
「アフターコロナ/ウィズコロナ時代のSCMのあり方」第9回 これからの時代における調達
グローバルでのサステナビリティ意識の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクの顕在化は、COVID-19の流行と同等、またはそれ以上のインパクトを企業にもたらしています。今回はサプライチェーン全体の中でも、特に調達領域に焦点を当てます。
2021-08-17
現在、多くの日本の製造業が海外に進出し、サプライチェーンのグローバル化を果たしています。海外に販売拠点を立ち上げて販路を拡大することから始まり、生産拠点も海外へ分散・移管されることで、サプライチェーンの多極化・分散化が進められています。
すでに語られていることですが、広がりを見せたグローバルサプライチェーンに対して、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行は、サプライチェーンの断絶のリスクをあらためて顕在化させました。これにより、サプライチェーンの「レジリエンス(強靭性)」が強く求められるところとなっています。あらゆる危機や状況の変化に柔軟に対応できるサプライチェーンを構築する上で重要となるグローバル業務標準策定のポイントを紹介します。
日系企業のグローバルSCMには、その立ち上げと拡大の経緯から、レジリエンス向上の取り組みを妨げる要素が含まれていると筆者は考えます。「海外に販売拠点を立ち上げる際に現地企業を買収する形で販売会社を立ち上げたが、その後は現地に任せたままの状態になっている」「標準業務やITインフラを本社で整備せず海外拠点のメンバーに任せて拠点の立ち上げを行った結果、現地の事業拡大に合わせた固有の業務やITインフラが出来上がってしまっている」……。こうした事例は枚挙にいとまがありません。本社および海外拠点のスタッフの能力と努力によりグローバルサプライチェーンが維持されているものの、本社からは自社のグローバルサプライチェーンがまったく見えない状態となり、コントロールされているとは言えない状況となっている企業は少なくないのです。事実、本社にいる海外取引担当は、船積みを行い、海外の販売会社に引き渡しをした時点で業務が完了してしまい、製品が海外の販売拠点で売れているのか否かを把握できていない、あるいは、本社のIT部門は現地で構築された業務システムを把握できていない、というのはよく聞かれる話です。グローバルサプライチェーンの統制がとれていないと、複線化やローカル化といったサプライチェーンの見直しを柔軟に行う、グローバルサプライチェーン全体のリスクを鑑みて在庫を積み増すといった、レジリエンス向上のための施策を効果的に実現することは難しいと言えるでしょう。
日系グローバル企業が抱えるこうした課題を解決するための一手として、グローバルでの業務標準化の実現が考えられます。すでにグローバルで取り組んだ企業においても、今回のCOVID-19で引き起こされた環境の変化に基づき、現状をあらためて見直す必要もあるでしょう。グローバルでの業務標準化とは、単に業務のやり方を統一するだけではありません。図1の6つの要素(1. 戦略、2. 組織、3. 制度・ルール、4. コード、5. 業務プロセス、6. システム)に対してグローバル標準を定め、各拠点に展開することで業務全体の標準化を実現するというものです。1. 戦略を起点にそれぞれの要素を連携させながら標準を定めていくことが肝要です。
以下に、業務標準化を進める上での要素ごとのポイントを紹介します。
グローバルサプライチェーンのレジリエンス向上のための戦略は、つまるところ、変革テーマあるいは改革施策とも言い換えることができます。レジリエンス向上を目指した複線化やローカル化をどのように組み合わせてグローバルサプライチェーンを構築するのか。まずは企業の目指すべき姿を定めるところから始まります。
定められた戦略に基づいて再定義される本社および各拠点における組織の役割と責任分担を指します。特に国内・海外、販売会社・製造会社と、役割や責任が分かれたり互いに認識を共有できていなかったりする場合は、顧客から見てそれぞれがどのような付加価値を生む役割を担い、かつ責任を持つのか、End to Endのサプライチェーンの視点で役割を見直す必要があります。
グローバルで変革や改革施策を実現するためには、グローバルKPIおよび業務ルールが必要です。各拠点で同様の物差しを使用できるようにKPIを定め、また数値を同じように取得することができるよう、業務ルールを定める必要があります。例えば納期遵守率をグローバルKPIとして定めた場合、得意先の希望納期に対する遵守率か、回答納期に対する遵守率かを明確に定義し、グローバルで統一する必要があります。
業務および事業を横断して管理するためのコードの定義およびグローバルで統制するためのルールや運用体制のことです。グローバルSCMを実現する上では、グループ会社間や部門間でシームレスに業務データをやり取りすることも重要です。そのため、各グループ会社の各業務で発生したデータを一貫して管理するコードの統一が必要であり、その定義や利用方法をグローバルで統制する必要も出てきます。
上述の組織、制度・ルール、コードに基づき、グローバル標準として参照される業務プロセスを指します。業務プロセスを分類する単位や各プロセスの定義を決め、各拠点で参照できるグローバル標準業務として定めることが必要です。
上述の制度・ルール、コード、業務プロセスを実現するためのシステムを指します。グローバルでの業務標準化を実現するために、標準業務プロセスの実施を支援または統制することのできるシステムが必要となります。
上記の6つの要素がグローバルで標準化されることで、リアルタイムかつ一元的な情報を管理や、サプライヤーや生産工場・物流拠点の複線化(図表2)による有事の際の他拠点への素早い切り替えが可能となり、レジリエンスの向上にもつながります。また、グローバル業務標準を定めた上でローカル化を推進することで、地域ごとの定量的な比較・改善の推進も期待できます。個別最適ではない、オペレーショナルエクセレンスを備えたローカル化の実現は、サプライチェーンの寸断が世界各地で同時発生し、かつ平時と緊急時の状態が繰り返される昨今の状況下、企業がグローバルでの競争を勝ち抜くための重要な要素となるのではないでしょうか。
ここまでグローバルでの業務標準化の実現に向けて必要となる要素を紹介しましたが、上述の6つの要素の定義や各拠点への展開は一朝一夕にはいきません。開始から5年~10年を要する長期的な取り組みとして認識しておく必要があります。ステークホルダーからは、より短期で実現することを求められる可能性があるほか、業務標準化の取り組みは見方を変えると海外拠点の自由や権限を奪う取り組みとも見られがちです。それゆえ、海外拠点から大きな抵抗を受けたり、当初は見えていなかった海外拠点の実態が見えることで国内と海外の大きな違いに気づき、業務標準化を実現する自信を失ったりして、プロジェクトのさらなる長期化や頓挫も十分に起こり得ます。困難な状況を突破し、速やかにグローバルでの業務標準化を実現するためには、経営陣の強いコミットと支援が必要不可欠と言えるでしょう。
森 宣幸
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
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