
DXに挑む農林中央金庫、その舞台裏 DX推進の勘所は、「ヒト」「組織」のトランスフォーメーション
持続的な成長の基盤を築くDXでは、組織の変革、特に「ヒト」の育成がカギとなります。農林中央金庫とPwCコンサルティングのキーパーソンが背景にある戦略、具体的な取り組みの内容など、DX推進の勘所について語り合いました。
2023年夏、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)の大手町オフィスに新しく誕生したソリューション拠点「Industry Solution Garage」(ISG)。ISGはPwCコンサルティングが有する多数の業界ソリューションを展示し、クライアントの課題解決のために最適なソリューションをスピーディーに提供するために設けられました。
本稿では、ISGの誕生によってクライアントに対してどのような価値を提供できるかをテーマに、同拠点の担当役員を務める上席執行役員・矢澤嘉治が各パートナーと議論した内容をご紹介します。モデレーターはISGの戦略管理リーダーを務めるマネージャー・岩本康隆が務めました。
参加者:
Enterprise Transformation-Industry Solutions 上席執行役員兼
Industry Solution Garage 担当役員 矢澤嘉治
専務執行役パートナー 桂憲司
専務執行役パートナー 松島栄一
Technology Laboratory 上席執行役員パートナー 兼
PwC Intelligence 担当役員 三治信一朗
Experience Consulting上席執行役員パートナー 荒井叙哉
Future Design Lab上席執行役員パートナー 三山功
モデレーター
Industry Solution Garage 戦略管理リーダー マネージャー・岩本康隆
左から矢澤嘉治、桂憲司、松島栄一、岩本康隆
ISG設立の背景と目的を語る矢澤
岩本:
PwCコンサルティングの大手町オフィスに新設された「Industry Solution Garage」(ISG)はクライアントにとってどのような意味を持つ拠点となるでしょうか。ISGの担当役員である矢澤さんからご紹介をお願いします。
矢澤:
ISGを端的に説明すると、「手触り感のあるソリューション」を提供できることが大きな特長になります。ISGではミニチュア工場やデータ収集・分析ツールなどを展示し、製造業の現場での実際の利用シーンや使い方まで目に見える形で提示します。
昨今、多くの企業が「DX」や「カーボンニュートラル」といったテーマに取り組んでいますが、目には見えない概念的な側面も強く、クライアントの方々が何を目的に、具体的に何をすればいいか迷っているケースが散見されます。
DXを実現するにはAIやIoTなどの技術が必要ですが、実際に現場に導入した場合にどういった効果が得られるのか、といったところまで体験したうえで解決策を提示できることがISGの提供価値だと思っています。
また、ミニチュア工場でソリューションを見て「自分の工場でも試してみたい」と思った場合、データをいただければすぐさま検証できます。クライアントとしては実際の効果を目に見えるかたちで実感できるわけですから、課題解決に向けたプロジェクトを迅速かつ確実に進めることができます。
さらにISGではソリューションを組み合わせることで、1つの課題だけではなく複数の課題に対して解決策を提示できることもあります。「ISGに来れば、課題解決の答えが見つけられる」。そのように思っていただける拠点を目指していきたいと思っています。企業が抱える課題に対し、次々に処方箋を出す「総合医」のような存在でありたいですね。
岩本:
ISGを訪れるクライアントとして、どのような方々を想定されていますか。
矢澤:
主に企業の「現場」で課題に直面している方を想定しています。企業が抱える課題はますます複雑になっており、部門間の連携がないと解決できないことも多くなっています。ISGにお越しいただければ、はっきりとしたソリューションのゴールイメージを持っていただけると思います。そのため、生産部門や技術部門、品質管理部門などそれぞれの所属や立場をまたいだ社内連携も取りやすくなります。そうしたメリットも提示していきたいと思っています。
岩本:
ISG設立の背景にはPwCコンサルティングの全社戦略もあると考えています。
矢澤:
PwCコンサルティングでは、2021年に策定した成長戦略「3つのDによる変革プラン」(「Design」:描き・つくる、「Disruption」:従来の概念を覆す、「Dimension」:多次元から考える)に基づき、クライアントの課題を解決するブループリント(青写真)提供のスピードアップに大竹伸明CEOをはじめ全社を挙げて取り組んでいます。
クライアントが抱える真の課題は、1つの業界知見や、1つのソリューション、国内だけの視点ではもはや解けません。こうした現状認識のもと、PwCコンサルティングではさまざまな業界知見、ソリューション、グローバルな視点を組み合わせるための組織変革に取り組んできました。
2023年1月には、製造業部門で活躍するコンサルタント100名以上が有する多様なソリューションを組み合わせ、インダストリーの重要課題を解決することを通じて企業変革を推進する組織「ET-IS(Enterprise Transformation-Industry Solutions)」を私がリードするかたちで新設しました。
ISGは、こうしたET-ISの活動を発信する重要な拠点であり、製造業部門発の組織変革の集大成となります。当面は製造業の課題を対象としますが、順次、他の産業にも広げていく予定です。
桂:
経営課題や事業課題がますます複雑化する中、1社だけで解決できることは少なくなっています。また、昔のように他の産業や海外の企業をベンチマークすれば解決できるわけでもなく、私たちがクライアントと一緒になって未来を作らなければいけないと思っています。
ただ、クライアントに未来のイメージを持っていただくためには、分厚い提案書を制作するのではなく、実際に目に見えて手で触れられる「手触り感のあるソリューション」をアジャイルに提案することが求められています。そうした点でISGが果たす役割は大きいと考えています。
松島:
「未来」の観点で言うと、クライアントは現状の課題であれば既存の組織で対応できますが、未来の課題や新しいビジネスモデルとなると既存の組織だけでは対応できないでしょう。経営層が未来志向で大きなテーマを掲げても、既存の組織では抜け漏れが生じてしまうのです。
そうしたときにISGが大きな見取り図を提供し、課題に応じたソリューションをクライアントが具体的にイメージできる形で提示できればと思っています。また、私たち自身もISGの見取り図をもとにクライアントにとって重要となる領域を強化したいと思っています。
岩本:
PwCコンサルティングでは、これまでもさまざまなプロフェッショナルの力を集結させた組織を設置してきました。ISGはこうした組織に仲間入りすることになりますが、各組織のリーダーからそれぞれの簡単な説明とISGに期待することを伺っていきたいと思います。
まずは三治さん、お願いします。
三治:
私が所管するTechnology Laboratory(TL)は、テクノロジーを軸に産官学連携を推進し、社会に大きなインパクトを与えるであろうテクノロジーの社会実装を支援する組織です。具体的なテーマとしては、ロボットやドローンといった徐々に普及が始まっているものや、これから実装がはじめる空間IDや脳科学などが挙げられます。
社会を変革していくようなテクノロジーの使い方を経営者の目線で検討していく中で、多くのアイデアやユースケース、ソリューションを生み出しています。これらをビジネス側に渡していった場合にどう活用して、どう実際に使われるものに仕上げていくか。こうした「ビジネス化」の部分でISGとのシナジーを期待しています。
PwC Intelligence(PI)は「知の統合」を担うシンクタンク部門で、サステナビリティや地政学、サイバー、エマージングテクノロジー、マクロ経済といった幅広い領域のテーマを取り扱っています。
それぞれの分野の「知の巨人」たちが集まり知識を融合させ、「確度の高い未来」の見通しを作ることで、経営層の方々が次世代に残す環境変化を考えビジネスに生かすための基盤を提供する。これがPIの役割です。
経営層が次の世代にバトンを渡していく、あるいは現場サイドに落としていく際にデータの意味を分かりやすく伝える「翻訳」の工程を、PIとISGで連携しながら行いたいですね。
岩本:
続いて荒井さん、「エクスペリエンスコンサルティング」の観点からISGに期待するものは何でしょうか。
Technology LaboratoryとPwC Intelligenceの役割を説明する三治
エクスペリエンスコンサルティングとISGの連携に対する期待を話す荒井
荒井:
エクスペリエンスコンサルティング(EC)が目指すのは「デザインの力でイノベーションを起こす」ことです。私たちはHuman-centered Design(人間中心設計)をコアバリューとしており、人に着目して企業や世の中の変革をリードしていきたいと考えています。
PwC独自のアプローチである「BXT(Business eXperience Technology)」の中で、私たちエクスペリエンスコンサルティングは「X」、すなわち「体験」「エクスペリエンスデザイン」のプロフェッショナルとして、クリエイティブなアイデアをタンジブル(手に取って実感できる)なソリューションに落とし込んでいきます。
ECとISGはBXTという大きな考え方のもとで、ソリューションを手触りのある形でスピーディーにクライアントに届けるという点で近しく、連携しやすいと思います。
ECはクライアントの課題を人間起点で見つけ出し、今までにない発想でゼロから新しいアイデアを練ってソリューションを作り上げて実装することに重きを置いています。一方で、ISGはすでに顕在化している課題やすでに解決方法がある場合に、磨き上げたソリューションをスピーディーに提供することができます。
ECとISGそれぞれの得意領域を踏まえれば、よりスピーディーにクライアントの課題を解決できるでしょう。
岩本:
三山さん、「Future Design Lab」(FDL)はどのような役割を持っているのでしょうか。
三山:
FDLはその名のとおり未来をデザインする組織で、クライアントにとって「より望ましい未来」をデザインすることにフォーカスしてアドバイザリーサービスを展開しています。
確度が高いという意味で「固い未来」を描くために必要な材料を提供するのがPIだとすると、FDLは未来の可能性を広げるという意味で「柔らかい未来」を描きます。
クライアント、特に経営層の方々から、中長期の戦略を考えても、日本の人口減少や産業規模の縮小といった要因があるため、「なかなか明るい未来が描けない」という悩みをよく相談されます。
こうした悩みを持つ経営層と伴走し、今とは違うオルタナティブで望ましい未来をデザインする。そして一緒に作り上げた未来からバックキャストで、具体的な企業の活動に落とし込む。この一連の流れがFDLの提供価値となっています。
ISGでは、まず製造業の未来にフォーカスをしたインダストリーソリューションを作っていきます。ただ、ゆくゆくはFDLが描く各産業の未来を共有し、そうした未来を形づくるソリューションをガレージの中で一緒に作っていければ、非常に面白いことが実現できるのではないかと期待しています。
岩本:
各組織が描いたビジョンや方向性、クライアントが抱える課題に関して、ISGが形あるものとしてスピーディーに実装化することを期待していることがよく分かりました。
桂:
「スピーディー」について言うと、PwCコンサルティングは成長戦略である「3D戦略」に基づいて組織の機動力を高め、クライアントへの価値提供のスピードをどんどん上げようとしています。
ISGの誕生により、具体的なソリューションをスピーディーにクライアントに見せ、クライアントとともにアジャイルにトライ&エラーを繰り返すというコンサルティングのスタイルが進んでいくと考えています。
また、ISGが有する製造業をはじめとするインダストリーの知見は、抽象的・概念的な話にとどまらず、より具体的な課題解決に踏み込んでいけるという点でとても重要だと考えています。
クライアントへの提供価値は、「高さ」(全体的な戦略・方向性)、「深さ」(具体的な踏み込み具合)、「広さ」(社内連携や対応領域の範囲)の観点で考えられますが、ISGのインダストリーの知見が全社に広がり、「深さ」の強みが全社的にさらに増強されることを期待しています。
松島:
インダストリーの現場が抱える具体的かつ複雑な課題に対する知見と、テクノロジーによるソリューションの力をISGが全社的につなげることでクライアントに大きな価値を提供できるはずですね。
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