日本の未来とグローバルヘルス

少子高齢化クライシスと未来 第1回 医療・介護の需給バランス

  • 2023-10-19

はじめに

これからの日本において少子高齢化がより一層進んでいくことは、ヘルスケア業界の関係者に限らず、国内において誰にとっても当然のこととして認識されていると言えます。また、少子高齢化の影響で需要の落ち込みや労働人口の減少などが想定されることも同様でしょう。一方で、それらの影響を定量的に捉えられている方はそれほど多くはないと考えられます。さまざまな視点から将来を予測したレポートや記事は多いですが、それら中には国民の健康意識の高まりや特定のテクノロジーの発展などについて、不確実な前提に基づいて論じているものもあり、少子高齢化の影響に対する人々の認識をあいまいにしている可能性すらあります。

本稿ではこれらの状況を踏まえ「このままいくと将来がどうなるのか」ということを既存の統計や独自の推計を基に定量的に明らかにします。また、推計を基にいくつかの想定される未来について、医療・介護の現場や行政、周辺企業が対応すべき事項をまとめ、いま私たちがなすべき事項について、全4回のコラムを通じて論じたいと思います。

全4回のテーマは以下のとおりです

第1回 医療・介護の需給バランス
第2回 社会保障費と税収バランス
第3回 想定される未来(前編)
第4回 想定される未来(後編)と将来に向けた提言

第1回目は、まず人口動態の変化と医療・介護の需給バランスについて見ていきたいと思います。

前提となる人口動態の変化

はじめに前提となる人口動態を確認したいと思います。人口動態については、国内においては国立社会保障・人口問題研究所が試算しており、政府の統計などにも活用されています。まず65歳以上の高齢者についてみると、2025年には団塊の世代の全てが後期高齢者に、そして2040年には団塊ジュニアの世代が高齢者となります。結果として高齢者の数は2040年時点で3,900万人となり、2020年に比べおよそ1.1倍となることが想定されています。一方、同期間における生産年齢人口は7,400万人から約2割減の6,000万人に減少します。また、人口が約10%減少することから、2040年には3人に1人以上が高齢者となります。1割増えた高齢者を2割減った生産年齢人口で支えていく。これが基礎となる少子高齢化のイメージとなります。

図表1 人口構成の変化

医療・介護需要の推計

次に医療・介護の需要について見ていきたいと思います。医療・介護の需要は、厚生労働省の「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」※1において細かい推計がなされており、こちらの数値を整理してお伝えしたいと思います。

まず医療の需要(患者数)については入院・外来に分けたうえで、年齢区分ごとの受療率は一定として推計されています。それによると2018年時点の実績を100とした場合の数値(以下、「対2018年指数」)は、入院患者は高齢者の受療率が高い影響から継続的な増加傾向となり、2040年には約2割増加して117となります。一方、外来患者については若年における受療が一定数存在するため、全国的には2025年をピークとした後に人口減少の影響を受け、2040年には96と微減傾向となります。

入院患者数は増加、外来患者数は微減となる中、結局、医療需要全体は増加するのでしょうか。それとも減少するのでしょうか。患者1人当たりの労働力は入院と外来で大きく異なるため、単純に患者数を合算するわけにはいきません。そこで本稿においては、入院・外来の需要について人工換算を行い「どのくらいの人手が必要なのか」という数字で合算し、供給との比較をしていきたいと思います。

入院と外来の需要を人工換算し合算すると、対2018年指数でピークは2035年に109、2040年には需要の縮小が始まった結果108となり、1割弱の増加となることが分かります。入院は大きく需要を伸ばしますが、クリニックも含めた外来患者数のほうが入院患者数に比べて相当数多いため、そちらに引っ張られた形となります。

図表2 医療需要の変化

次に介護について見ていきたいと思います。介護については、同統計において施設・居住系・在宅の3つに分けて需要(利用者数)の推計がなされています。対2018年指数で示すと、2040年には施設が165、居宅系が163、在宅が141となり、増加傾向であることが分かります。また医療需要と同様に人口換算して必要な総労働力を試算すると、2040年には対2018年指数で150と、1.5倍の労働力が必要となることが分かります。

図表3 介護需要の変化

最後に医療・介護の需要度を合算すると2040年は対2018年指数が130となり、2040年の需要に対応するためには、1.3倍の労働力が必要となることが分かります。

図表4 医療・介護の変化からみた労働需要予測

医療・介護供給の推計

医療・介護の供給体制については独立行政法人労働政策研究・研修機構の「労働力需給の推計」※2でも触れられており、こちらの数字が厚生労働省などの議論※3でも用いられています。ただし、当該推計によると労働市場から推計したケースが974万人となっていますが、この数字については経済成長や医療における労働参加が進むことが前提となっています。医療における労働参加については根拠に乏しいことから、PwCにて改めて生産年齢人口の動態※4と既存の労働市場における医療・介護の参画率※5を加味して推計したところ、2040年時点における供給労働量は862万人と推計されました。

図表5 医療・福祉就業者数の推計

PwCの試算に基づいて経年推計を行うと、2025年までは増加傾向となりますが、それから低減が続き、2040年には対2018年指数は103とほぼ横ばいになると予想されます。

これまで見てきた需給のギャップをグラフにすると以下のようになり、2040年には約30ポイントの需給ギャップが存在し、現状の医療・介護バランスが取れていると仮定すると、現在の患者数の3割に相当する患者が医療・介護サービスを受けられないことになります。

図表6 少子高齢化の影響(まとめ)

少子高齢化によって供給がひっ迫していくということを漠然とご存じの方も多かったと思いますが、数字で見ると想定以上のひっ迫度合いだったという方も少なくないのではないでしょうか。

第2回は社会保障費に焦点を当てたうえで、基本的な推計結果についてまとめていきたいと思います。

参考文献

1. 内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000207399.pdf

2. 労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計」
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/209.html

3. 厚生労働省「『2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)』に基づくマンパワーのシミュレーション」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000207401.pdf

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/20/index.html

4. 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」
https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/t-page.asp

5. 厚生労働省「令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/index.html

執筆者

増井 郷介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

中谷 彩乃

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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