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2018-12-17
百貨店やアパレルが低迷する中、各社は変革の真っ只中にある。EC化の進展とその対応、顧客との関係構築、販売面でのイノベーションなど課題が山積みだ。そんな中、「ファクトリエ」は日本の工場とともにメイド・イン・ジャパンの衣料品を作り、適正価格で消費者に提供する前例のない革新的なビジネスモデルで、日本のものづくりの活性化に取り組んでいる。ファクトリエの山田敏夫代表とPwCパートナーの小山 徹が、日本の小売の現状と未来について語り合う。
(左から)小山 徹、山田 敏夫氏
対談者
山田 敏夫
ライフスタイルアクセント株式会社 代表取締役(写真右)
ファクトリエ 代表
1982年熊本県出身。実家は創業100年以上の老舗婦人服店。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店に勤務し、一流のものづくり、商品へのこだわり・プロ意識を学ぶ。2012年に工場直結ジャパンブランド「ファクトリエ」を展開するライフスタイルアクセント株式会社を設立。年間100カ所以上のものづくりの現場を訪れる。
小山 徹
PwC Japanグループ 流通セクター統括(写真左)
PwC Japan合同会社 パートナー
グローバルIT企業、事業会社を経て、旧プライスウォーターハウスへ入社。16年にわたり主にヘルスケア、流通業界を担当し、業務改善/改革からシステム導入/グローバル展開、企業統合などの戦略案件を含む数多くのプロジェクトに従事。その後、大手流通会社役員兼システム子会社代表取締役、IT部門長を経て2017年よりPwC Japanグループの流通セクター統括に着任。
PwC Japanグループ 流通セクター統括 PwC Japan合同会社 パートナー 小山 徹
小山 イノベーションを生み出すには、企業文化も重要だと思いますが、山田さんはイノベーションについてどう捉えていらっしゃいますか?
山田 僕自身の根底にあるのは、相手が言葉にできない潜在的ニーズを解決するということです。例えば僕は工場に出向いて彼らの悩みを聞くと、50円でも60円でもいいから入る金額を上げたいと言う。だから、工場に値段を決めてもらって、工場の言い値で買っています。さらに、作られた製品には製造した工場の名前が付いています。工場にとっては、自分たちが表に出られるとは思っていないし、値段の決定権を持てるとも思っていない。つまり、僕たちがやっていることは自分たちというより工場にとってのイノベーションなわけです。このイノベーションを起こしたことで、工場側から僕らにどんどんアプローチしてくれているのが現状です。それはたぶん、彼らの潜在的ニーズを解決したからだと解釈しています。
小山 ある意味、ビジネスモデルを変えたわけですよね。世の中にいいモノはあるけれども、そのモノと顧客がつながらなかった。その点と点をつなげて線にし、さらには面にして、無から有を生んだ。自分でモノを作っているわけではないけれども、モノがどうやってできて、どう売れるのか、全体を俯瞰して見た上でのマッチングですよね。
山田 僕はビジネスの世界は大きく二つに分かれていると思っているんです。一つは、自分たちはこれが好きだからやるという世界、もう一つは時流をひたすら追いかけている世界です。世の中は前者の世界に進んでいるのに、後者の世界では相変わらずオムニチャネル戦略などのキーワードに踊り、それが自分たちのコンセプトやターゲットに合っているのかも判断しないまま、焦り続けているような気がします。
小山 コアコンピタンスを見失い、バズワードの戦略と戦術に溺れているかもしれない。
山田 僕らは毎週日曜の夜、15分だけライブ配信をしているんです。二人以上見てくれればいいかと軽い気持ちで楽しみながら始めたのですが、今では1回に1万人くらいにリーチするんです。ファクトリエは「あなたから買いたい」という存在に全員がなると決めていて、経理やエンジニアも店に立つんですが、このライブ配信も週替りで担当しています。でも、僕らにとってこの配信は「楽しかったね」で単純に終わるものなんです。数は集めているけれども、そこに結果を求めているわけではなく、ただ楽しいからやっているだけ。でも、ビジネスの世界から見ると「ファクトリエがライブ配信を始めたらしいぞ。自分たちも何かやった方がいいんじゃないか」となってしまう(苦笑)。そうではなくて、何か熱中できることのある世界にみんな早く行くべきだと思うんですよ。
小山 今のお話は、ファクトリエがモノを超えてコトに到達していることを示していますよね。ファクトリエという名前そのものが、このシーンのコトになっている。でも一般的には、コトビジネスを成功させているから、自分たちもコトをビジネスでマネタイズしなくてはいけないという風になってしまう。
山田 結局、消費者にマネタイズしたい目的が伝わってしまうと、冷めてしまうんですよ。
小山 自分たちが楽しくてわくわくする、好きでやっている世界だから、そこに共感してくれる人なら買ってくれるかもしれない。それが今のコミュニティマーケティングの世界ですよね。ヤンガーミレニアル世代のコミュニティはまさにそういう世界だし、その下のジェネレーションZ世代になれば、また別の世界が広がっているのかもしれないですね。
山田 僕らの世代って、自動車にも高級腕時計にも興味がない世代なんです。決して嫌いなわけでなく、何を買っていいのかわからないんです。モノがその人を表してしまうともいえますし。実はファクトリエってそういう層に支持されているのかなと感じることがあるんです。経営者仲間で話していても、デパートのメンズ館やセレクトショップなどのおしゃれな店に買い物に行きたいけど、そこに着ていく服がない。だったらファクトリエで買おうという層がいる。僕はそこに結構大きな市場があると思うんですよ。そして最近では、消費者の購買行動も多様化しています。
小山 それぞれ自分がどうありたいか、何を選択したいか。かつてはマスコミの情報で画一的な流行や価値が作られた時代もあったけれども、今はそんな時代ではない。そのあたりの価値観の世代間ギャップは、大きくなってきているのかもしれませんね。
山田 嗜好が細分化する現代は、世代や性別で設定したターゲットに合わせてマーケティング戦略を実行する時代ではない。僕自身は、自分たちの提供する価値観に共感してもらうことで、顧客を集める時代なのでないかと感じています。僕らのお客様も、18歳もいれば75歳も90歳もいらっしゃいます。これまでの服の価値は、「ファッション性」と「経済性」だったと思うんです。でも、僕らのお客様は、三つ目の新しい価値である「作り手の想い」で選んでくださる人たちなんだと思います。実は、野菜を選ぶときなどでは普通になっている価値観ですが、洋服ではまだそれがなかった。
小山 正しいフェアトレードですよね。
山田 そうなんですよ。僕らはそれをやりたい。だから、その想いに共感してくれる人であれば、別に何歳でもいいんです。価値で引っ張りたい。その価値で引っ張れる人の規模がどの程度なのかは問題ではないんです。
小山 ファクトリエでは、「コト」を共有するコミュニティ活動もいろいろ取り組んでいますよね。工場ツアーを毎月やるとか。
山田 工場ツアーの案内役は、販売を担当するコンシェルジュなのですが、そのコンシェルジュのファンが参加してくれるんですよ。ライブ配信にしてもコンシェルジュのファンが見てくれる。僕は、ファクトリエという名前で安心感を持って買ってくれる人がいてもいいし、そこで働くコンシェルジュが好きだから買いたいっていう人がいてもいいと思っているんです。でも、「あなたから買いたい」「あなたのライブ配信が見たい」というのは、もはやビジネスモデルとは言えないベタな接客スタイルですよね。でも、大手Eコマースの世界がある中で、生きる道はそこだと思うんです。
小山 論理的なメカニズムを超えて、人と人とをつなげる「想い」であり、それが共感につながるコトビジネスをつくる。ファクトリエの場合、そこに生産者のネットワークも持っていて、彼らの生活を変えるインパクトも出している。ただ一方で、いつか飽和する規模になる可能性もありますよね?
山田 あります。全然それは気にしてないんです。むしろ、コットン栽培といったものづくりの川上にお客さんを巻き込んで、生産側につながる機会をもっと増やしたい。ボランティアを受ける人より、ボランティアを提供する人の方が幸福度が高いそうなんですよ。面白くないですか?そういう機会もどんどん提供していきたいと考えています。
ライフスタイルアクセント株式会社 代表取締役 ファクトリエ 代表 山田 敏夫氏
小山 今後、ベンチャー企業同士が横で連携したり、ベンチャーからいろいろな形で大手に関わっていったりするケースもあります。ファクトリエのように原料から小売までを包括するネットワークを通じてビジネスを作っていくケースもあるでしょう。
山田 ブランドに関して言えば、売上規模や店舗数などのビジネスの規模って、価値と比例しないんです。規模が大きくなりすぎるとブランド価値は下がってしまうのではないでしょうか。
小山 つまり、ブランドが顧客と共有したい世界観は、それがモノであれコトであれ、右肩上がりに広がり続けることはないという事ですよね。一方で、世の中には永らく変わらない企業もあれば、変化し続ける企業もある。コアコンピタンスはそのまま維持しながら新規分野に参入するなど、時代時代で事業領域を変化させ、拡大し続ける会社もあります。いろいろな企業の形があり、「絶対にこうでなくてはいけない」ものもない。小さい規模の会社にいれば、川上から川下まで全部自分で理解しなくてはいけないし、いくつもの役割をこなさなくてはいけないですしね。人生って、プライベートも仕事もすべての経験がプラスにしかならないじゃないですか。失敗もプラスの経験になる。いろいろな経験を経た中で、そこに共感する人がいれば一緒に仕事をすればいいし、それがコミュニティになればいい。そういう組織が増えると、日本の製造業も販売業ももっと元気になるのかなと思います。山田さんご自身が今、一番やりたいことはなんですか?
山田 うーん。今、とてもありがたいことに、やりたいことをやらせてもらっています。時々「もっと面白いことが見つかったらどうしますか」と聞かれるんですが、もっと面白いことが見つかったとしても、今のファクトリエにこう活かせるんじゃないかと考えるような気がします。ただ、今はこれ以上に面白いことってないし、何事も一つ一つ積み上げていかなくてはいけないと思います。海外展開もしていきたいですが、新しい国でゼロから始めるには、一つ一つ積み重ねて認められるようにならなくてはいけませんから。
小山 例えば事業が広がった時に、自分がハンドリングできるサイズは限られてしまいますし。
山田 そこは、どれだけ社員にミッション・ビジョン・バリューを浸透させられるかじゃないでしょうか。例えば、僕らのバリューは「誠実」と「挑戦」と「楽しむ」ということ。決定は全部、自分たちのバリューに沿っているかどうかが基準になっています。
小山 つまり、ファクトリエには揺るぎないクレド(信条)があり、それが全社員に浸透しているからこそ、課題に対する意思決定がスムーズにできる。さらにはクレドに合致した、新しいサービスの創出にもつながるわけですよね。PwCは、「社会に信頼を築き、重要な問題を解決する」という理念を掲げていますが、僕もこの理念に基づいて仕事をしています。
PwC Japanグループ 流通セクター統括 PwC Japan合同会社 パートナー 小山 徹
消費の形態が「モノ」から「コト」に変わり、コトを共有する「コミュニティマーケティング」が注目される中、ファクトリエは一足先にアパレル業界でのイノベーションを実現している。中間流通を排除し、高品質な製品を適正価格で顧客に提供する一方で、提携工場には彼らの希望価格で製品を買い取るというビジネスモデル。それを支えるのは、メイド・イン・ジャパンの技術と情熱が詰まった製品を消費者に届けたいという「想い」であり、ものづくりの現場を守り、育てたいという「想い」なのでしょう。山田氏は「規模の拡大は狙わない」と言い切り、一人でも多くの人に価値を共有することにプライオリティを置く。そこに同社の姿勢に共感するファンが集まり、コミュニティが形成されている。
対談を通して、改めて顧客への価値提供とは何か、コアコンピタンスの重要性を痛感し、今後お客様により高い付加価値のあるサービス提供ができるよう、監査、税務、アドバイザリー、コンサルティングが1つとなりシナジーを最大化させるべきだと強く感じました。(小山 徹)