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2022-08-09
近年、注目度を高めるメタバース。ビジネスに利活用する企業の数も飛躍的に増加しています。いざメタバース空間を使ってビジネスを始める場合、企業がやるべきは空間設計だけではありません。利用規約の整備、決済システムの確立、ユーザーのプライバシー保護など、快適な空間を提供するための下準備が必要です。本連載では、メタバースビジネスを行う企業が留意すべきルール、すなわち法務関連のトピックを取り上げます。企業から実際に寄せられる質問をもとに、私たちがビジネスを進めていく上でとるべきアクションを、共に考えていきましょう。
今回のテーマは「メタバースと不動産」です。メタバ―スの法律問題に詳しいTMI総合法律事務所の成本治男弁護士と共同執筆しました。
メタバース上の土地を売買する取引が増えています。イタリアの高級ファッションブランドやドイツのスポーツアパレルなどがメタバース内で土地を購入したという報道もされており、メタバース不動産への注目は日に日に高まっています。また、メタバースに特化した不動産投資ファンドが組成されたり、メタバース不動産を担保とするローンを提供する企業が登場したりもしています。
メタバース不動産には大きく分けて①デジタルツインのメタバース内の不動産と、②現実には存在しない仮想空間内の不動産(既存のメタバース空間内の土地など)の2種類があります。いずれのメタバース不動産もあくまでブロックチェーン上の記録(データ)であり、日本法としての民法で定義される「不動産」、すなわち「土地及び定着物」には該当しません。したがって、一般的には、民法上の所有権や占有権などの不動産に関する規定や宅地建物取引業法は適用されないと考えられます。
メタバース内の不動産は非代替性トークン(NFT:Non-Fungible Token)として売買取引などがなされ、その唯一性が技術的に担保されています。他方、現実世界の不動産も、登記制度などの法制が整備されていれば、登記などによって同一性を確認することができます。したがって、どちらも「非代替的」であるという点は共通していると言えます。また、メタバース内の土地に上限区画数が設けられている場合には、有限性という意味においても現実世界の不動産と共通すると言え、同様の経済的価値を有するとも考えられそうです。
しかし、現実世界の不動産は移動させることができないため、立地が経済的価値を決定する大きな要素の1つになる一方で、メタバースにおいては不動産(土地区画)を動かすことはできないものの、ユーザー自身が瞬時に移動することができるため、必ずしも立地によって不動産の経済的価値が大きく変わることにはならないと考えられます*1。また、メタバース内の土地区画の上限数が決まっていたとしても、メタバース自体は無限に生み出される可能性があるため、理論的にはメタバース不動産の稀少性が根源的な経済的価値を構成しているとは必ずしも言えないように思われます。
*1 ただし、著名なプレイヤー(の保有するメタバース不動産)やソーシャルハブなどの周辺にあるメタバース不動産である場合、その著名プレイヤーやソーシャルハブを訪れたユーザーがそれらの周辺を回遊する可能性(すなわちトラフィックが増える可能性)はあるとの指摘も見受けられます。
そうすると、メタバース不動産の経済的価値は何によって根拠づけられるのでしょうか。筆者は、当該不動産にいかに多くのユーザーが訪れるか(広告などの媒体としていかに価値を有するか)、また当該不動産で営まれるサービスなどによっていかに収益を上げられるか、といった点に左右されるものと考えます。すなわち、経済的価値は当該メタバース不動産においてユーザーに提供されるサービスやコンテンツ次第とも言い換えることができます。
例えば、有名人のアバターがパフォーマンスを行うシアターやアリーナ、ユーザーが楽しむことのできるエンターテインメント施設やテーマパーク、有名店のポップアップストアが集まるショッピングモールなど、多くのユーザーが訪れる空間としてメタバース不動産を利用することが考えられます。それにより、広告掲載地としての価値が生じたり、施設利用料や入場料、ゲーム参加料などにより直接的な収益を上げたりすることも可能と考えられます。
しかし、その価値の根源はあくまで各コンテンツやテナントにあり、それらを取り除いた時に当該メタバース不動産そのものが根源的な価値を有するとは、現時点では考えにくいでしょう。将来、現実世界と比肩するような数のユーザーが日常的にメタバース内で生活時間の多くを過ごすようになった時には、当該メタバース不動産は「そこにある」ことだけで根源的な価値を有するに至る可能性も考えられますが、それも当該メタバースに常時多くのユーザーが回遊しているという前提があってのことです。したがって、メタバース不動産の価値評価においては、(潜在的ユーザーも含めて)どれだけのユーザーがそのメタバース空間に存在するか、また、当該メタバース不動産に訪れるか、が1つの指標になると考えられます。
2022年7月には、NFTにレンタル機能を持たせるトークン規格「ERC-4907」がNFTのトークン規格「ERC-721」の拡張版として承認されたとの報道がありました。このトークン規格を利用すれば、メタバース不動産(NFT)を賃貸して賃料を得るという取引が、スマートコントラクト上で実現可能となると考えられます。
さらに、今後、例えばNFTに担保設定する機能が実現された場合には、メタバース不動産を担保とするノンリコースローンなども行われるかもしれませんし、メタバース不動産を投資対象とする不動産ファンドやREITが台頭することも理論的には考えられます。そのような現実世界の不動産と同様の価値が認められるためには、多くのユーザーが日常的にメタバース内で買い物をしたり、遊んだりする時間を過ごすようになることが必要条件となるでしょう。
※本シリーズはTMI総合法律事務所との共同執筆です。今回は下記のメンバーにご協力いただきました。
成本 治男
TMI総合法律事務所, 弁護士