
これからのMAの機能と役割 デジタル活用による高度かつ効率的なメディカルインサイト生成
メディカルアフェアーズの中心業務の1つであるメディカルインサイトの生成にかかわるアウトプットの創出手法を検討し、デジタルの活用によるインサイト生成に関するユースケースについて考察します。
製薬企業におけるメディカルアフェアーズ(MA)部門は、これまでも製品ライフサイクルにおいて重要な役割を担ってきましたが、今日では企業戦略の中核となり、社内外に変革をもたらす部署としてその立ち位置を確立しつつあります。
医療・製薬業界における近年の変化に伴い、MA部門の役割は、今やメディカルエデュケーションを通じて医師・医療従事者(HCP)に専門的な情報を提供するだけに留まりません。MA部門は、上市前の創薬研究から上市後の市販後調査まで、製薬のバリューチェーン全体に関与しているため、その強みを活かして戦略的な意思決定を先導するなど業務範囲を押し広げています。さらに、インサイトやリアルワールドデータ(RWD)構築などの重要な役割を通して企業戦略の策定にも大きく貢献しています。
加速するバイオテクノロジーや医療分野でのイノベーションにより、細胞治療や遺伝子治療のような新たなモダリティが誕生しています。その結果、HCPや患者などすべてのステークホルダーに、複雑な作用機序、対象となる疾患や患者について説明する必要があります。また、新たな治療法は伝達情報の変化だけでなく、新しい治療の捉え方やケアの提供方法も生み出しています。
MAの意義:新たな治療法の本格的な導入には統制の取れた組織横断的な協力が必要であり、MA部門は組織内の各部署を結びつけるために大きな役割を果たします。
治療法の選択肢が増えると、医師や患者による治療法の意思決定に時間を要するようになり、規制当局における審査は厳しくなります。これらに対応するため、製薬企業は、さまざまな医療関係者のニーズに合わせたエビデンスを創出する戦略を練り、実行する必要があります。さらに、共同研究モデルや革新的な臨床試験デザインなど、より革新的なエビデンスとその生成方法が求められています。
MAの意義:MA部門は臨床開発やトランスレーショナルメディシンと密に連携することで、これらの分野をリードします。
2020年にStrategy&がドイツで実施した医師調査によると、製薬企業との長期的関係を治療選択における重大な差別化要因として挙げた医師はわずか28%に過ぎず、従来の市場参入モデルが通用しなくなりつつあることが明らかになりました。さらに、デジタルコミュニケーションの機会が膨大に膨らむ一方で、より多くの科学的・医学的情報を求める医師が増えています。これらの医師側の変化に加え、営業部隊によるHCPに対するアクセスが年々制約されることで、製薬企業はHCPに対するエンゲージメントを見直し、質の高い医療情報に焦点を当てる必要に迫られています。また業界を俯瞰的に見ると、さまざまなステークホルダーが連携することにより、薬剤選択の意思決定が個人に依存せず、医師会や患者団体などにより多くの機会が与えられるような環境に変化しています。
MAの意義:MA部門はステークホルダーエンゲージメントの新時代において、主導的な役割を担う立場にあります。
社内外の情報源から利用可能なデータが急増していることで、MA部門は新しいツールを使用し、今までよりターゲットを絞って社外ステークホルダーを巻き込むことができるようになっています。例えば、保険請求、IoT機器、電子医療記録(EMR)、外部出版物、内部調査、RWDなどからのデータをリアルタイムに分析することで、MA活動を見直し、その結果を以前よりも目に見える形で最大化することができます。このような効率的なデータループに加え、デジタルプラットフォームのような新しい場を活用することで、ステークホルダーに対するエンゲージメントを向上できます。ソーシャルメディアの拡大など、新たなデジタル活用が、ステークホルダーと新たな方法で交流するインフルエンサーの出現につながっているのです。
MAの意義:国によって多少の差はありますが、今後データセットの一層の統合や部門が真に連携したオムニチャネル戦略の立案にMA部門は不可欠です。
私たちの健康に関する考え、管理方法、経験は根本的に変化しています。“Future of Health”(2021)や “From healthcare to life care”(2023)の記事でも示すように、生物学的な理解の深まりと、利用可能なデジタルプラットフォームやその他のトレンドが相まって、2030年までには、ピープルドリブン、予防、個別化、デジタル化、そして日常生活との一体化を実現するヘルスケア環境がもたらされることが予想されます。
MAの意義:新しい規制、組織、ビジネスモデルがこの進化を促進していく中、MA部門は製薬企業を新しいヘルスケアの時代に導く立場にあります。
これらすべてのトレンドが、製薬業界を変えようとしています。今こそ、MA部門が製薬企業の戦略的な道筋を示すチャンスです。MA部門を導入するだけでなく、将来を見据えてMA組織の能力を最適化することが今後の成長の鍵となります。
※本コンテンツは、Medical Affairs in the driver's seatを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
Partner, Strategy& UK
髙山 量子
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
パートナー, PwCコンサルティング合同会社
前田 里菜
アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社
川口 健太
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
メディカルアフェアーズの中心業務の1つであるメディカルインサイトの生成にかかわるアウトプットの創出手法を検討し、デジタルの活用によるインサイト生成に関するユースケースについて考察します。
製薬企業のメディカルアフェアーズ部門が、医療分野における変化に対応するために身に付けるべき新たなスキルと能力について、テクノロジーの進化やデータソースの複雑化などを踏まえ、長期的な視点に基づいて解説します。
製薬企業のメディカルアフェアーズ部門の連携先は医療エコシステム全体に拡大しています。それに伴い、同部門は個人に合わせたコミュニケーションスキルや、新薬・診断に係る情報、カスタマイズされた患者ソリューションなどを持つことが求められています。
医療・製薬業界における近年の変化に伴い、製薬企業のメディカルアフェアーズ(MA)部門の役割は医師・医療従事者への情報提供に留まらず、企業の意思決定や戦略策定を先導するものへと拡張してきています。業界のトレンドを踏まえ、製薬企業の今後の成長の鍵となるMA部門の役割を解説します。
経営改善を実現し、「改善を持続できる組織」に移行している小田原市立病院を事業管理者・病院長の立場で築き、リードしている川口竹男氏に、病院経営への思いを伺いました。
埼玉県では令和6年度より看護業務改善のためのICT導入アドバイザー派遣事業を実施しています。本事業でアドバイザーを務めたPwCコンサルティングのメンバーが、取り組みの概要とともに、埼玉県が考える看護職員の就業環境改善に向けた支援のあり方について伺います。
製薬業界の未来を見据えた戦略的アプローチと必要な能力について論じる本稿では、2025年以降の変革的なトレンドや価値創造の方法を探り、特にAIの影響、バイオロジーの進歩、薬価引き下げの圧力、患者中心主義などに対応するための戦略を提案して います。
PwCコンサルティングが経営強化・業務改善支援を行っている北杜市立塩川病院・院長の三枝修氏および北杜市立甲陽病院・院長の中瀬一氏に、これまでのご御経験を踏まえて地域医療の魅力を存分に語っていただきました。