これからのメディカルアフェアーズを考えるメディカルアフェアーズの4つの未来予想図

製薬企業のメディカルアフェアーズ（MA）部門は10年後どのようになっているでしょうか。ヘルスケアエコシステムの変革に伴い、MA部門は今後どのような役割を果たすべきでしょうか。コラム「製薬企業の未来を切り開くMA部門の4つのケイパビリティ」では、医療分野における変化に対応するためにMA部門が新たな身に付けるべきスキルと能力について短中期的視点から言及しましたが、今回は長期的な視点に基づいて解説します。

ヘルスケアにかかわるテクノロジーはこれまで以上に急速に進化しています。例えば、近い将来、AIによってインサイトが自動的に収集できるようになることが予想されます。また、個人の遺伝要因に合わせた個別化医薬品の開発は、すでに実現しつつあります。さらに、IoTウェアラブルデバイスの発展によって、糖尿病患者の血糖値などを遠隔でモニタリングできるようになったことで、新たな予防法への道も開かれました。
PwCの報告書‘From healthcare to life care’では、テクノロジーとゲノミクスの継続的な進歩に伴い増加しているプレシジョンメディシン（個別化医療、精密医療）に着目しています。MA部門においても、他に先駆けて自社における投資の対象とその方法を検討する必要があります。

MA部門が将来進むべき方向を決定するにあたって考慮すべき要素には色々ありますが、2つの重要な側面から選択肢を考えることができます。

データとテクノロジーの進化により、HCPの意思決定は今後ますます複雑になります。ヘルスケアエコシステムのデジタル化が進み、各組織を跨いで統合されたデータソースにアクセスできるようになることで、MA部門の意思決定がより容易になることが想定されます。その一方で、ゲノムシークエンシング、デジタルツイン、AR/VRなど新技術の台頭により、非常に複雑なデータエコシステムが形成されることも予想されます。これらのデータはさまざまなデータソースに跨りサイロ化されるため、正しい情報源を特定しづらく、意思決定にさらなる負担がかかるようになります。
デジタル化が進めば、テクノロジーとデータによって個々の患者に合わせて治療計画を立てるプレシジョンメディシンへの技術的なハードルが下がります。ただし、患者や医師がこのようなアウトカム重視の治療を行うには相応のコストがかかります。そのため実際に治療選択の質が向上するかどうかは、患者や医師が費用対効果を踏まえたうえで、プレシジョンメディシンに投資するかどうかにかかっています。

各国のヘルスケアエコシステムを比較すると、スイスのようにデジタル化が進んでおらず、診療判断支援システム（CDSS）などの恩恵を受けていない国もあれば、イスラエルのように約30年前から患者の診療記録をデジタル化している国もあります。MA部門の将来の役割は、利用可能な患者データの量とアクセスのしやすさによって定義されます。すなわちテクノロジー導入の進展度合いとヘルスケアエコシステムへの投資程度に依存することになり、国や治療分野によって格差が生じることが考えられます。

ここで2050年のメディカルアフェアーズの未来を、薬剤経済とデジタル化の2つの軸に沿って描いてみましょう。

未来のMA機能の一部はサポート役に

高度にデジタル化されたヘルスケアエコシステムを想像してください。電子カルテ、CDSS、RWEの生成、その他社内外データを含む大規模なデータセットは、円滑に相互連携しています。AIによるバーチャルボットがメディカルインフォメーションの役割に取って代わります。自然言語処理技術が言語翻訳とHTA特有のニュアンスの両方を解析することで、24時間365日、地域を跨いで医療情報を提供できるようになるため、地域に特化した専門家の重要度は低下するでしょう。ここにコスト圧力が加わると、現場のメディカルサイエンスリエゾン（MSL）は、さまざまな市場や治療領域に広がる人々からバーチャルで支援を受けられるようになります。このような未来においては、MA部門の機能の少なからぬ部分では自動サポートの役割がより大きくなり、プレシジョンメディシンへの注力は少なくなるとも考えられます。

個別化医療のスペシャリストとしてのMA
一方、同じくデータドリブンでありつつも患者中心が進んだヘルスケアエコシステムでは、MA部門は個別化ソリューションを活用して、患者の治療計画や予防法を提案することが可能となります。PwCの報告書‘From healthcare to life care’では、治療と予防両方のプレシジョンメディシンを急速に普及させたバイオテクノロジーと診断技術の著しい進歩について述べられています。このプレシジョンメディシンには、疾患およびリスク因子に対する個人の遺伝的要因の理解、エピジェネティックおよび関連するバイオマーカー、ワクチンおよびスキャンなどの予防、ならびに定期的な健康状態のモニタリングが含まれます。アウトカム重視型のヘルスケアエコシステムにおいて、MA部門は組織を横断するデータを容易に引き出し、健康リスクの早期発見を支援するような、より適切な健康管理方法・予防策を提案します。これは特にがん・心疾患・神経変性領域において有用になります。

必要不可欠なパートナーとしてのMA
ヘルスケアにかかわるテクノロジーが普及することによって、大量かつサイロ化されたデータソースが増える可能性もあります。そのような環境の中で、個々の患者に合った治療法を提案するためには深い医学的知見が求められるようになります。MA部門は熟練したデータサイエンス能力とともに、この深い医学的知見を提供することによって、ヘルスケアエコシステムのパートナーとしての役割を担うことが求められます。パートナーとなる相手は、キーオピニオンリーダーや医療従事者だけでなく、患者、患者擁護団体、医師、規制当局、研究者、科学機関など、全ての医療関係者に及ぶでしょう。MA部門は、新しい治療技術に対する理解のギャップを埋め、医療政策を形成し、さらにエコシステム全体からの組織横断的なインサイトを用いて注力すべき研究領域を選定することが期待されています。

データ技術のスペシャリストとしてのMA
データソースが複雑化し、個々の患者に即した提案が求められる一方で、アウトカムよりもコストに対する圧力が続く可能性もあります。このような環境下においては、MA部門はより一層データサイエンス能力の向上に努めなければなりません。データサイエンスの力は、業界のトレンドや患者・医療従事者等のニーズを踏まえ、注力すべき疾患領域の判断と戦略を導くことができます。すなわちMA部門を支える中心的かつ領域横断的な能力となります。この新しい能力が身に付けば、外部専門家との密な連携、そしてヘルスケアエコシステム全体におよぶインサイトについての議論を通じて、ソリューションの開発が可能になります。

MA部門はヘルスケアエコシステムが将来向かう方向を長期的に見通し、ありたい姿に向かってケイパビリティを構築していく必要があるでしょう。

※本コンテンツは、The future of Medical Affairsを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。