企業のためのメタバースビジネスインサイト:メタバースビジネスを展開する上で考慮すべきセキュリティリスク

2022-10-18

メタバースが企業のビジネスの可能性を広げるのは明らかです。しかし同時に、セキュリティの課題も広がってしまう可能性があります。メタバース空間が何者かにハッキングされ、多額の暗号通貨が盗まれるといった事件もすでに発生しています。デジタル化の進展に伴い、攻撃対象領域(アタックサーフェス)も拡大の一途をたどっています。最たる例ですが、メタバースは仮想現実(VR)や複合現実(MR)、拡張現実(AR)といったテクノロジーを伴うことで、より多くの情報を扱うことになるため、攻撃の対象となる可能性が高まるのです。今回は、メタバースでビジネスを展開する企業が頭に入れておくべきセキュリティリスクについて考えます。

メタバース活用において特に考慮すべきリスクとは

メタバースのビジネス活用において考慮すべきセキュリティのポイントは多岐にわたりますが、本稿では、メタバースビジネスを展開する企業が直面する可能性が高い内容に絞って紹介します。

個人や企業の情報の漏えい

情報を盗む手口としては、従来のスパイウェアや二重恐喝型ランサムウェアなどが、そのままメタバースに持ち込まれる可能性があります。そして、こうした攻撃のリスクは、通常のインターネットよりメタバースのほうが高くなる点に注意が必要です。

通常のインターネットの場合、スマートフォンやPCからインターネットに接続しますが、メタバースの場合はそれらに加えて、VRヘッドマウントディスプレイ(ゴーグル)やウェラブルデバイスなど、複数のデバイスからもアクセスすることも珍しくありません。デバイスが増えるということは攻撃対象が増えることを意味するので、必然的にリスクは高まります。

仮にゴーグルがハッキングされると、ユーザーの部屋の中の様子が侵入者から見られてしまうでしょう。また、視界や音声が改ざんされることで、実際には無いものを見せられたり、聞こえるはずのない声や音を聞かされたりといったことが発生することも考えられます。個々のプライバシー侵害のみならず、企業の情報漏えいや従業員のマインドコントロールといった、重大事象にすらつながる可能性があります。また、ゴーグルを物理的に盗まれれば、攻撃者がそれを利用してユーザーのアバターになりすまし、メタバース空間で開かれるビジネスミーティングに出席して企業秘密を盗み出すといった事態も想定されます。

メタバースにおける個人情報の扱いに関する規制は、まだ確立されているとは言い難い状況です。虹彩などのバイオメトリクス情報、行動・健康状態に関する詳細情報、人工知能(AI)との会話の内容など、メタバース空間には膨大な量のデータが日々蓄積されることになります。そのため、規制が強化された時への対応をあらかじめ考えておく必要があります。

誹謗中傷

コンテンツのモデレーションは、現在のSNSプラットフォームでも大きな問題となっています。個人に対するいじめや差別から、誹謗中傷から国家の安全保障に関わるような偽情報を使った世論操作まで、幅広い課題が解決されないままメタバースにも持ち込まれる可能性があります。

メタバースではSNSに比べて、表現力が大幅に向上します。自社の製品やサービスが攻撃者の標的となった場合、リカバリーに要する時間やコストはこれまで以上に増大すると考えたほうがよいでしょう。

企業のためのメタバースビジネスインサイト

メタバースのビジネス動向や活用事例、活用する上での課題・アプローチなど、さまざまなトピックを連載で発信します。

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執筆者

奥野 和弘

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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岩花 修平

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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小林 公樹

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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長嶋 孝之

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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