{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大に伴い、人々の働き方は大きく変わりました。リモートワークが当たり前となり、業種や業態を問わず、個人のライフスタイルや周囲の環境に応じて働き方の多様化が進んでいます。
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)は、2021年11月から2022年1月にかけてProFuture社と共同で実施した「COVID-19に伴うワークスタイル変化に関する調査」の結果を2022年4月に公表しました。その結果によると、多くの企業でリモートワークが導入されているものの、成功していると言える企業もあれば、うまくいっていない企業もあるようです。
では、どのような企業がワークスタイルの多様化に適応できているのでしょうか。「日本企業に必要な新たなワークスタイル」と題した本連載の後編では、PwCコンサルティングでワークスタイル変革領域をリードする鈴木貞一郎がGoogle Cloud JapanでGoogle Workspaceの営業を統括する小林直史氏とともに、未来のあるべき働き方について語り合いました。
対談者
Google Cloud Japan
Google Workspace事業本部
ソリューション営業統括部長
小林 直史氏
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
鈴木 貞一郎
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
鈴木 貞一郎と小林 直史氏(右)
Playback of this video is not currently available
鈴木:前編でご説明したとおり、近年のワークスタイルの変化について、PwCコンサルティングが日本企業の経営側と従業員側の両方を対象にサーベイ(『PwCコンサルティング合同会社×ProFuture社 COVID-19に伴うワークスタイル変化に関する調査 – 2021年11-2022年1月』)を行ったところ、日本企業の3割程度が「リモートワークがうまくいっていない」と考えていることが分かりました。その上で私たちは、何がその障壁になっているかを調査しました。
その結果、障壁として「めざす働き方の姿が定義できていない」という回答が最も多く、どこに向かえばいいのか・どういう働き方をしたらいいのか、が定まっていないことが問題であることが分かりました。また、次いで「紙ベースの業務等でオフィスに来ないといけない」が多いという結果になりました。
企業の方と話していると、「会議室に什器を入れたい」「有用なデジタルツールを導入したい」という声が聞かれることが多いのですが、「どういう働き方がしたいですか?それに応じて什器もツールも選ばないといけませんよ」など、ビジョンに通じるスタイルについて問うと、答えられる企業はほとんどありません。私たちとしては、その前提となるスタイルをしっかり考えた上で検討する必要があると考えています。企業側でも総務は総務、人事は人事、ITはITでばらばらに考えがちなので、スタイルを定義するためのタスクフォースにおいて検討する必要があるでしょう。
小林:おっしゃるとおりで、中長期的なビジョンが大切だと思っています。今のやり方を踏襲して将来の働き方を考えるのではなく、「こうあるべき」という理想像を掲げ、そこから逆算して考えることが重要だと思います。DX文脈では、現在と将来の働き方は全く違うものになると想定される一方で、将来の世界観がどうなり得るかを明確に定義することなく、ただツールを導入するだけというケースが多いですね。デジタルも含め、企業としてのビジョンを明確に立てられている企業は一歩も二歩も進んでいる印象です。
鈴木:Googleはコロナ禍以前から自社ツールを使われていますが、Googleのツールにはどのようなコンセプトやスタイルがあるのでしょうか。
小林:創業者の意図や目的が非常に大切だと考えていて、大企業になっても「スタートアップマインドを忘れてはいけない」「大学院のキャンパスのような楽しさが企業に必要」というところからGoogleの組織は成り立っています。
さらに従業員数が増えて機動力を失ってしまう大企業病を避けるために「フラットな組織でスピード感をなくさない」「情報を透明化する」ということが徹底されています。大企業的によく見られるピラミッド型組織で個別最適の追求を行うのではなく、またビジネスアジリティを保つために組織を多層化せず、透明性を維持していることが大きいと思います。
鈴木:言うは易しですが、多くの企業がその壁を壊せていないと思いますが、もっとこういう風になったら変わることができると思う点はありますか。
小林:事業の効率化や個別最適化という意味で事業部ごとの分業化は正しいと思います。しかし、他の部署や他の人が何やっているか分からないというのは、規模が大きい企業ほど損失でしかないと思います。私は横のつながりのことを「コミュニティ」と言っていますが、コミュニティと縦の組織をどう作るかが大企業にとって重要なことかなと思います。
鈴木:Googleでは他国にいるどのGoogle社員に対しても連絡してよく、Google Workspace内で検索して出てきた社員にアプローチする際に、お互いの上長を通すようなことは不要ですよね。これを可能にしているのは創業者の思いがベースになっているということなのでしょうか。
Googleでは社員が作った資料やコンテンツは基本的にGoogle内の誰もが検索して見られるようになっていると伺いました。私のチームのナレッジマネジメントでもそのようにしたいと思ってますが、なかなか壊せない壁があります。「この成果物は自分たちのモノだから何も知らない人に悪用・改修されたくない」というマインドを乗り越える工夫はありますか。
小林:公開することへのインセンティブが働かないとなかなか難しいかもしれません。いくつかステップがあり、まずデータがローカルにあることが公開への一番の阻害要因になるので、データをローカルに置かずにクラウドに置くことが大前提になります。加えて、評価につなげることも重要です。「あの人は情報をこれだけ公開している」ということの定量化は難しいですが、コミュニティに対する貢献として第三者評価、Googleでいう「ピアレビュー」に乗せて評価につなげていくという方法もあります。
鈴木:定量評価ではなくピアでインパクトを評価するのですね。
小林:そうです、マネジャーだけではなくピア(同僚)も評価するのです。
鈴木:やはりカルチャーだけでなく、人材マネジメントサイクル全体で情報の透明性を支えているのですね。
Google Cloud Japan Google Workspace事業本部 ソリューション営業統括部長 小林 直史氏
鈴木:先ほど働き方のスタイルというお話をしましたが、「コミュニケーション・マネジメント・コラボレーションのスタイルを定義しましょう」となっても、最初はなかなか議論が進まないことがあります。そこで私たちはまず、働き方における12のシーンを定義し、「シーンごとに現状と将来像について考えましょう」というフレームワークを示して検討するケースが多いです。
例えば会議のシーンでは、現状「朝から晩まで会議続きで隙間がない」というところからクライアントの状況を分析すると、会議のほとんどが進捗報告のような情報共有ばかりであることが判明したりします。実はこのような情報は資料を読めば分かるのに、定例的に会議が開かれているケースも多いです。状況を分析することによって、「会議では進捗共有などはなるべく廃して、もっと育成やディスカッションを目的に絞ろう」といった意見が出てくるかと思います。ワークスタイルのルールを変更する際には、「各シーンの集合体はこういうスタイルですね」とボトムアップで導く方が日本企業に向いている気がします。
小林:Googleでの会議に関していうと、会議招集時にはアジェンダを必ず付けなければいけませんし、逆に目的の分からない会議には参加しなくてよいことになっています。会議にもさまざまな種類があると思いますが、時間は有限であり、予定が埋まってしまうので、効率性を重視するためには何を捨てるかが重要です。よりプライオリティの高い会議に参加することとし、優先度が最も高いのは何かについての決断を行う会議となります。
デジタルにより業務を効率化し、予告さえすれば欠席するとの判断をできる会議が出てきます。特に、グローバルでタイムギャップがあって直接会えないような場合は、事前に必要事項を共有ドキュメントで残し、実際に会える機会に集中して決めることで効率性を高められます。
鈴木:ワークスタイルの変革を語る上で、これまで「捨てる」という強い言葉は使ってきませんでしたが、確かに何かを捨てないと変わらないですよね。社員の成長やケアのための1対1の会議などは間違いなく有意義ですが、週次の1時間のステータスレビューは10分で終わったりするので、「捨てる」ことが重要になると思いました。
小林:例えばGoogleカレンダーでは「スピーディーミーディング」という機能があり、30分のミーティングのうち5分削ることができます。当社内でもこれを活用するうちに、会議が5分短いことを意識してメンバーが話を効率的に進めるようになってきました。
鈴木:ミーディングを5分短くする取り組みはPwCコンサルティング内でも試しています。私たちはミーティングの本当の開始時間を、設定時間の5分後に設定しています。例えば、13時からのミーティングであれば、開始時刻は13時5分としており、その5分間でメールを処理したり、事前準備を行ったりすることも可能です。メンバーに「先に入っておいて」と言っておくとそこで雑談する機会が生まれますし、こういうちょっとしたことの積み重ねで生産性が変わってくると実感しています。
鈴木:一番の壁は、一部のマネジメントが偏った見解に基づいてさまざまなことをジャッジしていることにあると思っています。「全ての案件は自分を通すように」といった権限移譲とは真逆の姿勢や、「自分が失敗の責任を負わされないように」といった保守的な価値観が部下まで強く浸透すると変革は困難ですし、チェンジリーダー的な若い世代が声を上げても形骸化してしまうところがあると思います。
小林:「失敗」というキーワードに関しては、社会性も影響していると思っています。海外だと失敗しても次の会社でチャレンジすればいいという風潮がありますが、日本では伝統的にステップアップの仕方が企業内に留まっているため、根本的に失敗できない社会を形作っているのではないかと思います。
鈴木:Googleのベンチャー精神のもとでは、失敗もチャレンジの結果であり、経験が成功に生かされると扱われ、歓迎されるということでしょうか。
小林:Googleのサービスはすぐになくなると言われています。哲学として「すべての人に使っていただけるサービスを目指す」ということがあるため、一部の人しか使えないサービスは目標に達していないことになり、私たちの言葉でいう“sunset(日没)”を迎えることになります。その結果、世間からはすぐなくなると言われたりもしますが、それくらいのビジネススピードで動いています。
鈴木:すぐなくせるくらいのスピード感で新しいチャレンジをしているということですね。
小林:レピュテーションリスクにもなりますので、すぐにやめることができないとか、やめるタイミングが分からず、ずるずるいってしまうケースもあるかと思います。その点Googleはドラスティックにやめる決断ができるということかもしれません。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 鈴木 貞一郎
鈴木:エンプロイーセントリックのような、「従業員目線で経営していこう」という風潮になり始めているものの、多くの企業はまだそこまで至っていないと思います。従業員に選択肢を与える方向に変わろうとしているので、働き方もキャリアの積み方も社員一人ひとりが自立的に選択肢を増やしながら自己実現できる、そういう未来を今の子どもたちの世代につなげたいと思いますね。
一方、従業員の中にも「どういう生き方をしたい」という価値観を持たず、「いい会社に入りたい」で止まってしまっている人もとても多いですよね。教育のあり方を含めて、変革が実現した先に未来があるのではないかと個人的には思います。
小林:おっしゃるとおりですね。以前はいい会社という社名で就職していたケースも多かったように思いますが、現在はその風潮もかなり変わってきているように感じます。
鈴木:では、さまざまなサービスやツールを提供しているGoogleが描く未来像とはどのようなものでしょうか。
小林:「将来的にどのようなキャリアを描きたいのか」「会社を通じて社会にどのように貢献していきたいのか」などの夢を描くことが大切かと思います。一方、会社側は社会の中での存在意義を従業員にもより明確に共有していくことが重要です。会社と自身が同じ夢やビジョンを持っているのであれば、社員自身のやる気や帰属意識も自然と高まっていきます。
そこで多様性のある環境で同じビジョンを持った人同士がコラボレーションツールにより、お互いを高め合えることができると、組織としてより強くなっていくように感じます。
鈴木:今回は貴重なお話をありがとうございました。