労働生産性向上のためのラストワンピース - 非定型業務の強化とそれを支える組織カルチャー

2023-05-10

生産性向上に取り組んできたものの、ナゼか低い日本の労働生産性

「日本の労働生産性が低い」というニュースを目にすることがあります。公益財団法人日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2022」によると、日本の労働生産性はOECD加盟38カ国中27位であり、1970年以降で最も低い順位となってしまいました。労働生産性とは物的労働生産性、付加価値労働生産性を表したものであり、「日本は時間あたりのモノ、もしくは付加価値の生産量が多くない」ということが示された形です。

※生産性の測定方法
物的労働生産性=生産量÷労働量(労働者数×労働時間)
付加価値労働生産性=付加価値÷労働量(労働者数×労働時間)

経済全体に目を向けると、バブル崩壊後の1990年代初頭から現在に至るまでの年月が「失われた30年」と評されるように、日本経済は低迷が続いています。しかし、その間にインターネットは商業化され、それまで手作業であった業務がシステムの導入により効率化されるなどIT化が進みました。また、BPR(Business Process Re-engineering)ブームに乗って業務プロセスの最適化が進展するなど、多くの企業において労働生産性を高める活動が推進されてきたことも事実です。ではなぜ、日本の労働生産性は他国と比べて低いのでしょうか。

※組織構造や社内の業務フロー、プロセスを本質的に見直して再設計すること

非定型業務の生産性向上に手をつけられていなかった

日本の労働生産性が低い原因はさまざまであり、またそれらは複雑に絡みあっているため、一概に原因を特定することは困難です。しかし、あえてその原因を考えてみると、これまでの取り組みに1つのヒントが隠されていると考えます。先に述べたように日本ではIT化やBPRにより業務品質と効率が改善され、ひいては労働生産性が向上してきたわけです。しかしその対象は定型業務が中心であり、非定型業務の品質向上と効率化に踏み込めていなかったところに、労働生産性が上がらない大きな原因がありそうです。

少し詳しく見てみましょう。高スキル業務と低スキル業務が増え、その中間の業務が減少している状況にITの導入がどのような影響を与えたのかをまとめた論文「労働市場の二極化(2009年)」のなかで、池永肇恵氏(元内閣府局長)は以下のように業務を5つに分類しています。

図 5業務分類の考え方

そして、その5つの業務構成比の変化を見てみると、「非定型分析」「非定型相互」「定型認識」が占める割合が年々増えていることが分かっています。そのうちの1つである「定型認識」はまさにIT化やBPRで生産性を向上させてきた業務ですが、残る2つの「非定型分析」と「非定型相互」の業務の生産性向上に十分に取り組めていなかったのではないでしょうか。つまり、この2つの非定型業務の質と効率を改善すれば、皆さんの職場における労働生産性を高め、ひいては日本全体の労働生産性を高めることにつながるのではないでしょうか。

急がば回れの非定型業務の生産性向上

非定型業務のうち、構成比の上位3つに含まれる「非定型分析」と「非定型相互」については、その業務内容を見てみると、私たちコンサルティングファームの主たる業務内容に近いことが見てとれます。クライアント企業それぞれの変革テーマに対し、さまざまな知見・ソリューションを活用してドライブさせることがコンサルティングファームのミッションです。一方でいずれも正解などなく、また不確実性の高いプロジェクトのような(つまり非定型)働き方であるという特徴があります。具体的には以下のような働き方です。

  • 目指すゴールを定義し、そのために解決すべきことを特定する
  • ゴール達成までの道のりを計画し、一緒に乗り越える仲間を募る
  • さまざまな要因が絡み合うなか、仮説と検証を繰り返し、「3歩進んで2歩下がる」を繰り返す
  • 費用や期間、業務繁忙など数多くの制約があるなか、スピーディーに意思決定する
  • 迅速に意思決定するための材料を整え、論点を明確にし、分かりやすく説明する
  • 利害関係が必ずしも一致しない部門間で合意形成する
  • ある時はスピードを、ある時は品質を、ある時は共感を、というように柔軟に対応する

このような働き方は、「専門性を駆使し、仮説思考論理的思考をもって分析する」「不確実性の高い状況のなかアジャイルに試行錯誤しつつ迅速に進める」「高いコミュニケーション能力をもってチームの理解や結束を固め、ファシリテーションにより質の高い意思決定をスピーディーに行う」といったように、まさに「非定型分析」や「非定型相互」の業務そのものです。また当然ながら、そのような働き方を評価し、人を育てるといった制度・仕組みの面からのサポートも必要です。
とはいえ、このような不確実性の高い状況において、非定型な働き方を継続することはなかなか容易ではありません。非定型な働き方を継続するためには、非定型業務を支えるスキルを発揮できるように、また制度・仕組みを構築できるように考え、行動し続けることが必要です。つまり、それらを「組織のカルチャーとしてインストールする/習慣化する」ことがなければ継続性や再現性が失われ、やがてその取り組みは形骸化してしまうかもしれません。

スキルを習熟するだけでも大変なのに、カルチャーとして定着させることまでのことを考えると、気が遠くなる気持ちも理解できます。しかし、だからといって指をくわえて見ていては何も変わりません。道のりは長いかもしれませんが、中長期的な変革の視座を持って本質的な組織変革に取り組むことで、生産性が高い業務の推進を実現できると私たちは信じています。

主要メンバー

丹 明善

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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桑原 武史

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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