
「アフターコロナ/ウィズコロナ時代のSCMのあり方」第9回 これからの時代における調達
グローバルでのサステナビリティ意識の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクの顕在化は、COVID-19の流行と同等、またはそれ以上のインパクトを企業にもたらしています。今回はサプライチェーン全体の中でも、特に調達領域に焦点を当てます。
2021-09-28
かねてより、家電・産業機械・工作機械・医療機器・事務機などを取り扱う業界では、「アフター領域」の強化の必要性が唱えられてきました。本体売上が業績に占める割合は大きいものの利幅が少ないこれらの業界においては、コモディティ化や競合企業との競争激化により難易度が増し、利益という観点では厳しい状況が増していくと想定されます。そのような中、「アフターサービス」「アフターパーツ」「アフターセールス」とさまざまな言い方がされるアフターの領域で、すでに本体よりも大きい利幅をさらに大きくしようという動きが多く見られています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、アフター領域の重要性はさらに増しつつあります。全ての業界で同じ状況というわけではありませんが、その要因として大きく3点が挙げられます。1つは、クライアントによる機器の稼働率の低下・変動による摩耗・劣化の減少です。2つ目は、業績の悪化による継続利用の圧力です。3つ目は外部・SCM全体との連携がより強化される中での取引先変更に対するリスクの増加です。機器の買い替え需要の低下やサプライチェーン全体でのリスク管理が、アフターの領域の必要性を高める後押しとなっているのです。
設計・開発と並び、「スマイルカーブ」(図表1)の両端を担う収益性の高い領域として認識されてきたアフターの領域。「聖域」とされやすい設計・開発領域よりも着手しやすいと考えられる同領域のさらなる高収益化の方向性を考えます。
アフターの領域は、「内部組織の壁」(事業部の外に設置されている、製品を販売する地域の特性を十分に考慮していない人員配置である、など)により改革が進みにくいと認識されがちです。しかしながら、前述の流れで重要性への認識が変わり、こうした壁を越える必要性が増してきています。
では具体的にどのような着眼点でアフター改革を目指すべきでしょうか。まず、「モノ売りからコト売りへ」「高収益体制」「顧客重視」といった外部からの期待や経営の方針に沿った構造改革のニーズを紐づけることが肝要です。また、単にビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)の一環でのコスト削減や効率化を目指すのに留まらず、売上や利益を伸ばす方向での検討が望ましいと筆者は考えます。
IT技術の進展や、他業務領域の改革との連動や波及効果により、以前よりも多くの改革効果を望むことが可能になっています。アフター領域の改革においても、単に情報(データ)を取得して分析し、業務に活用するだけではなく、問題が起こる前の予防・予知、または属人化された業務の見える化による形式知化やマニュアル化などにつなげることで、社会課題の1つにもなっている世代交代やリモートワークの常態化対応など、経営課題の解決にも結び付けることが可能になると考えられます。データの取得はさまざまな業界で進んでいますが、その利活用はまだまだこれからと言える状況です。1次情報と2次情報を足し合わせ、現場の課題を経営観点や財務観点で解決することが、情報の利活用につながる大きなヒントと言えるでしょう。
昨今、アフター領域の改革に関する相談や依頼の増加を、筆者は身をもって実感しています。「自社で取り組んでみたものの上手く進まない」という声が少なくなく、その理由を掘り下げてみると、「関係部署間で行いたい改革の内容が異なったり、あれもこれも進めようとするが結果的に話が大きくなり過ぎたりしてまとまらない」という状況に行き着きます。
こういった状況の解決には、検討の土台・道しるべとなるフレームワークや打ち手の例を示すことや、問題や課題を打つべき施策に読み替えて整理する能力が問われます。古くからありがちな課題である組織の壁や属人化といった状況を分解し、分析し、理解し、そこに潜む課題を見抜いて施策に変えることを可能にするためには、施策の実現に必要なリソース(ヒト・モノ・カネ)を考えながら改革のロードマップを引くことが重要であり、時に第3者の活用も有効であると考えます。参考までに、私たちが提供するアフター領域改革のためのフレームワークを図表3に示します。
このコラムの読者の中には、アフター領域に関して過去に改革を試みたが頓挫した経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。昨今の情勢に鑑みると、アフター領域は「サービス後のフォロー」に留まらず、「次のサービスの始まり」へと変わりつつあります。サブスクリプションモデルのサービスが益々増え、選ばれるサービスになるためのハードルが高まっている時代です。同時に、LTV(Life Time Value)の重要性が謳われ、一顧客といかに長く良好な関係を構築できるかが問われる今日でもあり、それゆえにこの領域での差別化が効く時代でもあります。昨今注目度が増しているサステナビリティ観点では、アフター領域での顧客接点を強化することにより、販売済み商品の回収率を高めると言った効果も得ることができると考えられます。
各社のアフター領域への注力はCOVID-19がもたらしたサプライチェーン上の大きな変化の1つです。改革のターゲットとすることでアフター領域を貴社の強みとするべく、ぜひチャレンジしていただきたく思います。
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