製造工場のデジタル変革 〜日本企業の強みを生かすスマートファクトリー化〜第1回:IoT・AIの活用による新しい工場マネジメントの考え方

2019-10-11

近年、製造の現場では製造プロセスのデジタル化が加速しており、製造工程における品質の検証・検査項目は増加傾向にあります。こうした潮流に対応するため、IoT(Internet of Things)やビッグデータ分析を取り入れ、生産管理システムや工程管理システムを再構築することが不可欠です。では、どのようにIoTを活用すればよいのでしょうか。

デジタル化がもたらす製造業変革の現状

製造業では近年、研究開発から製造、物流、マーケティングにいたるまで、さまざまな領域でデジタル化が進んでいます。グローバルで見ても、ドイツの「インダストリー4.0」や米国の「インダストリアル・インターネット」、中国政府(国務院)が主導する「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」など、各国は競うように最新技術を取り入れ、製造現場の改革に取り組んでいます。

デジタル化の目指す姿として注目されているのが、「スマートファクトリー」と「デジタルツイン」です。

スマートファクトリーは、工場内のあらゆるデータをIoTで取得・収集し、そのデータを分析・活用することで、新たな付加価値を生み出せるようにする工場です。

一方、デジタルツインは、IoTで取得したリアルタイムデータを分析し、現実世界の物理的な製品やシステムで発生していることをサイバー空間(デジタル)で再現することを指します。デジタルツインを活用すれば、企業は販売後の製品の稼働状況も把握し、適切なサービスを提供できるようになります。

ただし、デジタルツインを実現するには、克服すべき課題が数多く存在します。特定のソリューションや機器を導入したからといって、一足飛びにデジタルツインが実現できるわけではありません。

では、デジタル化による製造業の進化の過程を見ていきましょう。

製造業のデジタル化のレベルは、下から順番に「QCD(Quality/品質、Cost/コスト、Delivery/納期)結果の可視化」「QCD+4M(Man/人、Machine/設備、Material/材料、Method/方法)による原因の可視化」「QCDの予知・予測」「デジタルツインによる企業内最適化」に大別されます(図表1参照)。

レベル1のQCD結果の可視化とレベル2のQCD+4Mによる原因の可視化は、“現状”がどのような状態なのかを知るためのものです。一方、レベル3のQCDの予知・予測は、レベル1・2で収集したビッグデータを基に分析し、“将来”を予測できるものです。レベル3に到達していれば、製造ラインの稼働状況から不具合が発生しやすい個所を割り出し、事前に対策を講じて故障によるダウンタイムを回避するといった施策も可能になるのです。

残念ながら今の日本の製造業はレベル1で留まっており、IoT活用によって得られる「品質向上」や「コストダウン」といったメリットを享受できていません。日本の製造業のデジタル化はドイツや米国の後塵を拝しており、デジタルツインの実現にはほど遠いのが現状です。

工場のデジタル化におけるIoTの重要性

工場のデジタル化の第一歩は、データの収集です。ただし、従来の手法で収集したデータとIoTで収集したデータでは、そこから把握できる内容が全く異なります。

従来の手法で収集できるデータは、過去に発生したイベントの結果です。これらのデータを分析すれば、QCD(品質/コスト/納期)の指標が得られます。これまでは、こうした指標を基に既存の生産計画と生産実績の結果を確認し、現場で蓄積された知見を加味しながら工場を管理し、改善を繰り返してきました。しかし、これらのデータからは、「なぜ不具合が発生したのか」「納期遅延の原因は何か」といったことは解明できません。

これに対してIoTでは、今までデータ化されていなかった4M(人/設備/材料/方法)の情報を得られます。既存データにIoTデータが加われば、設計や製造条件のフィードバックをはじめ、製造ラインの稼働状況を事前に予測することができます。こうしたデータをAI(人工知能)やML(マシンラーニング)、ディープラーニングで分析すれば、故障の予知保全や稼働効率の最適化が実現できるのです。

もっとも、IoTデータを収集・蓄積するだけですぐにスマートファクトリーが実現し、工場マネジメントが劇的に変化するわけではありません。IoTの活用は工場を「変革」するというより、データ分析を通じて工場マネジメントを「拡張」するものだと捉えたほうがよいでしょう。

工場デジタル化で直面する課題とは

次に、現在の製造業が抱える課題を考えてみましょう。製造現場で自動化が進んだ結果として顕著になっている課題が、「環境の複雑化」と「現場のブラックボックス化」です。

製造工程の自動化により、多くの工場では問題の発生回数が減少しました。しかし、同時に自動化による制御システムのブラックボックス化によって、不具合が生じた場合に、該当部分の切り分けや原因の特定、問題内容の把握が難しくなるという課題が発生しました。さらに、熟練労働者の高年齢化や人手不足などの影響から、現場の解決能力は低下傾向にあるといいます。

こうした課題を解決する手段の1つとしても、IoTは注目されています。既存の知見による解決が難しい課題に対し、IoTが生み出すデータの分析で明らかになった相関関係を可視化し、人間が因果関係を抽出して問題発生の原因を特定するのです。これにより、これまでできなかった「人とITの協働」による問題解決のアプローチが可能になるのです。

IoTで“要”となるのは業務プロセスの棚卸し

IoTデータを活用する際に留意すべきは、業務プロセスに着眼し、どの部分にIoTを導入するかを見極めることです。IoT活用要件に基づいたデータの蓄積要件を抽出し、データを収集/蓄積する環境を整えるために、組織全体で俯瞰的な構想を描くことが大切です。

そのためには、全社レベルでのビジネスの方向性を踏まえ、業務全体のプロセスと企業全体の組織体制を見直す必要があります。もちろん、投資対効果や運用設計など、そのほかの要素も考慮しなければなりません(図表2参照)。

そして、IoT活用を成功させるために最も重要なのは、PoC(実証実験)を早期に開始することです。

PoC活用を成功させるステップは、図表3のとおりです。

最初に「どの業務の」「何を改善したいのか」という目的を明確にし、IoTで収集すべきデータを決定します。そして、既存データとIoTデータを統合し、業務要件に沿った分析をします。このデータ収集と分析のPDCAを迅速に回すことで、「目的達成のためには、どのデータをどのような手法で分析すればよいか」を把握するのです。そのうえで、データ分析やデータ/ナレッジの活用を実施できるIoTプラットフォーム構築の技術検証を行うステップに移行します。

実際のIoT活用製造現場を体験できる「エクスペリエンスセンター」

とはいえ、実際に「PDCAを迅速に回す」といっても、何から手を付ければよいかを把握している企業は少数派でしょう。こうした課題に対し、PwCではIoTのPoCを体験できる製造業向けソリューション「FDX(Factory Digital Transformation)」を提供しています。

PwC Japanグループ(以下「PwC Japan」)は2018年11月、企業や社会が抱える課題の解決に向け、デジタル領域で新たなイノベーションを共創する拠点を東京の大手町に開設しました。それが「エクスペリエンスセンター」です。ここではPwC Japanが提供する「BXT(Business=ビジネス、Experience=エクスペリエンス、Technology=テクノロジー)」を核にしたプラットフォームを体験することができます。

エクスペリエンスセンターには実際のPLC(Programmable Logic Controller/プログラマブル・ロジック・コントローラ)や無線で情報をやり取りするRFIDリーダーを配したミニチュア工場が、デモ環境として設置されています。

デモ環境ではPLCやRFIDによる生産ラインの動作状況の可視化だけでなく、BI(Business Intelligence)、音声認識、画像解析、データマイニング、ニューラルネットワーク、エキスパートシステムといった技術のシミュレーションを確認できます。さらに、リアルタイムモニタリングやIoT分析を実機で行い、ビジネスと技術を掛け合わせた環境を実際に稼働させ、その様子を検証することができます。

デモを通じた実際のデジタル工場体験は、「ビジネス」+「テクノロジー」で得られる効果を「肌感覚」で理解できることでしょう。PoCを検討する第一歩となることをエクスペリエンスセンターは目指しています。

また、PwC Japanには製造業や生産管理に精通したコンサルタントや技術担当者が数多く在席しています。ビジネスと技術の両面からデータの収集/蓄積、分析までを網羅した包括的なIoT活用を支援する環境が揃っています。「新たな工場マネジメントを考えているが、最初のアクションが踏み出せない」と悩んでいる方は、ぜひエクスペリエンスセンターに足を運んでみてください。

執筆者

矢澤 嘉治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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内田 裕之

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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