場から解決策が提示されるケースもあります。

全病院的な意識の醸成には時間がかかるように思われるかもしれませんが、適切なステップで現場を巻き込みながら指標を開示すれば、経営および改革への参画意識は迅速に醸成することができます。例えばある施設では、経営と医療の質について簡単な研修を行い、患者数、病床稼働率、単価などの病院経営上重要な指標を共有しただけで、現場が自発的に対応策を考え、病床稼働率などが改善されました。

特に改革が力強く進んでいる施設の3つの共通点をご紹介しました。改めて、自院の改革に向けてどの要素の強化が必要なのか検討いただけるとよいかと思います。

改革の基盤となる強い事務部門

改革の基盤・背骨となる強い事務部門も重要な要素となります。強い事務部門に求められる3つの要素と、それらを構築するための要点を紹介します。

医療職との対等なコミュニケーション

強い事務部門は、医療のプロである医療職に対して、経営のプロとして対等な立場でコミュニケーションを取り、多角的な視点から改善策を検討することで改革を加速させます。

そのために重要なのはファクトとロジックによる論理的なコミュニケーションです。「エビデンスに基づく医療」という言葉が表すように、医療職の中には論理的な考え方や意見には同意しやすい一方で、論理的に納得できないことに対しては聞く耳を持たないような方も見られます。医療職と論理的なコミュニケーションが取れる事務部門を目指すためには、関連書籍をベースにした読書会や勉強会、問題解決や課題解決に係る研修の実施、あるいはコンサルタントの活用(病院改革の一部を委託し事務部門を伴走させるなど)といった手法が考えられます。

知見蓄積体制の構築

強い事務部門になるためには専門的な知見も必要となります。それらは通常業務の中で自然に身に付くことがほとんどですが、異動による知見の消失には注意が必要です。

民間病院など、職員の異動に対して一定のコントロールをきかせることが比較的可能な場合は、ジョブローテーションを含む事務職員の育成について、ビジョンとルールを定めることが重要です。働き手の減少に伴い人材確保が困難になる中で、多様な価値観に寄り添うキャリアパスを提示できれば、人材を呼びこむきっかけになる可能性もあります。

公立病院のように、異動に対して施設の要求が通りにくい場合は、個人ではなく、部門全体を計画的に強化していく考え方が必要になります。具体的には、大きな課題は2人以上で受け持たせる、担当を細かく分けずにフレキシブルに対応できる環境を整える、個人で対応する事案がないように現在動いている業務や問い合わせなどを可視化しておく、属人化されている業務について手順書を整備し標準化しておく、といった対応が求められます。

軽いフットワーク

フットワークの軽さも重要です。改革の際にはさまざまな課題が発生しますが、その課題そのものや、課題解決に向けた周囲のモチベーションが刻一刻と変化していくケースが多々見受けられます。これらに対応していくためには、スピード感をもって課題解決にあたる必要があります。ロジックとファクトに基づくコミュニケーションにより医療職と臆せず議論することはもちろん、活動のための時間を確保しておくことも必要です。

経営企画室など改革を担当する部門を持つ病院もありますが、事務部門は最低限の人員体制とし、通常業務のほかに、フレキシブルに動く時間を捻出することが困難な場合も多くあります。その場合、改革を始めるにあたっては、まずは事務部門の業務効率化から着手し、業務の優先順位付けによる不要な業務の削減や、IT・デジタルを活用した効率化などを行うことでフレキシブルに動ける工数を確保し、改革を推進するための「余力」を確保することが重要です。

改革が進む病院へのトランスフォーメーション

本稿では改革が特に力強く推進されている病院の共通点と、それを下支えするために非常に重要な役割を担う事務部門の在り方について取り上げました。

病院改革は、基盤としての事務部門の強化を進める必要があるなど、一定の時間がかかります。しかし、今後の病院経営には大きな意思決定や改革が求められることは間違いなく、1日も早く取り掛かることが肝要です。そして本稿で示したように、適切な体制構築や現場の巻き込みが実行されれば、医療業界には納得したことに全力で取り組む職員が多いことから、改革は加速度的に進んでいくと考えられます。

最後に一例ではありますが、事務職員と医療職が相互に刺激しあうことで「改革体質」になった病院における職員の変化モデルを示したいと思います。下記のモデルを参考に、ご自身の病院職員がどの位置にいるのか、次のステージに進むために何をすべきかをご検討いただければ幸いです。

執筆者

堀井 俊介

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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増井 郷介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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中里 弥生

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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