リスクマネジメントを経営戦略につなげて企業価値を向上

意思決定や情報開示でもメリットを生む統合リスク管理 「リスクマネジメントのデジタル化とデータ利活用」

  • 2024-07-05

はじめに

企業が持続的な成長をしていくためには、リスクマネジメントの観点が不可欠です。企業が直面するリスクには、気候変動やテクノロジーの進化といった外部環境に起因するものもあれば、組織の縦割りや事業ポートフォリオといった社内事情に起因するものもあります。

こうした社内外のリスクに対して、企業価値を向上させるための変革のドライバーとなるのが、リスクマネジメントのデジタル化とデータの利活用です。なぜリスクマネジメントをデジタル化する必要があるのか、経営戦略の視点でどのようなメリットがあるのか、そして推進するにはどうすればいいのか。これらの点について解説します。

導入して終わりではなく、継続的なアップデートを

最後に、リスクマネジメントのデジタル化とデータの利活用の進め方についても触れておきます。どう進めていけばいいのかは企業によっても違いますが、一般的な方法としては「全体構想」「設計」「構築」「Post Go Live」の4つのステップに分けられます。ケアすべきポイントを説明しましょう。

1つ目の「全体構想」では、ビジョンの策定とデータモデルの構築を実施します。ビジョンは、目指すべきリスクマネジメントの姿や経営管理サイクルの定義、それを支えるイネーブラーシステムについて、経営層やシステム部門も含めた意識統一を行います。リスクマネジメントはどうしてもリスク管理部門だけが携わると思われがちなので、経営から各事業部まで全社的な取り組みである点を周知させることがポイントとなります。

また、統合的なリスクマネジメントを進める上ではリスク評価が必要となるため、全体構想の段階で指針となるデータモデルやデータ辞書を整備しておくことも重要です。

2つ目は「設計」です。ここでは、全体構想で整備したデータモデルを基に、何がリスクになるのか、リスクが業務に対してどのような影響を及ぼすのかというリスク評価メトリクスを準備します。その際、単一のリスク指標だけでは評価が不正確になることもあるので、複数のデータ項目を組み合わせてリスクの発現を検知する基準を決めておくといいでしょう。

また、三線体制やリスクオーナーなど、全体のガバナンスに応じたアクセス権も、設計段階で定義しておくべきです。

3つ目の「構築」でのポイントは、長年続いたマニュアル業務をデジタル化していくため、すべてを一気に変えるのではなく、アジャイルで推進することです。実際のデータを使ったリスク評価の結果やレポートを確認しながら、徐々にアジャストしていくと無理のない形で移行が進むでしょう。

システムの構築と並行してカルチャーの変革も求められます。業務移行のハードルを越えるには、経営トップからの強いメッセージや現場向けのトレーニングも必要です。

4つ目は、「Post Go Live」での定期的な更新や改定です。外部環境やリスク発現の状況は常に変化するため、リスクシナリオを定期的にメンテナンスしてアップデートすることで、リスクマネジメントの効果を最大化できます。次世代のリスクマネジメントに向けては、AIの活用といった高度化・効率化も検討していくことになります。

まとめ

リスクマネジメントのデジタル化やデータの利活用を進める意義は、単にプロセスを変えて内部統制の強化を図るためだけではなく、リスクマネジメントと経営戦略を融合させることにより、さまざまな効果やメリットを得ることにあるという点について述べてきました。

会計や人事、外部環境といった個別のリスクは従来の方法でも対応できるかもしれませんが、これらを統合してリスク管理から経営上の意思決定、情報開示にいたるまでハンドリングするにはデジタル化は必須です。

社内システムの大幅な変革を伴うことに不安を持たれる経営者の方もおられると思います。また、実際、リスク管理だけのためのシステムを構築するのは費用対効果の面で負担になることが予想されます。ただ、多くの企業は社内のDXを推進する中でプラットフォームやデータレイクを有するケースも多いので、そこにリスク情報を統合する形にすれば、コストやオペレーションの面で効率的なデジタル化を図ることは可能です。

執筆者

山崎 幸一

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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