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サプライチェーンのグローバル化の中で、ビジネスの複雑性が高まり、環境・社会・ガバナンスに関連して生じる企業の「ESGリスク」への対応がますます重要になってきています。最近では、財務情報だけでなく、サステナビリティを中心とした非財務情報にも注目が集まり、企業が意識すべきリスクは多様化しています。
世界的に見ても、ESG分野の規制強化の動きは強まっており、欧州を中心に法規制の整備が進展しています。企業はより多くの情報開示を求められ、それに対応する必要に迫られることになります。
図表1:サステナビリティに関する規制強化の潮流
こうした動きに合わせて、企業がESGリスクに対応できているかどうかは、投資家による投資判断において重要な判断基準となっています。日本におけるサステナブル投資の残高は、この10年ほどで大きく上昇傾向であることが以下のグラフからも確認できます。
図表2:日本のサステナブル投資の残高
出所:日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)
投資家は、外部の評価機関などから投資に対する判断材料を得ます。例えば、人権尊重に関する企業評価であればCHRB(Corporate Human Rights Benchmark)、ESG全般の企業評価であればDJSI(Dow Jones Sustainability Indices)などが挙げられます。企業は、こうした外部機関への対応も求められています。
現代の企業には、投資家のみならず、さまざまなステークホルダーから社会課題解決への貢献が期待されています。企業のサステナブル(持続可能)な発展や成長を実現するためには、こうしたESGリスクへの対応は、もはや回避できない現実的な課題となっています。
人口増加、グローバル化、貧富の格差の拡大、気候変動など、地球規模で起きている構造的変化が、今後も継続していくことは想像に難くありません。また、自然災害などの環境リスクだけでなく、人権問題などの社会リスクもますます拡大してきています。こうしたリスクに対応し、ガバナンスを強化することは、企業にとって最重要課題であることは明らかです。
図表3:ESGリスク指標の例
ESGリスクを管理する上での具体的な課題をいくつか挙げたいと思います。
まず1つ目は、サプライチェーン全体の透明性確保とデータ収集管理の難しさです。複数の国にまたがるサプライチェーンでは、取引先を含めたデータ収集のルールを定めることは容易ではありません。仮にデータ収集ができたとしても、データの項目や粒度をそろえて管理することは非常に困難です。また、データは放置すればすぐに陳腐化してしまいます。最新のリスク評価を行うためには、データの鮮度を保つことも重要です。
2つ目は、各国で異なる規制にいかに対応するかです。特にESG分野は新たな法規制の整備が各国で進んでおり、常に情報をアップデートしておく必要があります。このような情報収集の範囲は今後も拡大していくと考えられるため、それに対応するリソース確保と情報収集の手法検討も大きな課題となるでしょう。
しかし、こうしたリスク対応の活動は、事業への直接的なインパクトとして表れづらい部分があるため、どの程度リソースを割き、コストをかけるかの判断は難しいのが現実です。リソースが限られている中では、対応できるリスクの範囲も制限されます。そのため、どのリスクの重要度が高いのか判断する必要がありますが、リスク評価のロジックの難しさも大きな課題の1つです。さまざまなタイプのリスクが存在する中で、全てのリスクをある1つの評価ロジックに当てはめることはできません。リスクの種類に応じた評価ロジックを構築する必要がありますが、それぞれのリスクが顕在化するタイミングや経路、影響範囲などを正しく特定することは非常に難しいと言えます。
では、これらの課題に対して企業はどのような対応を求められるのでしょうか。次の3つの対策が挙げられます。
1つ目は、ESGリスク管理態勢の整備と強化です。自社内外のサプライチェーン全体を通じた態勢を構築し、取引先と連携しながらESGリスクへの具体的な対策に取り組む必要があります。
2つ目は、ESGリスクの特定・評価と管理です。企業を取り巻くESGリスクを明らかにし、適切に評価した上で優先順位を決めて対応することが大切です。そして、これらの対応を一時的ではなく、継続的に改善していくことが求められます。
そして3つ目が、積極的に社会に対して発信し、企業としての姿勢と方針を示すことです。情報を内部に閉じず、自社のウェブサイトや統合報告書などを通じて公開していくことが必要です。また、多様なステークホルダーとの対話を重視し、実施していくことも大切です。
もし、こうした対応を取らなかった場合、企業にはどのような影響が出ると考えられるでしょうか。例えば、各国の規制に違反してしまうことで、罰金や販売停止、輸出入禁止などの制裁を受ける可能性があります。もしくは、取引先から取引停止などのペナルティを受ける場合もあります。さらには、投資家が投資を引き上げ、資金調達が困難になるかもしれません。また、ESGリスクを放置することにより、メディアによる批判的な報道や顧客からの不買運動など、社会的信頼の低下を招くレピュテーションリスクの恐れもあります。
企業がESGリスクに対応するための有効なアプローチを考えてみましょう。さまざまな課題に一度に取り組むことは現実的ではなく、非効率であると言えます。したがって、順を追って着実に進めることが重要です。
最初のステップとして、自社で取り組むべきテーマの優先順位を決めることが必要です。次に、その優先テーマに対して、自社がどうありたいのか、あるべき姿を構想します。あるべき姿と現状の間にどのような差異があるのかを分析し、そのギャップを埋めるための態勢の整備を進めます。その際に整備すべきポイントとしては、「ガバナンス」と「プロセス」、そして「システムインフラ」の3つが挙げられます。この3つを意識して態勢を整備することが大切です。
図表4:サステナビリティリスク管理体制整備の全体アプローチ
また、これらの検討対象は自社内だけにとどまりません。サプライチェーン全体を俯瞰し、取引先など、幅広いステークホルダーを考慮する必要があります。
ESGリスクには、長期的な視点で対応していくことが重要です。投資家だけでなく、さまざまなステークホルダーがサステナビリティなどの非財務情報に対する関心を高めています。
国際的な法規制化も進んでおり、事業活動を実行・拡大し、さらに企業価値を向上させるためにも、法規制に準じてESGリスクに対応することが不可欠です。
しかし、ESGリスクは対象範囲が広く、内容も非常に複雑であるため、企業単独での対応には限界があると言えます。例えば、サプライチェーン全体での現状把握や課題抽出には、大きな困難を伴うことが容易に想像できます。こうした課題を克服するために、外部の専門家やリソースを活用することは非常に有益な選択肢となります。
PwCコンサルティング合同会社では、開示された情報やヒアリングを基に現状分析を行い、サステナビリティの課題別に業界の先進企業との比較を実施、企業の成熟度を評価するESGリスクに関する簡易診断サービスを提供しています。この診断により、自社におけるESGリスクの優先度を迅速に診断した上で、企業のさらなる成長に向けた具体的な改善案を提案していきます。
ESGリスクへの取り組みは欧州を中心に進展しており、日本企業においてもその重要性はますます高まっています。しかしながら、ESGリスク対応の重要性を理解する一方で、理想的な態勢を構築することは非常に難易度の高い課題だと感じている企業も多いのではないでしょうか。まずは、一歩ずつできるところから始めることが大切です。
北崎 陽三
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社