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2022-03-22
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により友人や家族に会えなくなった人たちの多くは、さまざまなオンラインスペースに集まりました。「あつまれどうぶつの森」の中で開かれる冠婚葬祭やキャンペーン、Minecraft(マインクラフト)の中で行われる卒業式。Netflixを一緒に見ながらのオンライン上でのおしゃべり。Zoomを介した親族との再会。これらのバーチャルのスペースは、単に「ゲーム」や「音楽や映画などのストリーミング」を楽しむ空間から、次第に現実生活の拡張版へと変化しているとも言えます。
人々が参加していたこれらの空間もある意味、メタバースの一種と言えるものでしょう。しかし、実際に利用している人たちの多くはそれがメタバースであるという認識をしてすらいないと考えます。
一般的に、メタバースとはオンライン上に構成された3Dの仮想空間およびそこでのサービスを指します。ただ、何がメタバースで何がそうでないかについては、テクノロジー業界でも盛んに議論されています。メタバースの基本的な定義とは、物理的な現実、拡張現実、仮想現実を融合したオンライン上の共有空間と言えます。
しかし、メタバースは人々の単なるコミュニケーションスペースの1つにはならないと私たちは考えます。IoTやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)、さらなる新テクノロジーを駆使することにより、メタバースは現実世界の至るところに存在するようになるでしょう。例えば、現実世界のあらゆるものをデジタルで複製できるため、ARグラスをかければ、現実世界の街中に実在する店(や職場、公園などありとあらゆるもの)がデジタルとして存在し、物理的に店内に足を踏み入れずに仮想空間上の店内でやり取りをし、商品を購入すれば実物を自宅に配送してもらうこともできます。
メタバースを定義する主な特徴としては、1)物理的かつデジタルである、2)常につながっている、3)現実世界の時間軸と同期している、4)完全に機能する経済圏を持つ、5)誰でも参加できる、6)コンテンツと体験を楽しめる、7)メタバース内の全てが相互運用可能である、といった点が挙げられます(図表1)。
2021年現在、これらの特徴の多くは可能性の面でまだ不確定です。しかし、形は多少違ってもこれらがメタバースの基本要件であるということは、多くのメタバース関係者の共通見解のようです。
インターネット登場以前に、インターネットが及ぼす影響を予測することが難しかったのと同じく、現時点ではメタバースについて未知の要素があまりに多く、それが私たちの生活にどのような影響を及ぼすのかを予測することは困難です。その要因の1つに、メタバースを定義することが困難であることが挙げられます。これについては、メタバースの第一人者であるマシュー・ボール氏が「メタバースではないものを定義するほうが簡単だろう」と述べています。
仮想コミュニティと違ってメタバースは独立した場所でもなければ、ゲームの「世界(ワールド)」のようなオンラインコミュニティでもありません。どちらかと言えば、ゲームの世界という側面も含め、社会のあらゆる要素が存在する包括的な「宇宙(ユニバース)」だと想像されています。SecondLife(セカンドライフ)のような単なる仮想世界ではありませんが、私たちはVRヘッドセットやARグラスを装着してメタバースに入り込むことができます。また、ブロックチェーンやNFTのような単なるデジタル経済とは異なる形のデジタル経済圏がメタバースの内部に存在しています。
メタバース自体は今になって誕生したわけではなく、着想は30年以上前からなされていました。1986年には仮想空間でアバターを使って交流するオンラインサービス「ハビタット」の試験運用が開始されていましたし、1992年に発表された仮想空間を題材にしたSF小説『スノウ・クラッシュ』では、アバターが使用する仮想空間の名前として「メタバース」が登場します(これが現在のメタバースの語源となったと言われています)。メタバースとは、何年も、何世紀もかかって水面下で成長していたものが一気に有用性を得て開花した、さまざまなテクノロジーの集大成と考えられます。オンラインゲーム、ブロックチェーン、アプリ、AR、VR、インターネット、スマートデバイス、ソーシャルメディア、TVストリーミング、音楽ストリーミング、ポッドキャスト、動画、クラウド、オンラインショッピング、ハイブリッドワークプレイス、クリエイターエコノミー、インフルエンサー……。これらが結合し、私たちの現在の生活に新たな一面をもたらそうとしているのです。ボール氏の言葉を借りれば、テクノロジー業界にはずっと以前からメタバースというアイデアが存在していましたが、つい最近になって「それを構成するピースが現実味を帯びるようになった」と言えます。
メタバースが今後何らかの形で現実になると信じられる根拠はあるものの、それが5年先か20年先かは誰にも予想できません。では、企業はメタバースに注目する必要があるのでしょうか。
その答えは、「注目に値する」です。現時点で、大手テクノロジー企業は、間違いなくメタバースに注目しています。これは、メタバースが単なる夢物語で終わらない可能性を示す最初の兆候です。ボール氏は自身のブログで、メタバースは「世界の大手テクノロジー企業の多くが目指す、新たなマクロ目標である」と言い切っています。
企業が1社でメタバースを所有することは不可能です。しかし、「インターネット」を所有できる企業はないですが、例えば基幹プラットフォームやサブスクリプション、決済、広告といったサービスなど、インターネット上の一角を独占できた企業が多額の利益を得ることができたのと同じように、メタバースでも同様のことが起こり得るでしょう。今日のテクノロジー企業の一部は既に絶好のポジションにいる、と言い換えることもできます。すなわち、いち早くメタバースを活用したインパクトのあるプラットフォームビジネスを構築できた企業が、同様の恩恵を得ることができるでしょう。AR、VR、ソーシャルアプリ、ゲームなど、これまで全く意味をなさなかった事業の買収が、こうした視点で見るとまったく新しい意味を持つようになります。
電話やインターネットがコミュニケーションにもたらした変化と同じ規模の変化をメタバースも引き起こすだろうということは、以前より論じられてきました。ソーシャルメディアの出現がコンテンツやブランディング、広告を大きく変えたように、メタバースの出現がそういった変化を起こすかもしれません。そうなれば、各ブランドや企業は、メタバースへの関心によらず、顧客との関わり方を考え直す必要に迫られるでしょう。
現時点では、メタバースは1つの哲学的な概念にとどまっています。
哲学的であるということは、実行の計画を立てにくいということであり、市場の成長含めて今後の保証はありません。
メタバースが単なるバズワードで終わるのか、本当に新しいテクノロジーとして業界全体を再編していくのか、現時点では不明瞭です。ただ、確実に言えるのは、メタバースが期待された形になるためには、多くの標準化や協働が必要だということです。本連載ではメタバースの活用を検討する企業や組織を対象に、先行する活用事例やメタバースに着目する意義、VR・AR・仮想通貨・NFTといったメタバースを取り巻くトピック、企業が活用する上での課題などを紹介し、成功に向けて必要なアクションを考察していきます。あらゆる業界に当てはまるであろう新時代のビジネスアジェンダを、これからともに考えていきましょう。次回は、なぜメタバースが近年になって脚光を浴びるようになったのかの背景と、企業が取り組むべき必然性を取り上げます。