レコメンデーションで注意すべき「放っておいてもらえる権利」

2020-07-28

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界的に流行する現在、対面でのコミュニケーションは極端に制限され、オンライン会議やECサイトなどの非対面チャネルの活用に拍車がかかっています。これまでECサイトをあまり活用してこなかったユーザーは、至る所で商品を「おススメ」されることに驚いたかもしれません。この「おススメ」機能はレコメンデーションと呼ばれ、消費者(顧客)の購買意欲を大いにかき立てるものになっています。レコメンデーションの進化とそれに伴う弊害、今こそ企業に求められるレコメンデーションの在り方を解説します。

レコメンデーションがビジネスを左右する時代

国内広告費のうち、インターネット広告費がテレビメディア広告費を超えたことは、記憶に新しいニュースです。※1インターネットが広告業界の主戦場となることで、企業には、従来のテレビに向けた広告とは異なるマーケティング手法が求められています。

テレビにおける広告は、不特定多数の消費者に向けた「マス・マーケティング」が主流でした。対照的にインターネット広告は、少数の特定消費者に対して広告を配信します。消費者の属性情報(年齢・性別など)、性格情報(趣味・嗜好など)、行動履歴(購入回数・ページ遷移履歴など)を分析し、ニーズに合致した消費者にアプローチすることで、広告に対する反応率(Conversion Rate:CVR)を高めることが可能となります。インターネット技術の発達によって、企業はこれら消費者の情報を容易に取得できるようになり、誰に何を「おススメ」すべきかという選択肢の幅が広がりました。このような背景から、現代においては「よりレコメンデーションが求められる時代」になったと言えます。

進化していくレコメンデーション技術

より効率的な「レコメンデーション」を行うためには、レコメンデーションの種類と手法に対する理解を深めることが重要です(図表2)。どのような情報をもとにレコメンデーションを実施するかを見定めることで、意味のある顧客の分類が可能になります。例えば、流通小売業のように商品数が多く、購入サイクルが短い商品を扱う企業においては、協調フィルタリング(顧客の行動履歴や、顧客と似た性格情報を持つ別の顧客の行動履歴からおススメを決める手法)に代表される「アイテムベース」でのレコメンデーションが適切であると考えられます。そのために、顧客の購買履歴に着目し、顧客が「何を買ったか」で分類する必要があることは自明でしょう。

また、レコメンデーションの精度を維持するためには、逐次レコメンデーションモデルの見直しを行う必要があります。一般に、作成したモデルは時間の経過と共に精度が劣化していくものと考えられています。なぜなら、環境や対象となる顧客自身が時間の経過によって変化していくためです。精度の高いレコメンデーションを維持するためには、継続してデータを収集し、モデルを改善し続ける「仕組み作り」が重要になります。

新しく、より適切なレコメンデーション技術に対応していくため。そして、過去に作成したレコメンデーションモデルが時間とともに劣化していくため。これらの理由から、企業は自社のレコメンデーション技術を日々改善、進化させていく必要があります。

レコメンデーションで考慮すべき「放っておいてもらえる権利」

ただ、レコメンデーション中に「嫌悪感」を抱く顧客がいることも忘れてはなりません。必要のないタイミングで商品をおススメされたり、まったく関心のない商品をおススメされたり、はたまた欲しい商品が当てられ自己の内面を覗かれているようで、逆にストレスを感じたという方もいらっしゃるかもしれません。レコメンデーションの目的は「顧客が商品やサービスを必要とするタイミングを当てる」ことではなく「実際に購買を促すこと」ですから、レコメンデーションが顧客の「嫌悪感」につながり、商品やサービスに対するネガティブな感情を抱かせてしまっては、逆効果になってしまいます。企業には、「放っておいてもらいたい」顧客に配慮することも求められます。

諸説ありますが、プライバシー保護の活動は「個人情報」「私的領域」「個人の自律」のそれぞれを対象に構成されます(図表3)。従来、特に法務や情報システムの業務領域では、個人データの適正利用や漏えい防止などの「個人情報」の保護に重点が置かれていました。一方、ユーザーサービスの充実や顧客ロイヤルティの向上という観点では、私生活へむやみに干渉しないという「私的領域」の保護、つまりは「放っておいてもらえる権利」への配慮とのバランスが重要になります。

特にレコメンデーションについては、(1)過度なアプローチを控える(2)私的情報に踏み込み過ぎないという2点が、サービス設計の中で検討すべき項目となります。

  1. 過度なアプローチを控える
    過去にはダイレクトメールの大量配信、そして最近では動くオーバーレイ広告など、目的を見失って手段に走ってしまい、送信数やクリック数を稼ぐだけでユーザーに「嫌悪感」を抱かれてしまった例は数多くあります。ユーザーの私的領域に接するブラウザ上の行動・体験を妨害するアプローチでは、購買活動につながる可能性は低くなります。
  2. 私的情報に踏み込み過ぎない
    レコメンデーションは精度の高いモデルであるがゆえに、顧客のセンシティブな情報を推測することが容易になってきています。例えば、食料品の購買履歴の変化から、当該顧客が妊娠中と推知し、関連商品やイベントをダイレクトメールで案内することが技術的に可能であっても、受け取った側が心地よく感じるとは限りません。病歴や性癖、趣味嗜好など、場合によっては同居する家族にも知られたくない情報があるかもしれません。企業は、レコメンデーションを通じて顧客の知られたくない情報に気付かぬうちに触れてしまっているかもしれない点を考慮する必要があります。

いま求められる「オモテナシのレコメンデーション」

レコメンデーションにおいて検討すべき上記2つの課題に対して、企業は以下の対策を講じる必要があります。

  1. 精度を向上させ、かつ適切なタイミングで行う
    「過度なアプローチを控える」ためには、「精度」と「タイミング」が重要になります。取得可能なデータの広がりと、ディープラーニング(深層学習)といった人工知能(AI)技術の発展により、レコメンデーションの「精度」は飛躍的に高まっています。精度の高いレコメンデーションは顧客にとって関心のないおススメを減らし、心理的なストレスを軽減させることにつながります。また、本当にそれを必要とする「タイミング」において適切なおススメを行うことで、レコメンデーションを過度なものと思わせないことも重要です。
  2. インプットとアウトプットを精査する
    「私的情報に踏み込み過ぎない」ためには、「インプット」と「アウトプット」が重要になります。「インプット」として使用するデータの中に、顧客が他人に知られたくないであろう情報をもとにしたものはないか、「アウトプット」としておススメする内容に、他人からアドバイスを受けたくない情報が含まれていないか。おススメされる顧客が気持ちよく情報を受け取ることができるか、企業は十分に検討・精査をした上で発信する必要があるのです。

インターネット技術の進化によって注目を集めるレコメンデーション。必要な時に必要な情報を届けてくれたり、顧客が気づいていなかった潜在的な購買意欲を引き出したりと、情報を発信する側と受け取る側の双方に恩恵をもたらしています。ですが、取得または提示可能な情報が増えたことにより、新たな弊害も生まれています。これからの時代に求められる真のレコメンデーションとは、企業がAI技術を駆使しながらプライバシーに配慮し、顧客が安心してサービスを利用できる「オモテナシのレコメンデーション」なのかもしれません。

このインサイトが、マーケティング施策における最適なレコメンデーションを検討する一助になれば幸いです。

執筆者

藤川 琢哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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木村 俊介

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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篠宮 輝

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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