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少子高齢化の影響が想起に顕在化すると考えられる地方と郊外に焦点を当て、今後の医療・介護に関する需給動向や、課題となる人材不足に対しての打ち手、リーダーシップを発揮すべき組織について論じる連載「医療・介護における人材不足の実態と打ち手」の前編では、高齢化が進む「地方」および、いわゆるベットタウンである「郊外」を例に、医療と介護の需給ギャップを分析しました。
分析結果が示すとおり、今後は地方・郊外を問わず、特に需要が拡大する慢性期・介護領域において人手不足が深刻となることが想定されます。後編では特に介護領域における人手不足に対する打ち手について紹介したのちに、労働力不足解決に対してリーダーシップを発揮すべき組織について論じます。
人手不足に対する打ち手となると、人を集めることばかりを考えてしまいます。しかし改めて考えると、介護需要を押さえることで必要な人員数を押し下げる「需要抑制」や、効率化によって1人当たりサービス供給量を増やし、少ない人数で必要十分な労働量を確保する「効率化」も有効な打ち手となると考えられます。実際の事例も交え、1つずつ見ていきたいと思います。
まずは需要の抑制について考えてみます。誰でも老い、いつかは介護が必要になることを考えると、需要抑制は簡単ではありません。また、予防などによって健康な期間が延長したからと言って、最後の数年~10年程度は密度の高いケアが必要になるため、生涯に必要な医療資源や介護サービスの総量は変わらないという見解もあります。
このような環境下において、介護利用者自体を抑制することは難しいかもしれません。しかし、例えば介護に関する評価を適正にしていくというアプローチは考えられるのではないでしょうか。要介護度の認定については地域や担当者間でばらつきが存在していることが以前から指摘されています。制度的には是正策が講じられつつありますが、現場を見るとばらつきがあるのが現状と言えます。もちろん、要介護度は個別に議論されるべきであり、機械的な評価で決めることが困難な領域です。しかし、要介護度が高くなれば、利用できる単位数の上限が上がり、必要な労働量が増えることも事実です。各認定団体や個人が平均してどのような介護度をつけており、高い介護度を付けている可能性がある団体においてはケースディスカッションを通じて、適正な認定に向けた指導を行っていくことは需要抑制だけでなく、公平なサービス提供という観点においても重要な取り組みとなるのではないでしょうか。
次に、効率化による1人当たりサービス供給量の増加について考えます。多くの施設型介護サービスは事業規模に応じた看護・介護職員の配置が決められており、どんなに効率化したとしても一定の人員が必要となります。しかし、訪問看護・介護サービスであれば、移動時間などを短縮することで効率化が図れる可能性があると考えられます。
前述のとおり、地方の訪問サービスにおいては点在している住居への移動に時間がとられ、介護サービスの提供にあてられる時間が限られてしまうため、事業運営が困難となります。また、このような地域においては冬季期間における高齢者の孤立や、日常・災害時の安否確認においても課題が存在します。このような状況下で訪問サービスの効率化や高齢者の孤立などに対応する1つの手段として考えられるのが「小さな拠点」の整備です。
ここでいう「小さな拠点」とは、高齢者住宅や介護サービス、クリニック、生活サービスなどを集約した生活の場を指します。「小さな拠点」を整備し、高齢者を誘致することで高齢者を集約的にケアすることで、移動時間を最小化した効率的な訪問サービスの提供が可能になるだけでなく、高齢者の安心・安全を担保することが可能となります。
「小さな拠点」構築をするためには、高齢者の方に徐々にその場に慣れ親しんでもらう仕掛けが重要です。小さな拠点においては、最終的には整備されたエリアに高齢者の方に移住してもらう必要がありますが、慣れ親しんだ家から知らない場所へ移り住むことに対しては心理的なハードルも高く、高齢者となれば抵抗感が高いことはなおさらと考えられます。拠点には高齢者施設だけでなく、診療所や移動販売、出張市役所のような生活サービス、住民交流の場となる公民館なども整備し、まずは自宅から生活サービスの利用やイベントへの参加のために赴いてもらい、その後、拠点内の診療所や通所介護施設の利用によりスタッフや当該地域との交流を深め、最終的には移住してもらうという流れを作ることが重要です。
高齢者が自宅から通えることも大切となるため、中学校区を目安に分散した拠点を集約整備する、もしくは、バスや乗り合いタクシーなどのインフラを合わせて整備するなどの検討も重要となります。
労働力の確保については、すき間時間の集約や分業制の確立による確保に加え、長期的な啓発活動やシルバー人材や外国人人材の登用が考えられます。
近年、「すき間時間の集約による労働量の確保」が注目されています。通常の採用では週に3日~5日などまとまった時間を取れる方を集めることが多いかと思います。しかし、このような専従もしくはそれに準じる日数働ける人材は他の業界でも引き合いが強く、人件費の兼ね合いから人材獲得につながりにくいのが現状です。そこで、人材ターゲットを変え、1週間に半日または1日など、すき間時間で働ける人材を数多く集めることで労働量の確保に成功している事例が出てきています。
この時に重要なことはマネジメント機能の強化です。上記のアプローチで人材を集めた場合、通常の職員を集めた場合に比べ、介護職員の数が相当数膨らむため、誰をいつどこに配置するかという検討や職員の管理業務がこれまで以上に煩雑になります。これまでどおりリーダーとなっている介護職にこのような業務を任せるのは困難と考えられるため、マネジメント人材をきちんと配置し、多くの職員を適切に管理できる体制をつくることが重要となります。
また「分業制」を導入することも労働力確保に有効です。介護については介護ケアを提供する時間以外にも帳票の記載やシステムの入力などの事務仕事も相当量存在します。また、介護ケアにおいても直接利用者のケアを行うサービスだけでなく、シーツの交換や配膳など、直接的なケアを行わないサービスも存在します。一方、介護サービスは提供できないが事務仕事が得意だという人材や、もともと企業勤めでIT業務に長けた人材、直接的ケアは敷居が高いがお手伝いはしたいという人材がシルバー人材にも多くいます。これまで介護職員が担っていた業務を直接介護、間接介護、事務などに分解して「分業制」にすれば介護職への敷居は下がり、人材を幅広く集めることが可能となります。
また、啓発によって中期的な人材獲得に乗り出している地域もあります。将来介護を担ってくれる人材を増やすことを目的として、中学生や高校生を対象に現職の介護士などが介護の魅力を発信したり、現場見学を実施したりしています。取り組みの具体的な成果はまだ見えていませんが、実施している介護士の感触としては、現場見学などを通じて介護に興味をもってくれる学生が少なからずいるとのことです。また、このような取り組みは現在、働いている介護職の方たちのモチベーションアップにもつながっているとのことで、PwCが行った介護職員へのインタビューの中でも、自治体などへの要望として中高生への積極的な啓発を行ってほしいという声が挙がっていました。即効性がある施策ではありませんが、中期的には非常に重要な取り組みと言えそうです。
ここまでは人材を近隣から集める手法でしたが、海外人材を集める取り組みも注目されています。海外人材が介護現場で働くための制度は大きく、技能実習・特定技能・在留資格(介護)・EPAの4つが存在します。
出典:厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」をもとにPwC作成
詳細な説明は割愛しますが、特定技能・在留資格が労働力の受け入れを背景としているのに対し、技能実習とEPAは海外の方が自国の発展を目的として介護技術を学ぶことを目的としているという違いがあります。また、特定技能は在留期間の制限がない代わりに、国家資格である「介護福祉士」に合格する必要があるなど、制度ごとに在留期間や資格の要否などにも違いがあります。海外人材の受け入れについては、住環境整備に伴う費用、言語を含めた生活や宗教に関する理解とケア、海外人材の定着率や、サービスを受ける利用者の抵抗感などさまざまな課題が挙げられています。
一方で、紹介会社などの支援を受け、優秀な人材を獲得・活用している組織があることも事実です。昨今の経済環境から、海外人材が日本に魅力を感じにくくなっているという現状もありますが、今後の国内労働力の推移を踏まえると、海外人材の獲得に早期に着手し、実績やノウハウの蓄積を積極的に進めるべきと考えられます。
これまで需要の増加および人材確保について論じてきましたが、最後にこれらの人材を確保するにあたってリーダーシップを発揮すべき組織について、触れたいと思います。本稿で分析したように、需要を予測し、介護人材確保について幅広い取り組みを実施することが可能な組織は自治体だと考えられます。
介護事業者は小規模な事業体であることが多く、人材不足のために喀痰吸引などの外部研修にすら人を出すことが困難である事業者も多数存在します。そのような中、事例に挙げたような人材確保策を独自に実施することは、マンパワーの観点からも困難だと考えられます。また、効率化の一例として示した「小さな拠点」はまさに街づくりの一環であり、シルバー人材の活用や、学生を対象とした啓発活動などは、既存の自治体業務と重複する部分が多くあります。多くの地方において中核となっている公立病院との連携が可能であり、地域包括支援センターなどを通じて介護の全体像を把握できる自治体こそ、介護全体をけん引すべきと考えます。
日本全体、そして多くの先進国は、少子高齢化とそれに伴う介護需給のひっ迫という課題を避けては通れません。その課題を乗り越えるためには自治体が中心となり、介護事業者とともにより現場に踏み込んだ施策を展開することが1つの解決策となるのではないでしょうか。