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昨今、ESGや人権リスクへの対応を効率化するリスク管理ツールの必要性が高まっています。その背景の1つとして、EUの「コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)」をはじめとする各国の規制強化が挙げられます。これらの規制では、リスクの特定と評価の実施や報告、各ステークホルダーとの対話など、さまざまな義務と責任が企業に課されています。対象は、直接的な取引先だけでなく、間接的な取引先も含むサプライチェーン全体に及びます。
また、取引先や投資家などのステークホルダーからの要請もますます高まってきています。こうしたESG・人権リスクへの対応に関する課題が増え続ける中で、それらを適切に管理するツールがなければ、企業経営そのものが困難になる時代に突入しつつあります。
ESG・人権リスク管理ツールを機能させるためには、どのような要件が満たされるべきでしょうか。まず押さえておくべきことは、対象が自社やその1部門だけというような部分的なものではなく、サプライチェーン全体を対象にした包括的なものである必要があるということです。サステナブルなサプライチェーン体制を構築するための基盤としての役割を果たすツールである必要があります。
まず、例として人権リスクにおける対応プロセスを示します。
図表1:人権リスクに対応するプロセス
人権方針を中心に、それを取り巻く具体的なリスクとしてどのようなものがあるかを特定し、評価することから始まります。問題があれば、是正に向けた取り組みが必要です。また、まだ発生していないリスクに対しては、予防策や軽減策を講じることが求められます。そして、これらの取り組みをしっかりとモニタリングし、最終的に情報開示を行います。このプロセスの間、ステークホルダーとの対話や、外部からの情報を取り込むことも重要です。これら一連のプロセスを管理できる機能が管理ツールには求められます。
以上のことを考慮すると、リスク管理ツールは単なる情報のデータベースにとどまらないことが理解できます。人権などのリスクの特定、評価、優先順位付けから、予防や是正措置の進捗管理、措置の有効性の評価、さらには最終的な情報開示までを、一貫して管理できるツールである必要があるのです。
図表2:人権リスク管理ツールの概要
次に、リスク管理ツールを導入した場合のメリットについて説明します。まず挙げられるのは、コスト効率を上げながらも抜け漏れのないリスク管理が可能になる点です。膨大な取引先を抱える中で、各国の法規制やガイドラインが求めるリスク評価を手作業で行うのは、労力がかかり、コストの面で非効率だと言わざるを得ません。また、手作業は属人化および作業品質のバラツキにもつながり、ガバナンスの観点からも問題があります。
限られたリソースの中で、正確かつ抜け漏れがないリスク管理を実施するためには、属人性を排除し、効率的かつ効果的な手法が必要です。自社だけでなく、取引先なども同じツール上で管理することができれば、共通の項目や尺度での評価が可能になります。これにより、取引先のデータ管理や評価、モニタリング、報告作業などを1つのツールで完結することができれば、リソースの節約とコストの削減につながります。さらには、メールや書面での取引先への情報提供の依頼や回収と比較して、やり取りの頻度やスピードが大幅に向上します。結果として、取引先とのコミュニケーションの強化や効率化を実現できます。
ツール導入のもう1つのメリットは、リスクの早期発見と対応力強化により、企業の信頼性を向上できる点です。
全てのデータを一元管理することで、データの集計や分析が容易になり、リスクの早期発見が可能になります。また、取引先全体の情報を統合して俯瞰的に管理できることで、リスクへの対応力強化にもつながります。結果として、規制を遵守し、リスクが軽減されることで、経営の透明性と信頼性の向上へと結びついていくことになります。
さらに、リスク評価の精度向上も期待できます。現在も手作業で外部機関から評価基準のためのデータを取得しているケースがありますが、その手法では、取り扱うリスクが増え続けている状況下においては限界が見えてきているのではないでしょうか。ツールの導入により外部機関をはじめとしたさまざまな情報を自動的に収集します。最近では、AIによる分析機能を持つツールも登場しています。こうした機能を使うことによって、より正確なリスク評価が可能となり、評価の精度もさらに向上していくと予想されます。
そして、過去のデータ履歴を時系列で把握できるようになることも、ツール導入の大きなメリットです。トレーサビリティの向上や透明性の確保につながり、不正の防止に大きな効果を発揮します。
では、実際にどのようなツールを導入すれば良いのでしょうか。ツールを選定する上で考慮すべき点をいくつか挙げてみます。
1つ目のポイントは、ユーザー視点で使い勝手が良い設計になっているかどうかです。ここで言う「使い勝手」とは、単に画面が分かりやすく操作しやすいというだけではありません。自社の既存の基幹システムやデータソースとの連携が容易であるかどうか、外部機関のデータソースにもアクセスできて、統合的かつ俯瞰的なアプローチが可能かどうかも重要です。そしてもちろん、コストの面や導入後のフォロー体制も考慮しなければなりません。
次に、社内での導入プロセスがスムーズに進むかどうかも大きな注意点です。特に重要なのは、ESG・人権リスク対応のツールを導入する意義を経営層が深く理解していることです。経営層がトップダウンで社内への導入をリードする必要があります。加えて、実際に運用する部門の人たちにも興味関心を持ってもらうことが不可欠です。多くの関係者を巻き込みながら、ESG・人権リスクやサステナビリティの教育を進めていくことが、ツール導入を成功に導く鍵となるでしょう。
これまで見てきたように、効率的かつ効果的なESG・人権リスクの管理には、ツールの導入が非常に有益です。そしてそのツールは、自社を取り巻くバリューチェーン全体を可視化できるものであることが重要です。取引先のデータを一元管理し、外部のさまざまなデータソースや自社の基幹システムと連携することで、ESG・人権リスクを一貫して管理できるようになります。これにより、コスト削減やトレーサビリティの向上、リスク評価の高度化などが期待でき、ツール導入のメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
ただし、ツールの導入によって手作業よりもはるかに効率化できるとはいえ、全てが簡単に解決するわけではありません。取引先との連携や外部データソースの取り込みなど、運用開始時の負荷は相応に大きくなると予想されます。これらも鑑み、PwCコンサルティング合同会社ではツールの選定からカスタマイズ、導入時のサポートや運用の支援まで、一貫して伴走します。
自社の業務改善やビジネス拡大に向け、多くの企業がDXに取り組んでいますが、サステナビリティに関するDXにも積極的に取り組む必要のある時代になっています。ツールの導入は、ESG・人権リスク管理の効率化を実現し、自社の信頼性を高めるきっかけとなるでしょう。
PwCドイツで提供するESG・人権リスク管理ツール(Check Your Value Chain(CYVC))は、全てのビジネスパートナー(Tier 1からTier nのサプライヤー、自社のビジネス活動、顧客)を包括的に把握できる統合ソリューションです。
詳細なリスク分析を通じて、段階的にリスクのあるビジネスパートナーを特定します。
図表3:PwCドイツのESG・人権リスク管理ツール(Check Your Value Chain)
北崎 陽三
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社