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2022-09-29
2022事務年度金融行政方針が8月31日に公表されました。前事務年度と同様、3つの主要な構成は変わらず、銀行等の金融仲介機能とモニタリング方針、金融庁の諸政策方針、金融庁組織について記載されています。今回特筆すべき点として、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けた行政方針が幅広く示されており、モニタリング方針にも、業態横断的な基本的な方針が大幅に加筆され、安定的資産形成等のための「利用者目線に立った金融サービスの普及」が加えられました。
内部監査については、前事務年度と同様に、金融行政方針の中には具体的な記載はありませんが、金融庁が示す政策やモニタリングの方針を深く理解することは、フォワードルッキングな内部監査のテーマを検討する上で、また内部監査の高度化に向けて必要不可欠です。本稿では、金融機関の内部監査部門が監査を行うにあたって、金融行政方針において着意すべきポイントを紹介します。
金融仲介機能に関して、コロナ・自然災害禍における資金繰り支援、事業者支援、保証担保に依存しない融資慣行の確立に加えて、地域活性化に向けて財務局や経済産業省、事業者支援団体との「連携」に重きを置き、金融支援だけでなく、スタートアップ支援、人材支援、デジタル化支援、脱炭素支援など多角的で幅広い事業者支援へと拡大してきています。
こうした金融仲介・事業者支援機能を発揮するため「経営基盤の強化と健全性の確保」が必要として、①国内外の営業基盤、財務基盤、➁ガバナンス、③各種リスク管理態勢、の3点をモニタリングの対話ポイントとして明示しています。
また、顧客の安定的な資産形成に資する商品組成・販売管理等に向けて、顧客本位の業務運営など「利用者目線に立った金融サービスの普及」を業態横断的モニタリング方針に新たに加えています。岸田政権の個人金融資産2,000兆円の「貯蓄から投資」に向けた政策との整合性を図っています。
さらに「世界情勢等を踏まえた各種リスクへの対応」として、信用リスクや市場リスクなど金融機関の収益に直結するリスク管理に加えて、マネロンやサイバー、システムリスク、昨年度からオペレーショナル・レジリエンス、経済安全保障が加わり、業態横断的なモニタリング方針が大幅に拡充されています。なお、オペレーショナル・レジリエンスについては、今後策定するディスカッションペーパーに基づき金融機関等と対話するとしています。
今年12月末までに「資産所得倍増プラン」が策定されることが述べられています。金融行政方針も「貯蓄から投資」に向けた顧客本位の業務運営や資産運用の高度化、資本市場の機能強化などの政策を統合的に取り扱っています。このことから、業態横断的なモニタリング方針に新たに加わった顧客本位の業務運営の現場定着や、適合性原則を踏まえた投資勧誘、プロダクトガバナンスの実効性確保の取組みなどが、今後重要性を増してくるものと考えられます。
ガバナンスについて、金融行政方針には、金融機関に共通するガバナンス項目はありませんが、業態横断的な対話テーマとして、金融機関の人的投資・人材育成、デジタルトランスフォーメーション(DX)促進、顧客利便性の向上、新規ビジネス開拓、地方銀行では「経営改革」の促進と「経営の高度化・多角化を図るための銀行持ち株会社」が、いわば攻めのガバナンスに位置するテーマとなっています。一方、守りのガバナンスについては、主要行、証券会社、保険会社では、海外進出状況等を踏まえて昨年同様「グループ・グローバルのガバナンスの高度化」が共通しているほか、主要行等では銀証間ファイアーウォールの規制緩和を受け、優越的地位の濫用防止態勢をグループガバナンスにおける論点としています。
このほか、資産運用会社等に対するプロダクトガバナンス1に関して、「顧客利益最優先の観点から経営陣主導により実効性確保に向けた」具体的な対応状況や成果を重要な論点としています。
なお、金融分野のDXのITガバナンスについて、今年度の金融行政方針では項目はなくなりましたが、2022年6月に金融機関のITガバナンスに関する調査レポートが公表され、「DX推進及びデジタル人材の確保・育成が求められていることから、2022事務年度も金融機関との対話を行っていく」としています。
昨年に引き続き「グループ・グローバルのガバナンス」について、海外拠点のある金融機関、経営の高度化・多角化などでグループ子会社・外部委託先が増えている金融機関では、高度化が求められており、内部監査はこれらの関係会社等の経営実態とともに、本社によるグループ・グローバルのガバナンス態勢も検証する必要があります。また、これらを有効に行うため、内部監査態勢もグループ・グローバルレベルの高度化が求められています。
金融経済情勢について、コロナ、ウクライナ侵攻に伴う物価高騰など、国内外の経済の先行きに対する不透明感が大きく高まるとともに、気候変動問題、デジタル化の進展、人口減少など、急速で構造的な環境変化として強い危機感を表現しています。コラム編には昨年度にはなかった「現下の金融経済情勢」を掲載し、その根拠も具体的に示しています。
これらの経済環境・金融市場の変化に対応して、業態横断的なモニタリング方針では、業況が悪化した貸出先に対する与信管理や事業者⽀援、市場・流動性リスクについてはALM管理の視点を含めたモニタリングとしています。主要行等には、内部格付の付与や償却・引当に係るプロセス、事業再編資⾦などニーズの高い分野の融資慣行についての対話、地方銀行に対しては「リスクテイクの状況に応じたリスク管理の高度化」が必要とし、複雑なリスクを伴う融資や有価証券運用などのリスクの管理状況等について検査等も活用してモニタリングするとしています。
マネロンについて、昨年度「リスクの高い業態を優先的に検査・監督する」とした方針から、「財務局、日本銀行と連携して、集中的に実施する」方針に変わり、ガイドライン対応期限を2024年3月までとして、マネロン検査を加速して実施するものと考えられます。
サイバーセキュリティでは、昨事務年度、地域金融機関に対して行ったサイバーセキュリティ管理態勢の成熟度評価の自主点検票を、保険会社や証券会社にも活用を検討するとしています。現下の国際情勢やサイバー攻撃の脅威動向を踏まえると、サイバーセキュリティ管理態勢のレベル向上は、今まで以上に経営上の重要課題と認識すべきと考えられます。
システムリスク管理について、昨今の大規模システム障害事案を反映して、システム障害事案の「真因」分析、改善策の「実効性」を検証するとし、検証目線を踏み込んで表現しています。また大規模・高難度システム統合・更改事案には事前の「検査を含めた深度ある検証」を行うことを明記しています。さらに外部委託先を含めた情報資産管理、脆弱性管理等の実態把握も進めるとしています。昨年と比べて記載量が増え、内容も具体的で管理態勢の向上を強く求めているものと考えられます。
昨今の金融市場の動向を踏まえて、内部監査では、有価証券運用の特に海外投資に関してALM管理を含めたリスク管理態勢を適時リスク評価し、リスクコントロールとガバナンスの有効性を確認する必要性が増しています。またサイバーリスク管理について、自己評価するモニタリングが業態横断的に広がることが予想され、コントロール状況の把握やサイバー演習の結果と課題対応について検証していくことが求められると考えられます。また、システムリスクについて、重要性の高いシステムの障害報告における原因分析と改善対応についてモニタリングを行い、コントロール状況の評価を的確に行うことなどが考えられます。
2022年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、「資産所得倍増プラン」の策定に関して、「家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作る必要がある」としています。
これを反映して、金融行政方針はインベストメントチェーンの参加者に期待される役割を果たす必要があるとして、金融庁ではNISAの改善、国民には金融リテラシーの向上、⾦融機関には顧客本位の業務運営の確保、アセットオーナーや資産運用会社には資産運用の高度化、資本市場にはスタートアップなどへの成⻑資⾦供給を促す機能強化、企業にはコーポレートガバナンス改革と人的資本など非財務情報の充実、会計監査の信頼性確保などがそれぞれに期待される役割として記載されています。
これらの項目の多くは昨年度も記載はありましたが、今年度はインベスメントチェーンの参加者(金融庁、国民、金融機関、機関投資家、資産運用会社、取引所、企業、監査法人等)に対応して、その役割と政策的課題を総括的に記載していることが特徴点といえます。
顧客本位の業務運営について、資産運用会社等のプロダクトガバナンスの推進とガバナンス強化に向けて「原則」の見直し、適切な勧誘や助言が行われる制度的枠組み、デジタルツール活用による顧客への情報提供充実に向けた制度面の検討を行うとしています。
また、業態横断的なモニタリング方針には、顧客の資産形成に資する商品組成・販売・管理等についてモニタリングを行うとしています。地域金融機関において証券会社と連携協定を結ぶ動きが広がっていることや、仕組債商品販売において苦情相談が発生していることから、⾦融庁に寄せられた苦情の分析やセグメント別の収益状況等の検証結果を基に、顧客本位の業務運営と経営戦略について対話するとしています。
さらに、銀証間のファイアーウォール規制の緩和の影響として、金融庁に「優越的地位の濫用防止に係る情報収集窓口」を新設し、優越的地位の濫用防止態勢を重点的に検証するとしています。
このように、預金等取扱金融機関を中心に、貯蓄から投資のための「顧客本位の業務運営」について、具体的な取組みが営業現場に定着させているか、その実効性確保の取組みの重要性が高まっています。
内部監査部門では、これまでも顧客本位の業務運営に関するテーマ監査や拠点監査を実施していますが、証券会社との連携業務の管理態勢や、複雑なリスクを内包する金融商品の取扱い審査・販売管理態勢、顧客からの苦情相談の対応・報告態勢など、1線のリスク管理のみならず、2線の内部管理態勢についても、深度ある検証の必要性が高まっていると考えられます。また、経営陣が長期的に持続可能な経営戦略を検討し、取組方針に具体的に明記し、現場の定着をどのように管理しているかは重要性の高い検証テーマと考えられます。
金融商品・サービスの販売等におけるコンダクトリスクについて、仕組債販売に関する相談や苦情が証券会社の⾦融商品仲介業者、地域銀行への業務委託を通じて発生しているとしています。業態横断的モニタリング方針では、顧客の資産形成に資する商品組成・販売・管理等を行う態勢構築をモニタリングするほか、市場監視の取組みでも適合性原則を踏まえた適正な投資勧誘等のための内部管理態勢の構築、顧客本位の業務運営の原則に基づいた取組方針と販売実態との整合性を重点的に検証するとしています。
金融庁のモニタリング体制では、証券モニタリング分野でも財務局との連携・協働を強化するほか、利用者相談室や金融ADR監督部署、コンダクトリスクの調査・分析部署を一体運用し、利用者トラブルに関する情報の多角的な分析と実態把握を行うとしています。
不公正取引等については、証券会社に不正取引検知・防止のための態勢整備、実効性のあるコンプライアンス態勢や内部管理態勢をモニタリングするととともに、市場監視の取組みでも不公正取引の端緒発見のため、証券監視委の情報受付窓口等に寄せられた情報も活用し取引審査を行うとしています。
このほか、銀証ファイアーウォール規制の見直しを踏まえ、顧客情報管理態勢及び利益相反管理態勢等の整備状況についても検証するとしています。
保険分野では、節税(租税回避)を主たる目的とした保険商品の販売等、保険本来の趣旨を逸脱するような商品開発や募集活動を防止するため、実効性のある商品審査や保険募集に係るモニタリングを行うことや、営業職員による不適切事案が継続的に発⽣している状況を踏まえ、保険会社における実効的な営業職員管理態勢の整備を促していくとします。
このように、証券・保険の金融商品サービスの販売・取引において、コンダクトリスクや不正取引、不祥事件の発生防止に向けた内部管理態勢を適切に整備・構築していくことが求められています。
内部監査部門では、金融商品の取引・販売等におけるコンダクトリスクや不正・不祥事件リスクの発生防止管理態勢について、リスクのコントロール状況を顧客からの苦情相談や挙績情報等の活用によって多面的に評価する継続的なモニタリングを行い、残存リスクを適切な頻度で評価できる態勢を構築する必要性が高まっていると考えられます。また1線のリスクオーナーシップを醸成する取組みの重要性も高まっており、研修状況や情報発信の取組みなどにも留意して総合的な視点で内部監査を行う必要があると考えられます。
金融行政方針は、2015年9月に公表されて以来8回目を迎えましたが、これまでの金融行政の方針を受け継ぎつつ、市場機能の活性化により「貯蓄から投資」「持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環」を目指す方針を鮮明にしています。
好循環により資金が向かう対象として、スタートアップ起業とサステナブルファイナンスであることが読み取れますが、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、量子、AI、バイオテクノロジー・医療を国益に直結する重点投資分野とするほか、スタートアップの起業加速に向けて育成資金が循環する流れを構築するとしています。
また、GX(グリーントランスフォーメーション)への投資では、気候変動問題における2030年度46%削減、2050年カーボンニュートラルの国際公約達成と経済成長の同時実現に向けて、今後10年間に官民協調で150兆円規模の投資を実現する「10年ロードマップ」を示すとしています。金融行政方針では、ESG投信のグリーンウォッシュ問題への対応として資産運用会社の適切な態勢構築やESG開示の充実等を図るための関係監督指針を改正することや、有価証券報告書にサステナビリティ情報を一体的に提供する記載欄を新設するとしています。
こうした分野に資金が循環する市場を整備・活性化させ、持続可能で成長する社会を実現するため、金融機関に対して顧客本位の業務運営の原則をベースに、インベストメントチェーンの参加者に期待される役割を十分に発揮することを求めています。
内部監査部門は、こうした金融行政の方向性やモニタリング方針を理解しつつ、企業価値向上に資する内部監査として、内部監査の高度化、効率的で有効性の高い監査態勢の構築に継続的に努めていくことが肝要であると思われます。
1 想定する顧客を明確にし、その利益に適う商品を組成するとともに、そうした商品が想定した顧客に必要な情報とともに提供されるよう、販売にあたる⾦融事業者への必要な情報提供や、これらの評価・検証等を行うこと。