日本の未来とグローバルヘルス:今こそグローバルヘルスを問う

第1回 グローバルヘルスとは何か

  • 2024-01-12

グローバルヘルスの重要性

結核、マラリア、HIV/AIDS(三大感染症)や近年大流行となった新型コロナウイルス(COVID-19)などの感染症によって、疾患が国境を越えて健康だけでなく、政策、経済に影響を与えることが明らかになりました。また、がんや認知症のような一部の非感染性疾患(NCDs)についても、根絶に向けた画期的な治療法はいまだに確立されておらず、発症/治療後において患者の経済力や労働力が低下することから、グローバルノース(先進国)やグローバルサウス(発展途上国)を問わず社会的な脅威となっています。これらの疾患は、人々の積極的な移動を伴うボーダーレス社会の実現や、生活様式の変化を伴う都市化の加速を背景に、今後も世界中の個々人だけでなく社会の健康にとっても大きな脅威となります。

上記のような脅威を取り除くためには、単純に治療薬が開発されるだけでは不十分であり、治療の普及や薬品の流通、治療を受けるための経済的な支援もあわせて整備する必要があります。新型コロナウイルスワクチンの配賦の経験から学んだように、今後、各国が協力し合って整備していくことが求められます。これこそがグローバルヘルスの考え方です。世界中の人々の健康を保つグローバルヘルスの取り組みは、ボーダーレス化や都市化など各国のより強固な連携が求められるグローバル社会がさらに発展するために不可欠だと言えます。

グローバルヘルスの考え方を一人ひとりが理解し、行動することが、私たちの取り組むべきことであり、課題解決に近づくはじめの一歩と考えます。本シリーズコラムでは、まずグローバルヘルスの歴史と、日本が果たす役割について過去のG7の活動から解説していきます。

また、今後の連載ではユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、気候変動と移民、感染性疾患とNCDsなど、グローバルヘルスを構成するさまざまなトピックを取り上げ、グローバルヘルスについて理解を深めていきたいと思います。本連載が幅広い関係者の目に留まり、国境を越えた革新的なコラボレーション戦略を検討する機会につながれば幸いです。

グローバルヘルスのリーダー

前述の通り、近年大流行したエボラ出血熱や新型コロナウイルスなどの感染性疾患は、世界各国の国境を越えて人々の生活に大きな影響を及ぼし、「世界各国が健康上の緊急事態への備えと対応を、より強化すること」(WHO, 2023)*4が求められました。これらの推進については一般にWHOが適切なリーダーと考えられていますが、実際にはガバナンス・資金調達・組織機能といった観点からいくつか問題点を抱えており(図表 2)、グローバルヘルスの課題に関する意思決定をリードすることができていません。

図表2:WHOにおける問題点

図表2 WHOにおける問題点

WHOでは、加盟国が最終的な決定権を持っているため、加盟国それぞれがグローバルヘルス実現に向けた判断や役割を認識しリーダーシップを発揮することが重要と考えられます。

日本が果たすべきリーダーシップ

G7の主要メンバーであり、アジアのグローバルヘルス先進国である日本は、近年主催したG7サミットにおいて図表3のような議題でリーダーシップを発揮してきました。

図表3:日本が主要な出来事で健康課題をリードしてきた事例

サミット
議題
2000 G8 九州・沖縄サミット
森喜朗(当時首相)がアフリカからメンバーを招き、感染症対策を主要課題として取り上げ、最終的に世界エイズ・結核・マラリア対策基金の設立に至った
2008 G8 北海道洞爺湖サミット
サミットに先立ち、グローバル・ヘルス・サミットなどの国際会議では、官民一体となり、サミットに向けた議論の準備を行った
2013   日本政府、日本の製薬会社、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の官民連携により、顧みられない熱帯病(NTDs)*6の研究開発を支援する「グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)」が設立された
2015   東京で新開発時代のUHCに関する国際会議を開催し、「緊急事態への備え、グローバルガバナンス、グローバルヘルスにおける2017年G7サミットの役割」について議論がなされた(JHPN, 2016)*7
2016 G7 伊勢志摩
サミット
感染症対策、UHC、女性と子供の健康の推進に関する詳細な行動や計画を明記した「伊勢志摩国際保健ビジョン」を発表。日本は、サミットでの主要議題としてUHCを推進したG7初の国となった*8
2023 G7 広島
サミット
新型コロナウイルスに対応したグローバルヘルス戦略を策定し、UHCの加速を通じて次のパンデミックに備え、グローバルヘルスの課題に対処する取り組みを主導した

上述の通り、日本はさまざまな健康課題をリードしてきました。特にUHCの導入や実践については、世界銀行*9や外務省*10からもUHCの先進国とされており、日本のリーダーシップの発揮が期待されています。今後も継続してグローバルサウスを支援し、危機が拡大しないようにするために、リーダーシップを発揮する国の1つとして、日本の役割はますます重要になっていくでしょう。

次回連載では、UHCについて深く掘り下げていきます。

執筆者

増井 郷介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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中谷 彩乃

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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鈴木 弘奈

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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馬場 徹太

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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碓井 麻理子

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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