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日本の強みを生かした新産業創造の必要性(前編) 採るべき戦略はマルチパスウェイ。多様化するエネルギー利用のなかで、水素エンジンが持つ役割とは
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、水素社会実現に向けた内燃機関やマルチパスウェイの重要性について議論しました。
人口減少社会を迎え、地方の過疎化や地域産業の衰退などの社会課題が顕在化してきた日本においては、都市や地域が抱えるさまざまな社会課題をデータとテクノロジーを活用して解決し、市民の生活の質の向上を目指す“スマートシティ”に注目が集まっています。その中で、都市・地域内の移動を支える地域公共交通はスマートシティの重要な要素の1つとして考えられています。
少子高齢化・人口減少に起因する移動課題が近年顕著になってきており、地域公共交通の重要性が高まっています。しかし、その1つであるバス事業においては、事業性の悪化や運転手不足が加速しており、主要路線バス会社の8割以上が路線を2023年以降に減便または廃止を予定している※1ほか、2030年度にはバス運転手が3万6,000人不足するとも試算※2されています。加えて、乗合バス事業者の9割以上が赤字を計上しており※3、経営状況の改善も大きな課題となっています。
そこで、運転手不足の解消と事業性の改善を実現する手段の1つとして近年注目されているのが、地域公共交通への自動運転の導入です。具体的には、無人自動運転が実現すると運行車両1台に対して運転手1人が必要であったのに対し、1人の遠隔監視者で複数台の車両を運行することが可能となることから、運行に必要な人員の削減が可能となります。また、人件費の削減やダイヤの高頻度化、夜間運行などの運行時間の延長により収入増加などが見込まれ、事業性の改善が期待されています。
運転手が不要な自動運転移動サービスの実現には、自動運転技術の確立や法規対応など、さまざまな課題があり、中長期的な取り組みが必要となります。
自動運転導入初期段階においては、デスバレー(大幅な赤字が続く時期)が存在し、交通事業者の自助努力や自治体からの補助金などによる公助のみでは対応が困難なことは、既存の公共交通の経営状況からも明らかです。そのため、民間事業者や地域住民などを巻き込んだ共創により、地域公共交通への自動運転導入を実現することが肝要となります。
地域公共交通には単に移動手段としての効果だけでなく、交通利便性向上による地域経済の活性化などさまざまな効果が期待されます。そのため、共創には地域公共交通が他分野に及ぼす効果も加味した社会的インパクトを可視化・定量化し、各ステークホルダーが享受できるメリットを整理することで地域公共交通の価値を理解してもらい、エコシステムの構築に協力してもらうことが重要です。
自動運転化された地域公共交通がもたらす社会的インパクトとしては、「経済的効果」「社会的効果」「環境的効果」の3つの観点が考えられます。
経済的効果には、地域公共交通が自動運転化されることにより生じる効果(夜間運行による収入増加など)と、地域公共交通が存在することにより創出される波及的効果(周辺施設の売り上げ増加等)の2種類があります。1つ目の効果は主に交通事業者や公共交通利用者が享受できるメリットであり、2つ目の効果は交通事業に直接関係しない方も幅広く享受できるメリットです。これらの効果を整理し、定量化可能な効果を特定・算出することで、地域公共交通が有する金銭的価値を定量化できます。
自動運転化により地域公共交通が維持・存続されることで、外出機会の増加による健康増進や交通事故の減少といった効果が見込まれます。このような経済的効果が直接的には見込めないものの、地域の活性化や魅力向上につながる効果を社会的効果といいます。一部の社会的効果は、地域公共交通が廃止されることで生じる負の影響を考慮することで、金銭的価値に結び付けることも可能です。
自動運転化により地域公共交通が維持・存続されることで、自家用車利用率の減少や交通渋滞の解消といった効果が見込まれます。その結果、CO2排出量の削減による環境負荷低減につながる効果を環境的効果といいます。環境的効果を可視化・定量化することで自動運転化された地域公共交通の有する非金銭的価値が説明可能となります。
自動運転導入による地域公共交通の維持・存続が地域へもたらすインパクトを可視化・定量化することで地域公共交通の必要性・重要性について説明可能なものとし、多くの関係者を巻き込んだ共創による持続可能な地域公共交通の構築を目指すことが肝要です。
共創の実現には他事業者や地域住民からの支援が必要となります。支援依頼をする際には、地域公共交通を維持・存続する価値を相手に理解してもらう必要があります。「公共交通が存在することで外出機会が増加して健康増進が図れる」といった定性的な説明のみでは理解が得られないことが多いため、公共交通が有する効果を定量化して説明することが求められます。
上述のとおり、公共交通の有する効果を定量化することで、各ステークホルダーへの理解醸成を期待できるだけでなく、議会での予算獲得時の説明や、地域住民への効果的な税金使用のアピールが可能となります。
共創の考えに共感するものの、投資対効果が不明瞭で投資判断がつかない際に、社会的インパクトを可視化・定量化することで、どの程度の投資によりどれくらいの利益が自社へ還元されるかを推定することが可能となります。また投資によって生じる社会的インパクトがどの程度存在するかを定量的に説明可能となり、企業価値やブランドイメージの向上、ESGを意識した投資家へのアピールにつながります。
地域公共交通が存在することにより得られる利益を可視化・定量化し、地域公共交通の価値を理解することで、地域公共交通に対する適切な還元方法を設定できます。また還元により地域公共交通を共創することで地域の活性化につながり、さらなる受益が期待できます。
本稿ではスマートシティにおける重要な要素である地域公共交通地域の現状を整理し、自動運転化による地域公共交通の維持・存続について考察しました。また自動運転を導入する際に課題となる事業性にフォーカスし、地域公共交通の自動運転化に伴う社会的インパクトの可視化・定量化の重要性を説明しました。
自動運転移動サービスの事業化には多くの課題がありますが、PwCでは自動運転移動サービスの事業化支援も実施していますので、併せてご参照ください。
※1:帝国データバンク「全国「主要路線バス」運行状況調査」(2024年7月3日閲覧)https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p231109.pdf
※2:日本バス協会,「国土幹線道路部会 ヒアリング資料」(2024年7月3日閲覧)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001634143.pdf
※3:日本バス協会,「2022年度版(令和4年度)日本のバス事業」(2024年7月3日閲覧)https://www.bus.or.jp/cms/wp-content/themes/bus/images/about/publication/2022_busjigyo.pdf
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