
COOやオペレーションリーダーが取り組むべきこと PwCパルスサーベイに基づく最新の知見
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
※本稿はDHBRオンラインに2024年に掲載された広告記事を転載したものです。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
パナソニックグループは、膨大なITレガシー資産を抱えながら、独自のDXプロジェクト「パナソニックトランスフォーメーション」(PX)を推進している。その目指すべき方向性と取り組み内容について語ってもらった。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現には、システムだけでなく人材や企業文化の変革も重要となる。しかしながら、従来のレガシー化した膨大なIT資産や慣習が足かせになり、多くの企業でこれらの変革が思うように進んでいない。日本を代表する企業であるパナソニックグループも約1200の既存システムを抱えている。このような状況下で、パナソニックの情報システム子会社であるパナソニック インフォメーションシステムズ(パナソニックIS)は、同グループのITインフラを、DXプロジェクト「パナソニックトランスフォーメーション」(PX)を支える「デジタルプラットフォーム」へと変革させることに挑戦している。このプロジェクトでは、ITだけでなく、オペレーティングモデル、カルチャーを含めた3層の変革を狙っている。一連のITインフラ変革をリードするパナソニックIS取締役の酒井智幸氏と同プラットフォームサービス事業部事業部長の横須賀武士氏、クラウド活用の高度化や組織風土の変革などを支援するPwCコンサルティング執行役員の中山裕之氏、同シニアマネージャーの岡田裕氏にこのチャレンジと変革の道程について聞いた。
参加者:
パナソニック インフォメーションシステムズ
取締役
インフラ・技術・新規事業開発・R&D・建設業担当、CTO
酒井 智幸 氏
パナソニック インフォメーションシステムズ
インフラソリューション本部
プラットフォームサービス事業部
事業部長
横須 賀武士 氏
PwCコンサルティング
エンタープライズトランスフォーメーション事業部
執行役員パートナー
中山 裕之
PwCコンサルティング
シニアマネージャー
岡田 裕
左から酒井智幸氏、横須賀武士氏、岡田裕、中山裕之
酒井智幸氏(左)、横須賀武士氏(右)
――なぜいま、パナソニック インフォメーションシステムズ(パナソニックIS)が取り組むITインフラ変革「ベストハイブリッドプラットフォーム」(BHPF)が注目されているのでしょうか。
中山(PwC):
技術の革新は日進月歩であり、特にクラウドは驚異的なスピードで進化を遂げています。昨今注目されている生成AIについても、各クラウドベンダーは競うように新サービスをリリースしています。もちろん生成AI以外にも、見える化ツールや監視、運用自動化などに関わる新サービスが続々とリリースされ、海外ではこのような技術を活用して変革を実現している事例が出ています。しかし、日本の多くの大手企業は複雑化・巨大化した現行システムの運用や保守切れ対応、さらにはブラックボックス化などが足かせとなり、クラウドなどの新しい技術を活用したITの変革が思うように進んでいないのが現状です。
国内有数の大企業であるパナソニックグループも同様の課題を抱えていましたが、パナソニックISは新しい技術を積極的に活用しながら、従来のITインフラを「DXを支えるプラットフォーム」へと変革させるべくチャレンジを続けています。特に既存のオンプレ(自社運用)資産を抱えながら、クラウドを効果的に活用する「ベストハイブリッドプラットフォーム構想」は、多くの企業にとってのヒント、あるいは解になるのではないかと考えます。
――パナソニックグループの従来のITインフラはどのような状態でしたか。
酒井(パナソニックIS):
パナソニックグループの情報システム部門は、長年にわたってシステム基盤を独自に構築・運用してきました。その技術力や積み上げてきた知見・ノウハウは大きな強みですが、逆に多くのIT資産を抱えて膠着した状態になり、クラウド化などに遅れが生じていたのも事実です。そこで、パナソニックグループでは2021年に始動したDXプロジェクト「PX」(パナソニックトランスフォーメーション)の下、グループ全体のITインフラの変革に取り組み始めました。
次ページ以降では、パナソニックグループの「DX」プロジェクトである「PX」への具体的な取り組みやPXにおけるパナソニックISの役割などについて解説していく。
――パナソニックグループが推進している「DX」プロジェクトをわざわざ「PX」と表現している理由と、PXにおけるパナソニックISの役割について教えてください。
酒井(パナソニックIS):
パナソニックグループのPXは、デジタルの力を活用しながら業務や経営のスピードを上げ、企業競争力を強化することが目的です。つまり、単なるITの変革ではなく、経営基盤を強化する重要戦略として位置付けています。
PXは「ITの変革」「オペレーティングモデルの変革」「カルチャーの変革」の3層のフレームワークで推進しています。「ITの変革」は、レガシーモダナイゼーション、データドリブン基盤の構築、SCMの最適化など。「オペレーティングモデルの変革」は、組織変革、ITサプライチェーンの変革、コストの最適化などです。そして、「カルチャーの変革」は、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の推進やオープンでフラットな職場、サイロからの脱却、新しいリーダシップのあり方などを目指しています。
デジタル技術は数年で陳腐化しますから、ITだけを刷新しても、他の2層が古いままでは全体としては陳腐化してしまいます。ですから、情報システム部門が主体となるのではなく、それぞれの事業現場が主体となり、この3層を同時に推進しています。もちろん、私たちパナソニックISも3層の変革を進めています。そうした中、パナソニックISはパナソニックグループのIT中核企業として全社共通のITの変革をサポートしていく役割を担っています。
中山(PwC):
今回の取り組みは、ITインフラの変革に留まらず、パナソニックISのインフラ部門としてのプロセスと文化の変革も含んでいることが重要なポイントと考えます。一方で、現実的には既存の膨大なIT資産を変革するのは容易ではなく、プロセスと文化の変革も一筋縄ではいかないのではないかと推察します。
酒井(パナソニックIS):
そこで現在、ITインフラの変革に向けた具体策として当社が取り組んでいるのがBHPFの構築です。このBHPF戦略はITインフラの変革だけでなく、パナソニックISインフラチームとしてのサービスの提供方法の変革や新しいことへの挑戦の加速など、文化とオペレーティングモデルを変革することにも挑戦しています。
中山裕之(左)、岡田裕(右)
――BHPFの推進に至った課題認識と目的について教えてください。
横須賀(パナソニックIS):
パナソニックグループを支えるシステムの数はパナソニックISが担当するものだけでも約1200に及び、メインフレーム、SAP、ウェブシステムなどバリエーションも多くなっています。これらのシステム基盤を維持・運用する一方で、クラウドサービス・プロバイダーが提供する新サービスや、ローコードなどの新技術を活用することが求められるようになっています。また、クラウドの活用が増加すると既存システムとの連携や、セキュリティの担保などへの対応も必要となります。
このように我々に求められるものは日々複雑化が進み、かつ増加しています。これらの要望に応えながらも、ITインフラの迅速化と効率化を進め、柔軟性を向上させることがBHPFの目的です。
岡田(PwC):
私たちが最初にパナソニックISにお伺いした時に、すでにこれらの目的に対応し、また多くの新しい取り組みを実施しており、さまざまな要望に応えられる技術力の高さが印象的でした。一方でメンバーの方々のやることが山積しており、インタビューをしてみると「これもやりたいがまだできていない」「ここがうまくいっていない」など、業務に忙殺され、達成感を得られていない姿が浮き彫りになりました。そこで、いったん立ち止まり、目指すべき方向と施策の優先順位の再定義を提案し、実行に至りました。
――具体的にはどのような方向を目指し、重点領域として取り組んでいますか。
横須賀(パナソニックIS):
まず目指すべき方向としては、アプリを開発する利用者がビジネス変化へ速やかに対応できるように貢献すること、新たなニーズへの対応力を向上させること、そしてメンバーがチャレンジできる環境を整えることとしました。そして、具体的な優先施策としては「提供サービスの拡充」と「構築・運用の自動化による信頼性と生産性の向上」を掲げました。
提供サービスの拡充には、現場のニーズに迅速に応える「標準サービス」と、現場の個別のニーズに柔軟に応える「スクラムサービス」という2つの柱があります。
「標準サービス」では、サービスの標準化・自動化・抽象化によって、利用者の活用シーンに応じたサービスの提供を目指します。そのために、保有しているサービスを一覧化し、利用者のニーズやトレンドに基づいて、新規サービスの追加や機能の強化ができるような「サービスポートフォリオ管理」のプロセスも整備しています。
中山(PwC):
クラウドの普及により、ITに精通していないメンバーでもシステム構築が容易になりました。一方で、このようなケースでは、セキュリティ対策やコスト管理が考慮されていない可能性があり、ITのガバナンスが利かない事態に陥るリスクが出てきます。この観点からもサービスを標準化し、そのサービス内にガバナンス機能を包含させておくことで、リスクの軽減を図ることが可能になります。
横須賀(パナソニックIS):
一方の「スクラムサービス」は、「標準サービス」では対応が困難な新たな技術領域のプロジェクトを、当社のITインフラを担当するエンジニアが開発者の個別ニーズに寄り添いながら支援するというものです。こうした個別(オーダーメード型)と標準(定型)のサービスを組み合わせて、効率化と生産性の向上を図るとともに、利用者に価値のあるサービスを提供したいと考えています。
岡田(PwC):
日本企業のIT部門では個別に対応しているケースが多く、結果として属人的になってしまい、障害の発生時も担当者でないと復旧できなかったり、ブラックボックス化してしまったりしています。今回のパナソニックISの取り組みは、サービスの標準化を行うことにより属人性を排除するとともに、汎用化できる部分は効率を追求しながら、一方で利用者に寄り添って個別対応することも大事にしています。
――「利用者への価値提供」にこだわりながら、サービスメニューの拡充を図られているものと理解しました。一方で、DX人材不足が叫ばれる中でこれらを実現するには、効率化や生産性向上が課題となると考えますが、どのような対応を行っていますか。
酒井(パナソニックIS):
標準化と徹底した自動化がベースになると考えています。その際、クラウドはもちろんのこと、オンプレに対しても抽象化を行い、新しい技術を導入可能な状態をつくり上げています。
また、先ほど横須賀が述べたように、サービスポートフォリオの刷新にも取り組んでおり、これらのサービスを利用者のニーズに合わせて提供するため、アプリ開発者に対するポータル活用も進めています。将来的には、ポータルを通じて自動化されたサービスを利用できるように「セルフサービス化」を目指しています。これにより、利用者が必要なITサービスをオンデマンドで選び、すぐに利用できるようになることで、業務の大幅なスピードアップが可能になると考えます。
中山(PwC):
BHPFはコストやリスクの最適化を狙ったインフラ刷新ではなく、事業部、アプリの開発者、インフラ担当のメンバーが一体となってPXを実現する「デジタルプラットフォームの構築」を目指しています。
プラットフォームが整備されることにより、アプリ開発の期間を短縮するとともに、セキュリティやコスト増加のリスクも低減可能になり、ITのビジネス変化への対応力向上が期待されます。
このように、DXの関係者が共創可能な「デジタルプラットフォーム」を構築することが、DX実現のための重要な要素となります。しかしながら、このようなプラットフォームを構築できている企業はまだ少ないのが現状です。昨今では「プラットフォームエンジニアリング」という名称で脚光を浴び始めていますが、パナソニックISのBHPFのアプローチもそれに通じる考え方といえるでしょう。
――大きな変革を実現しようとされていますが、現場も一体にならなければ変革も道半ばで頓挫してしまいます。実際に現場の抵抗を受けたり、変化を拒む社員がいたりするケースも少なくありませんが、この変革をリードされる中でどのような点に留意されていますか。
酒井(パナソニックIS):
メンバーには、どんどん新しいことにチャレンジしてもらいたいので、そのための機会を創出することや考えるための種を蒔くことを心掛けています。当社では、長年にわたって当時の最新技術を活用してシステム基盤を独自に構築・運用しており、その文化は脈々と受け継がれていると思っています。
また、組織全体の目標とチームの目標が噛み合わなければ、組織は動きません。できるだけ一緒にゴールイメージをつくり出し、その過程に寄り添い、メンバーと一緒に変革を進めていくようにしています。
岡田(PwC):
今回、酒井さん、横須賀さんを筆頭に部長クラスの方々にお集まりいただき、ワークショップ形式で目指すべき方向を検討しました。ワークショップは1回4時間を超えるもので、しかも複数回開催し、私たちも参加しながら徹底的に議論を重ねました。このようにリーダー層が旗振り役となって変革を実現しようとされていること、また、常に現場の状況に配慮されている姿がとても印象的でした。
横須賀(パナソニックIS):
当社の現場は、自ら考えて自ら実行できる能力を有しているので、より素早く判断し、行動できるように、権限をなるべく各チームに委譲しています。利用者と対話を重ねながら、機動力を持ってサービスの高度化を実現することを目的としています。一方で、BHPFは標準サービスの集合体ともいえる概念なので、そのポートフォリオの強化には組織やチームの枠を超えた連携が不可欠です。一つのチームでは解けない課題や会社の戦略上必要な施策に関しては、リーダー陣が推進し、組織全体の機能強化を実現できるよう努めています。
岡田(PwC):
当社が実施した「DX意識調査2023-ITモダナイゼーション編」によると、「リーダー層の新しい技術やプロジェクトの進め方に対する理解不足」が変革の阻害要因の上位に挙げられていました。その点、パナソニックISでは現場メンバーのみならず、酒井さん、横須賀さんを筆頭に、リーダー層が最新技術を積極的に学ばれています。このような風土があることが、現場でも新しい技術を積極的に活用する原動力になっていると推察します。
社内スキルの向上と変革し続けるマインドセットを根付かせることで組織能力を強化
――パナソニックISインフラチームにおける今後の課題と展望について教えてください。
酒井(パナソニックIS):
今後、少子高齢化が進み、IT人材の確保がより難しくなる中で、“人材育成と自動化の推進”が重要なテーマになると考えています。特に自動化は、単に効率を追求するのではなく、信頼性の向上にも寄与するので、現在も積極的に取り組んでいます。また、技術の進歩は留まることを知らず、当社のメンバーもその進化に応じたスキルを習得する必要があります。その動機付けや支援策を準備するとともに、「変革は一時的な取り組みではなく、継続すべきこと」とのマインドセットを根付かせることで、環境変化に柔軟に対応できる組織能力を高めていきたいです。
パナソニックグループの事業を取り巻く環境は今後も変化し続けていきますから、次に何に取り組むべきかが自律的に生まれてくるような文化を醸成し、「進化し続けるBHPF」を実現したいと思います。
中山(PwC):
DXを支えるプラットフォームの構築に当たっては、最新の技術を活用したIT変革を推進するだけでなく、新しいことに挑戦する組織文化を醸成することや、社内スキルと組織能力を向上させることを目指し、それをリーダー陣が率先して実行している点が参考になると考えます。
また、現場の自主性を尊重しながらも、現場では解決できない施策はリーダー陣がリードするなど、「ボトムアップ」と「トップダウン」のハイブリッドアプローチを採用している点も、今回のプロジェクトの特徴です。
PwCとしても、この変革を加速させられるよう伴走していきますので、引き続きよろしくお願いします。
リーダー層によるワークショップの風景
今回は「老舗企業におけるDXを支えるIT変革」をテーマに座談会を実施した。「ITサービスの標準化」や「自動化の推進」などIT関連の話題も出たが、変革を実行するには、企業風土や社員のスキル向上、そして何よりマネジメント層のリーダーシップが重要であるとの結論に至った。膨大なIT資産の変革に苦戦している日本企業は少なくなく、本稿がそのような方々の一助になれば幸いである。
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
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