「スマートモビリティ・イニシアチブ」 立ち上げに至る歴史を振り返る

PwCコンサルティングの「オートモーティブ」を作り上げた歴代リーダーたち

  • 2023-12-11

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)がこのほど立ち上げた組織横断型イニシアチブ「スマートモビリティ・イニシアチブ」は、これまで当社が培ってきたモビリティに関する知見やプロフェッショナルを結集させたことで実現しました。

PwCコンサルティングのオートモーティブ(自動車部門)における創設期から発展期、現在に至るまでを支えた歴代リーダーである大竹伸明CEO、松島栄一専務執行役パートナー、矢澤嘉治上席執行役員パートナーが同部門の現在に至るまでの取り組みを振り返り、これからの未来について展望しました。

参加者:

代表執行役CEO 大竹 伸明
専務執行役パートナー 松島 栄一
上席執行役員パートナー 矢澤 嘉治

モデレーター:

ET-IS マネージャー 糸田 周平

左から大竹CEO、糸田マネージャー、矢澤パートナー、松島専務

オートモーティブの創設期(2014~2018年)について振り返る大竹CEO

オートモーティブの創設期(2014~2018年)について振り返る大竹CEO

「やるべきこと」を明確にし、現在につながる成長の基盤を構築

糸田:
大竹さんは2014年に入社 し、オートモーティブ(自動車部門)の立ち上げを主導されました。当時の状況について教えてください。

大竹:
当時は、やりたいことがたくさんあるけどそれを実行する人材が足りないという悩みを抱えており、積極的な人材採用を進めていました。そのやりたいことの1つに「オートモーティブチーム(自動車部門)の強化」というテーマがありました。当時は自動車産業全体が大きな変革期に入ることが目に見えていたタイミングでもあったため、「大きく成長させるチャンスがある」と考え、オートモーティブチームの担当パートナーとして入社しました。

当時のオートモーティブチームの売上の多くを自動車部品メーカーが占めていました。自動車メーカーより自動車部品メーカーの売上が大きいのは、深刻な課題だと感じ、売上の割合を逆転させることで「自動車産業全体をカバーできるコンサルティングファームに変わる」ことを方針に据えました。

また、もう1つ課題だと感じたのは、バックオフィス関連など自動車とは直接関係のない仕事を多く引き受けていたことです。例えば、グローバルの連結決算システムのRFP(提案依頼書)の作成や、間接購買の支援といった業務は、PwC以外のコンサルティングファームでも請け負うことが可能であり、差別化や将来的な売上増加にはつながらないと考えました。

そこで私は「自動車メーカーが本当に必要とする支援」に注力する戦略を打ち出しました。具体的には、生産管理や品質管理、PLM(Product Lifecycle Management)といった自動車産業のコア部分の支援です。

当時バックオフィス関連の支援に関与していたコンサルタントは30~40人いましたが、上記の戦略を宣言したところ、なかなか賛同が得られず主要メンバーは10人程度にまで減ってしまいました。

提供するサービスをかなり絞り込んだため、私が担当パートナーになった直後の1年は売上がほとんど伸びませんでしたが、それはやるべきことにリソースを集中させていたためであり、想定通りの結果でした。

2015年以降に、松島さんや矢澤さんを中心に自動車産業の知見を持つメンバーが続々と参画してくれたおかげで、生産管理などニーズが高い領域の支援にも本格的に乗り出すことができました。

自動車メーカーとの仕事も徐々に増え始め、当初は5人程度の小規模なプロジェクトも多かったですが、2018年ごろには百数十人数規模のプロジェクトを獲得できるまでになりました。

糸田:
売上を伸ばすために必要な人材はどのように確保したのでしょうか。

大竹:
当時は自動車製造や設計に関する業界・業務を深く理解するコンサルタントはほとんど市場にいませんでした。そこでコンサルタントだけではなく、事業会社の出身者を積極的に採用しました。

コンサルティングファームではありますが、自動車産業の専門チームなのだから、管理会計と原価を理解し、原単位までクライアントと一緒に計算できるような人に働いてほしいという思いがあったからです。自動車産業を隅々まで理解していることが、私たちのアイデンティティであるべきだと思っていました。

自動車メーカー向けにバックオフィス以外の仕事に取り組みたかったため、あまり制限は設けず、積極的に多様な人材を受け入れるようにしたことで、新しいことに挑戦したい人材がどんどん集まってくれました。

糸田:
当時はどのようなオートモーティブチームの未来像を描いていましたか。

大竹:
「PwCコンサルティングといえば自動車」というイメージをクライアントに持ってもらうために、何とか売上高を100億円以上に育てなければならないと思っていました。これはコンサルティング業界で首位となる規模で、私が担当パートナーになったタイミングから見ると5倍以上です。

そこで私は足元の強化だけでなく、売上高100億円に到達するための「種まき」も同時に行っていました。

例えばソリューションの観点では、設計や生産など「実行領域」だけでなく、ビジネスモデルの立案など上流にあたる「戦略領域」にまで幅を広げる必要があると考え、これらの知見のある人材の確保も徐々に進めていました。

また、国内だけではいずれ成長が鈍化するタイミングが来ると考え、海外の売上のKPIを設定し、他のインダストリーに先行してグローバル展開も推進しました。

当時は私自身も数カ月に1度のペースでアジアを中心に海外出張し、現地で日系のクライアントに直接会い、単にソリューションを提案するだけでなく海外における課題もヒアリングしていました。

糸田:
2019年までの約5年間で、オートモーティブチームの成長の基礎を構築されたのですね。

大竹:
やるべきことを明確にしたことで自動車メーカーから大規模プロジェクトを受注できるまでになり、今につながる土台を作り上げられたと思っています。

私の考え方に対する反対の声も少なからずありましたが、他社が取り組めていない「自動車メーカーが本当に必要とする支援」をやり続けることで、私たちが選ばれるようになるとの自信がありました。

モデレーターを務める糸田マネージャー

組織やソリューションを発展させ、次なる成長を実現

糸田:
続いてオートモーティブの発展期(2019~2022年)のかじ取りを担った松島さんに、当時の状況や課題を伺います。

松島:
私が大竹さんから2019年にオートモーティブチームを引き継いだ時には、すでにある程度の人員は揃っていました。しかし各々のメンバーが個別にやりたいことを進めており、チームとしての連携がうまくとれていないという課題がありました。

そこで私はチーム全体の目標として「メンバー同士の積極的な連携」を掲げ、社内コラボレーションの度合いを評価指標に取り入れる仕組みの活用を徹底しました。その結果、チームだけなくPwCコンサルティング全体での連携が進み、クライアントに対してさらに質の高いサービスを提供できるようになりました。

また、事業会社出身者の育成にも課題がありました。彼らは高い専門性を持ち、例えばクライアントの工場長と同じ目線・レベルで現場の課題について会話ができる一方で、コンサルティングのスキルを十分に持ち合わせているわけではなかったのです。

そこで私たちはオートモーティブチーム内でコンサルティングの基礎研修プログラムを設計し、スキル習得のペースを加速させました。専門知識とコンサルティングのスキルを掛け合わせることで、早い段階から活躍できるメンバーも増え、定着率の向上にもつながりました。

また、この研修を受けた事業会社出身者が、新しく入ってきたメンバーを教育するという好循環も生まれ、今ではこのプログラムは全社で活用されています。

糸田:
ソリューションの観点ではどのようなことに取り組まれたのでしょうか。

松島:
大竹さんが種をまいた「戦略領域」の強化を狙い、バリューチェーン全体をカバーできるようソリューションのラインアップを拡充させていきました。

ただ、チーム全体の勢いが増してきたころに新型コロナウイルス感染症の流行が始まりました。製造業全体の見通しが芳しくなかったことに加え、拡大してきたサービス・組織に歪が生じていたこともあり「今こそ足元を固めるタイミング」と考え、サービスの体系化・タスクの分業化・工業化など、ソリューションの整理も並行して推進していきました。

私がリーダーに就いた当時は、社内で同様のソリューションをプロジェクトごとに開発・提供しているケースが多々ありました。そこで「集約して効率的に運用する」という考えのもと、まずはオートモーティブチーム内のソリューションについてCoE(センター・オブ・エクセレンス)化を進めました。

CoE化により私たちのソリューションを会社全体で展開できたことに加え、プロフェッショナルが持つノウハウの標準化にもつながりました。

今ではこのCoE化の仕組みが全社に広がり、さまざまなテーマで活用されています。また、標準化されたノウハウはトレーニングマテリアルとしても活用され、コンサルタントの育成に寄与しています。

実はコロナ禍であってもオートモーティブの売上は落ち込みませんでした。クライアントの多くがバックオフィスなどの支援から優先して削減したためです。大竹さんが掲げた方針に沿って生産管理や品質管理など「自動車メーカーが本当に必要とする支援」に取り組んできたことが奏功しました。

クライアント開拓のため米国やドイツへ海外出張に行った際に、現地のPwCメンバーファームのコンサルタントに私たちのソリューションを紹介すると、そのレベルの高さに驚かれることも少なくありませんでした。

「私たちのソリューションは世界で通用する」と確信し、今ではPwCグローバルとの共同プロジェクトを通じて、海外でも日本発のソリューションを展開しています。

糸田:
施策の効果により、オートモーティブチームは急速な発展を遂げました。

松島:
私たちの武器となるソリューションの拡充や、チームやメンバー間の連携推進、育成の仕組みの構築、本格的な海外展開などを進めた結果、売上規模はコンサルティング業界でもトップクラスにまで成長しました。大竹さんが目指した理想像を、ある程度実現できたと自負しています。

また、私たちが考案した施策のいくつかは全社でも活用されています。オートモーティブチームだけでなく、PwCコンサルティング全体の成長に貢献できていることはとても嬉しく思いますね。

発展期(2019~2022年)の取り組みを説明する松島専務

スマートモビリティ・イニシアチブの目指す姿を語る矢澤パートナー

糸田マネージャーの質問に答える歴代リーダーたち

糸田マネージャーの質問に答える歴代リーダーたち

モビリティ時代の複雑な課題を解決するため、業界横断の支援体制へ

糸田:
続いて、新設した「スマートモビリティ・イニシアチブ」について、リーダーである矢澤さんに伺います。まず、イニシアチブを立ち上げた背景と狙いを教えてください。

矢澤:
私も大竹さん、松島さんのもとでオートモーティブチームに所属し、自動車産業を対象にさまざまなソリューションの開発に取り組んできましたが、昨今のCASEのような課題は、産業の垣根を越えて取り組まなければ解決できなくなっています。

例えば自動運転の実現に向けては、法規制については官公庁、実証実験については自治体、販売金融や保険については金融業、プラットフォーム実現に向けては通信企業、のようにテーマごとに業界も業種も異なる相手との連携が求められます。

産業を横断する難易度の高い課題の解決には、これまでのオートモーティブの枠組みを超えて、私たち自身もそれに合わせた体制を構築する必要があると判断しました。

PwCコンサルティングには多様な領域の専門性を持った人材が4,000人以上在籍しています。自動車だけでなく金融や通信など各種業界のプロフェッショナルが集まり、横断的にクライアントを支える体制を構築することで、課題解決の成功率を上げることができます。

そこで今回立ち上げたのが「スマートモビリティ・イニシアチブ」です。

モビリティに特化した業界/業務知見の圧倒的な「長さ(経験)」「深さ(専門)」「広さ(連携)」に基づき、業界横断でサービスを提供する専門集団であり、プロフェッショナルの英知の結集させた各CoEが「産官学」のハブとなることで、スマートモビリティの未来をクライアントと共創していきます。

私たちが注力するテクノロジー領域は、自動運転、MaaS/スマートシティ、EV(バッテリー)、カーボンニュートラル/LCA、SDV、次世代車両開発/生産、サイバーセキュリティの7つで、いずれもモビリティの変革を推進するために不可欠であり、今後のスマートモビリティの方向性を決めていくうえで特に重要なものです。

スマートモビリティ・イニシアチブは、モビリティビジネスに関連するさまざまなCoEやPwCコンサルティングの各チームの力を結集させることで実現できましたが、こうしたコラボレーションの中心となるのが2023年に私が立ちあげた「ET-IS(Enterprise Transformation-Industry Solutions)」という組織です。自動車分野のプロフェッショナルが数多く在籍し、これらのメンバーが所属するR&DやLCA、スマートモビリティなどの各CoEがイニシアチブのコアを担っています。

糸田:
スマートモビリティ・イニシアチブはどのような目標を掲げているのでしょうか。

矢澤:
私たちの将来的な目標は、スマートモビリティ・イニシアチブを社会における「スマートモビリティ領域のCoE」のような存在とすることです。

企業や自治体、官公庁の皆さんと一緒に課題を解決していく中で得られる知見や成功モデルを蓄積し、それらを活用することで、さらに多くのクライアントに支援の手を届けていく。PwCコンサルティングとクライアントがともに大きなCoEを作り上げていくイメージです(図表:スマートモビリティ・イニシアチブの概念図)。

社内だけでなく社外(クライアントや有識者ネットワーク)も巻き込んで「モビリティの未来」を共創し、スマートモビリティ領域における「圧倒的No.1」の地位を確立していきたいと思います。

糸田:
それでは最後に、皆さんからスマートモビリティ・イニシアチブへの期待を伺います。

大竹:
ぜひ、自動車メーカーと目線を合わせてモビリティの未来を考えてもらいたいですね。彼らが車を作ること自体を標語に掲げることは少なくなっており、目線は社会課題解決に向いていると思います。

クライアントのビジョンを深く理解し、社会課題の解決においてモビリティがどのような役割を担うかをクライアントと同じ目線で考えていくことが求められると思っています。

松島:
これまで以上にビジネスモデルへの意識を高めてクライアントを支援してほしいです。スマートモビリティの領域では新しいテクノロジーが次々と生まれ、ビジネス環境が目まぐるしく変化していくため、多くのクライアントが新しいビジネスモデルの構築に苦慮しています。

モビリティ産業の上流から下流まで知り尽くしている私たちだからこそ、ビジネスモデルの策定から実行までを一貫して支援できるはずです。

矢澤:
私たちのミッションは、自動車に関する「縦」の知見と、業界をまたぐ「横」の連携を組み合わせることで、クライアントへの提供価値の最大化を図っていくことです。イニシアチブを通じて、さらなる案件獲得と人材育成を実現することが、PwCコンサルティングの今後の成長の原動力になってくれると期待しています。

糸田:
2014年から脈々と受け継がれてきたオートモーティブチームの歴史があるからこそ、今のスマートモビリティ・イニシアチブにつながるのですね。歴代リーダーたちが築き上げたDNAを受け継いで、私たちが次の歴史を作っていきたいです。

スマートモビリティ・イニシアチブ対談コンテンツ

スマートモビリティ・イニシアチブを立ち上げた背景や狙い、クライアントへの提供価値についてこちらの記事で詳しく紹介しています。
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/industry-transformation/vol05.html

スマートモビリティ・イニシアチブがフォーカスする7つのテクノロジー領域について、こちらの記事で詳しく紹介しています。
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/industry-transformation/vol06.html

主要メンバー

大竹 伸明

代表執行役CEO, パートナー, PwCアジアパシフィックコンサルティングリーダー, PwCコンサルティング合同会社

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松島 栄一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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矢澤 嘉治

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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糸田 周平

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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