
COOやオペレーションリーダーが取り組むべきこと PwCパルスサーベイに基づく最新の知見
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
世界の多くの企業は今、「模倣品」による大きな被害を受けています。コロナ禍によるネット通販(EC)市場の拡大や、フリーマーケットアプリなどを通じた個人間取引の浸透なども、被害を拡大させる要因となっています。日本でも、年間3兆円を超える売り上げが模倣品によって奪われており、被害は増加の一途をたどっています。
模倣品は購入者の顧客体験を著しく低下させ、ブランドを傷つけるため、企業に大きなダメージを与えかねません。これまで日本企業が行ってきた対策では、巧妙さを増す模倣品の現状に対応することが難しくなっています。国境を越えたECがさらに拡大するなか、今こそ本気の対策が必要です。
本稿では、その「模倣品」被害の概況と対策について解説します。
オンラインでの商取引が増えたことにより増加した模倣品被害ですが、模倣品を作る技術は年々高まっており、特に利益率が高い商品、市場シェアが高い商品が標的となる傾向があります。模倣品によって、本来のブランドを有する企業はどれぐらいの被害を受けているのでしょうか。犯罪被害のため推定になりますが、特許庁の2020年調査によれば、グローバルでの被害額は4,640億米ドル(約50.6兆円)、うち日本は293億米ドル(約3.2兆円)に達しています。つまり、世界で年間約50兆円の企業収益が、模倣品によって奪われていることになります。また、模倣品による被害は年々増えており、被害を受けている日本企業は、2016年から2022年までの間で約2.3倍に増えています。
それではなぜ、模倣品の被害は増え続けているのでしょうか。従来、模倣品の販売チャネルは非正規の商品を扱う店舗など、一部に限られていました。その状況を一変させたのが、2020年からの新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックです。消費者はそれまで店頭で購入していた商品をネット上で購入するようになり、EC市場が急拡大しました。ECサイトで模倣品が販売されるケースに加え、ネットオークション、フリーマーケットアプリ(以下、フリマアプリ)などを通じたCtoC(個人間売買)も急拡大しており、そこに大量の模倣品が出回るようになっています。
また昨今の特徴として、模倣品の流通が小口化しており、摘発が難しくなっていることが挙げられます。前述したように、フリマアプリなどで個人が購入する場合、1個、あるいは数個というケースが非常に多くなっています。1件あたりの個数は少量でも、犯罪組織が多層化、分業化したことで件数が大きく増加し、全体の規模が急拡大しているのです。
例えば日本でも、「闇バイト」でフリマアプリに模倣品を出品し、SNSで宣伝して販売するなどの犯罪が増えています。しかし、その指示役が海外にいる場合、末端の出品者を押さえても、そこから先の主犯グループに迫ることが難しくなっています。また模倣品の製造も、部品を個別の業者が作り、それを組み合わせて商品に仕立てるため、摘発はますます難しい状況です。
模倣品の製造と販売は犯罪であり、断固として取り締まらなければいけません。もちろんこれまでも、日本政府、あるいは企業は模倣品に対する対策を講じてきています。
しかし時代の変化によって、従来の対策では太刀打ちできないほど模倣品の精度は向上しており、商品に貼り付けるホログラムシールやQRコードなど、既存の模倣品対策ツールの効果も薄くなる傾向にあります。本来、模倣品の対策のために付けられたシール自体が、比較的簡単に模倣され、本物のように流通しています。さらに、一般消費者がこれらの対策ツールを見ても、それが本物か模倣品かを判定することが難しい点も、対策の効果が出にくい一因となっています。
事実、当社の調査によれば、日本企業が模倣品対策の課題として最も多く挙げるのは、「被害の規模が分からない」「対策の効果が見えない」となっており、それぞれ回答した企業の51%を占めています。被害の規模が分からないため、対策にかける予算も定まらず、社内の理解が得にくくなっています。対策予算の問題は14%と、課題の3位に位置付けられています。
では、日本企業は従来の模倣品対策をどのように進化させるべきでしょうか。その「あるべき姿」を考えるときに参考となるのは、欧米、中国などを中心に、模倣品対策に成功している企業の考え方と、具体的な対策です。また、日本企業にも同様の考え方で模倣品対策に成功している企業が存在します。
模倣品対策に成功している企業は、まず、模倣品が自社の事業、ブランドへの経営上のリスクであることを共通認識とし、明確な対策・方針を打ち出しています。こうした企業は、模倣品対策について自社ブランドを守るための「マーケティング活動」と捉えています。被害による販売機会の喪失に対する対策というよりも、自分たちが今まで築いてきたブランドが消費者に信頼され、継続的に支持されるために必要な予算をしっかり確保し、模倣品の撲滅を目標に取り組んでいるのです。その事実は、模倣品対策市場の拡大からも裏付けられます。例えば中国の模倣品対策市場は、2022年に約2,375億元(約4.8兆円)*、年率8.8%の成長を続けています。
また、模倣品対策は1回行えばよいということでなく、継続的に取り組む必要があります。ブランドを守り続けるためには、対策を続けることが必要で、継続的な投資を行うことが求められます。そして、対策を続けるためには、受け身ではなく、能動的な対策へと考え方を転換する必要があります。
対症療法的な最低限の対策ではなく、1つの模倣品が見つかったとき、その全貌を突き止め、根絶するための対処をする「ゼロトレランス」の考え方が必要です。模倣品の流通ルート、生産業者を特定して行政処分を行ったり、損害賠償を請求したり、断固たる態度を示すことが求められます。欧米系の有名ブランドでは、調査会社を利用して追跡調査を実施し、模倣品にかかわる犯罪者をどこまでも追いかける施策を実施しています。
ただ、こうした施策を模倣品に関するインシデントが発生するたびに一から動かすのは、企業にとって負担が大きくなります。そのため、商流が限定されることを生かして損害賠償請求を自動的に出す仕組みを作るなど、対策の仕組み化、自動化を行っていくことが重要です。またBtoC商品では、クローリングによって自動的に模倣品を検知したり、ECサイトなどプラットフォーマーへの告発を自動化したりするなどの施策が有効です。
さらに、模倣品対策を多層化することでも効果を得ることができます。先ほど、従来の対策自体が模倣されると述べましたが、多層化すれば、それだけ真似るのに手間がかかります。例えば、中国のある大手メーカーは模倣品対策として1つの商品にホログラムシールやQRコードなどを5、6個付与し、全て見えるところに貼り付けています。QRコードで正規品である情報を提供するなど、さまざまな方法で多層的に正規品の証明を見せることで、模倣するのに手間がかかる対策を施しています。
こうした対策の仕組み化、自動化や多層的な対策の実施、模倣品に対して徹底的に対策する企業姿勢の表明によって、「あの会社の商品を模倣するのは割に合わない」と思わせることが、模倣品を作らせない「抑止力」につながります。
模倣品に対抗する継続的な対策の実行と、対策の仕組み化および自動化によって、企業の模倣品対策を社会にアピールすることは非常に重要です。それに加えて、次世代の模倣品対策ツールを導入することで模倣されにくくなり、正規品を正しく顧客に届けることが可能になります。
次世代の模倣品対策ツールには、いくつかの特徴があります。第1に真贋の判定にデジタル技術を用いていることです。従来のように人の経験値や目利きに頼るのではなく、デジタル情報によって精度の高い判別が可能になります。第2に、技術的に模倣が難しく、犯罪者の意欲を削ぐことができること。そして第3の特徴は、双方向性を持っていることです。
双方向性とは、企業が顧客に対して模倣品対策ツールを提供するだけでなく、顧客側が対策ツールによって判定した結果を企業にフィードバックする仕組みを持つことです。これによって、顧客は正規品であることを確認した上で商品を購入することができ、企業は模倣品の判定結果を受け取ることができます。
さらに、この双方向性によって、企業はその商品がどういう流通経路を通って顧客の元に渡ったのかをトレースすることも可能になります。こうしたプラスアルファの情報を活用することで、企業は模倣品対策と同時にマーケティング機能を強化することもできます。
次世代の模倣品対策ツールとして、改良型QRコード、RFID/ICタグ、特殊素材による方式などが現在開発されています。PwCでは特殊素材を用いた模倣品対策ソリューションである「Digital Traceability Service(DTS)」を開発しました。シリコンをナノテクノロジーで加工した特殊なタグを商品に付与し、専用のスマートフォン用アプリを通じてデジタル情報を読み込む方式を採用しており、安価で堅牢な真贋判定の仕組みを構築することが可能です。シリコン素材は食品添加物としても使われていることから、食品に情報を直接塗布することも可能で、幅広い用途で活用可能です。
PwCでは、こうした最新のデジタル技術を用いた模倣品対策ソリューションの提供をはじめ、企業の業態・商流に応じた模倣品対策の成熟度診断と課題の洗い出しから、対策検討と組織づくり、ロードマップの策定・実行体制の構築、ツールの運用支援まで、模倣品対策の一連のプロセスをサポートする態勢を整えています。どこから手を付ければいいか分からない企業も、お気軽にお声かけいただければと思います。
最新の真贋判定サービス Digital Traceability Serviceの製品情報
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/global-innovation-factory/digital-traceability.html
* 智研咨询:2023-2029年中国模倣対策業界市場運行態勢とトレンド戦略分析報告を基にPwCが集計
加藤 英悟
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
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