これからの病院経営を考える

第23回 地域医療連携推進法人の「使い方」と「作り方」

  • 2024-11-06

いま、再び脚光を浴びる地域医療連携推進法人

2017年に地域医療連携推進法人制度が発足してから、2024年10月までの間に45の法人が設立されました(うち1法人がすでに解散)。このうち、本年度新たに立ち上がった地域医療連携推進法人は10月初旬時点で7つと、前年度の実績(3法人)を大きく上回り、ピーク時の2019年度(9法人)に比肩する勢いを示しています。昨年5月の新型コロナウイルス感染症の5類への変更により、医療機関に対する各種の補助金が順次廃止されたこと、また本年4月からの制度改正1によって個人立の医療機関にも参加の道が拓かれたことも相まってか、 PwCコンサルティング合同会社においても地域医療連携推進法人に関する相談を受けるケースが増えています。照会元は医療関係者に留まらず、公立病院を設置する自治体の首長や県庁所管課、病院に融資している地方銀行など、幅が広いのが特徴です。関心を持った背景をお聞きしたところ、「コロナ補助金に隠れていた医療機関の財務状況が浮き彫りになり、その実態は想定以上に厳しいことが改めて白日の下に晒されたため」「現状のまま推移すると数年以内に資金繰りが行き詰まる可能性が高く、早急に何らかの手を打つ必要に迫られているため」など、やはり経営状態の悪化を契機とする回答が目立ちました。

冒頭で述べたように、地域医療連携推進法人の制度自体はさほど真新しいものではありません。厚生労働省が2021年末に実施した調査2では、法人立ち上げの動機として再編統合の必要性や人材確保の難化を挙げる例が多く、事業継続への懸念が端緒となったとの声は相対的に少なかったことを踏まえれば、ポスト・コロナにおいて、地域医療連携推進法人に対する期待は、その内容・緊急度ともに変化しつつあるのかもしれません。

地域医療連携推進法人の目的や各種制度については厚生労働省のホームページ3に詳しく記載されているため、これをなぞる意義は大きくないと考えます。よって、このコラムでは、実務者の視点に立ち、先行例を踏まえた枠組の活用方法や立ち上げまでの段取りなど、地域医療連携推進法人の「使い方」と「作り方」を中心に解説を進めていきます。

どのような地域医療連携推進法人であれば、地域にとって利点が大きいのか

地域医療連携推進法人については、「関心はあるものの設立の具体的な利点が見えない」「自施設・地域にとって適した形が分からない」との声も多く聞かれます。ここでは、まずこの2大要因である「利点」と「自地域への適合性判断」について整理します。

1. 地域医療連携推進法人を立ち上げると、何か良いことがあるのか

 地域医療連携推進法人といえば、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」の施設間での融通や、職員の合同研修・医薬品・医療機器の一括購入などの「共同作業」が可能になる枠組との印象がありますが、このうち「モノ・カネ」については医療法および貸金業法に定める例外規定が適用される形で、参加法人間での病床融通や資金貸付・出資等が可能となります。換言すれば、地域医療連携推進法人の形を取らないことには、これらのやり取りは不可能です。しかし、実績に目をやると、資金貸付・出資が行われた例は本年1月までにはないとされます4。その理由として、法人本体の経常収益は平均して数百万円台に留まり3、財政が潤沢な参加法人が少ないことが想定されます。現に、法人関係者からも「資金の融通は期待も想定もしていない」との声が挙がっており、地域医療連携推進法人に財政面での下支え機能を求めるのは現状では困難と言わざるを得ません。

よって、地域医療連携推進法人の設立なくして得られない「モノ・カネ」に関する利点は、事実上「参加医療機関間での病床の融通」の一択となります。こちらは実際に複数の法人において実例があり、病床融通による施設間での機能分化促進が、医療機関の経営や地域医療に与える影響は無視できないものがあります。

他方、「ヒト」のやり取り、すなわち医療従事者の再配置をはじめとする職員の人事交流や患者の紹介、研修・物品購入に関する「共同作業」についても、法人の傘下に入ることで一層の円滑な実施が期待されますが、これらは前述の「モノ・カネ」とは異なり、法人の立ち上げが絶対に必要なわけではありません。しかし、あくまで事実上の効果とはいえ、法人という公式なパイプができたことで意思疎通が容易になったとの声も多いようです4

また、地域医療・介護の連携に寄与する意思はあるものの、単独での動きに限界を感じている施設にとっても、法人の存在によって調整窓口が一本化され、参画しやすくなる利点もあります。実際に、現時点での参加法人は病院のみでも、将来的には地域の診療所や介護施設などの参加を見込んでいる「小さく生んで、大きく育てる」方針の法人もあるようです。

したがって、特に「ヒト」と「共同作業」に関しては、どのように制度を活用して関係者の意思疎通を緊密にしていくか、地域の実情に沿った発想と実行が成功の鍵になると言えそうです。逆に言えば、地域医療連携推進法人は自動的に地域の医療・介護課題の解決をもたらす「魔法の杖」ではないことに留意が必要です。

2. 自施設・地域にとって適切な形をどう描くのか

地域医療連携推進法人の特徴は、その域内人口や参加主体の種類・数が極めて多様であることです。まず、担任区域(法人設立時に定める必要がある医療連携推進区域)5を見ると、半数以上は1つの地域医療構想区域を対象としていますが、12の法人が単一の構想区域の一部のみを推進区域としています。逆に、8法人が地域医療構想区域の境界を越えて設定され、この中には7つの構想区域に跨っているものもあります。この結果、域内人口は最も少ないもので1万人弱から最大で数百万人規模と大きな幅があります。

参加施設についても、病院のみで構成されるもの(13法人)から、診療所や介護施設が名を連ねる法人までさまざまです。診療所に関しては3分の2近くで参加が確認される一方、介護施設の参加は4割程度にとどまっており、医療・介護連携にはまだまだ強化の余地がありそうです。加えて、前述のとおり本年4月より個人の参加が解禁されたため、構成要素の多様性は今後いっそう増すものと思われます。また、施設数に関しても2施設で構成される法人から、100施設以上に及ぶものまで千差万別です。

したがって、自治体などの公的機関が主導する際にしばしば見られますが、設立にあたってまず前例探しから取り掛かった場合、既存の法人は上述のようにそれぞれが「一点物」であることから適切な参考例が見つからず、準備が暗礁に乗り上げるおそれがあります。参加施設の種類や数、対象地域などの「見た目」ではなく、いま自分たちが直面する課題は何であり、その解決のためにどのように法人を活用しようとしているのか、「使い方」を起点として検討を進め、その過程で既存の法人の取り組みを参考としていく必要があると言えます。

目的と人口から探る、地域医療連携推進法人の「使い方」 

ここでは、設立に先立って決める必要がある法人の「使い方」に関する判断軸を主に説明します。

これまでに立ち上げられた地域医療連携推進法人を見ると、まず特定の目的で設立されたか否かで「特務型」と「汎用型」に大きく二分できます(図2)。特務型には、血液透析や救急医療体制の充実を目的とする法人のほか、病院の再編統合準備や再編後の機能強化を目的として設立された6つの法人が含まれます。特徴的なのは、当該6法人の全てに公立病院が参加していることです。関係者からは、拙速な再編統合による軋轢を避け、人材交流を通じて環境整備を進めるなど、再編統合の中間体あるいは緩衝材としての法人の役割に期待する声が挙がっており、今後の動向が注目されます。

しかし、特務型は全体から見ると少数であり、多くの法人は医療(介護)連携の強化という一般的な目的で設立された「汎用型」です。汎用型法人は、病院間のみを対象とするのか、あるいは地域の診療所や介護施設までを含めた連携を進めるのかにより、大きく3つに分類できます。参加主体の種別は、法人が設定する医療連携推進区域の域内人口の大小によって異なる傾向が見られ、具体的には人口20万人未満の地域における法人には公立病院の参加が目立つ一方、介護施設をも構成主体に含む法人の多くは人口20万人以上の地域に集中しています。この違いの背景としては、人口が少ない地域ほど介護に比べて医療資源の枯渇が前景に出ている、あるいは人口の多い地域のように介護も含めた包括的な連携を進める力のある民間施設が乏しく、「官製法人」による病院間連携により最低限必要とされる地域医療を死守することで手一杯、などの複合的な要因が考えられます。

したがって、これから法人設立を検討する場合、まずは特定の「使い方」を意図しているか否かで「特務型」か「汎用型」のどちらかを選択し、並行して医療連携を推進する地域を大まかに想定します。「汎用型」を採る場合は、域内人口の多寡に応じて立ち上げ時の参加施設数や種類を絞り込むと良いでしょう。もちろん、人口が少ないことを理由に診療所や介護施設の参加を拒む必要はありませんが、調整を簡単にするなどの理由から立ち上げ当初の参加施設を限定する場合は、域内に対して開かれていることを明示的に伝える工夫も必要と言えます6

手続・準備面から見た地域医療連携推進法人の「作り方」

法人設立の段取りは地域を問わず共通する部分が多く、一部の都道府県では詳細なスケジュールを公表しています7,8

特記すべき留意点としては、①当初は一般社団法人を設立し、同法人が都道府県知事の認定を経て地域医療連携推進法人となる二段階方式であること、②都道府県知事による認定に先立ち、都道府県医療審議会の意見聴取が必要なこと9の2点が挙げられます。①については、過去の例を見ると、知事の認定を得ようとする数か月前には一般社団法人の設立登記を終えていることが望ましく、②に関しては、都道府県によって医療審議会の開催頻度や、医療審議会への諮問に先立ち他の会議体(地域医療構想調整会議など)の議論に付すか否かが異なります。設立したい時期から逆算してスケジュールを組むとともに、検討に着手した時点で都道府県庁の担当部局に接触し、綿密な調整を始めることが重要です。

都道府県側からも、過去の設立例があれば積極的に情報を開示する、医療審議会の日程を柔軟に設定するなど、法人の円滑な立ち上げに向けた協力が望まれます。なお、地域医療連携推進法人の認定に伴う定款変更は、いわゆるみなし規定10があるため不要ですが、法人名称の変更登記は2週間以内に別途行わねばならず、注意が必要です。

1 厚生労働省「地域医療連携推進法人制度の概要」

2 厚生労働省「地域医療連携推進法人制度に関するアンケート調査結果」

3 厚生労働省「地域医療連携推進法人制度について」

4 厚生労働省「令和5年度第3回医療政策研修会資料7地域医療連携推進法人制度について」

5 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第70条

6 令和4年度 第3回 埼玉県県央地域医療構想調整会議 議事概要

7 北海道「令和6年度地域医療連携推進法人認定等のスケジュール」

8 神奈川県「地域医療連携推進法人認定までの事務手続の流れ」

9 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第70条の3第2項

10 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第70条の5第2項

執筆者

小田原 正和

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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金野 楽

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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和﨑 寛人

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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