
「アフターコロナ/ウィズコロナ時代のSCMのあり方」第9回 これからの時代における調達
グローバルでのサステナビリティ意識の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクの顕在化は、COVID-19の流行と同等、またはそれ以上のインパクトを企業にもたらしています。今回はサプライチェーン全体の中でも、特に調達領域に焦点を当てます。
2022-10-26
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行が始まってから2年半が経ちました。COVID-19の流行の常態化はこれまで語られてきたとおり、企業のサプライチェーン戦略に大きな影響を及ぼし、各社ともに対応に迫られています。加えて、この数年の間にはCOVID-19の流行のみならず、さまざまなグローバル動向に変化が生じており、企業はそれらの動向も注視する必要があります。
特にグローバルでのサステナビリティ意識の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクの顕在化は、COVID-19の流行と同等、またはそれ以上のインパクトを企業にもたらしています。これまでの連載ではサプライチェーンの各領域における影響について述べてきましたが、今回はサプライチェーン全体の中でも、特に調達領域に焦点を当てます。
一般的にサプライチェーンにおける調達と言えば直接材の調達を指しますが、企業活動においては間接材の調達も重要です。かつては企業において直接材調達についての専門組織がある一方で、間接材調達についてはあまり注目されず、要求部門がバラバラで実施している、もしくは一部の品目についてのみ総務部門やシステム部門で集約しているといった組織形態がほとんどでした。近年では、直接材調達についての業務効率化やコストダウンをやり尽くした企業が間接材調達に着目し、調達の集約化や専門組織の立ち上げ、システム化といった取り組みがなされています。結果として、調達領域においては直接材調達と間接材調達は別々の機能として、最適化が図られてきた企業が多いと言えます。
しかしながら、近年のグローバル動向の変化に対応するためには、企業は調達機能をもう一段階進化させることが求められています。サステナビリティ意識の高まりと地政学リスクの顕在化は一見すると関連性がないように見えますが、調達という視点から見ると、直接材調達と間接材調達で横断的に対応することが求められているテーマだと言えます。
横断すべきテーマを明らかにし、調達機能を進化させるためには、企業は「調達リスク評価」「取り組み状況の可視化および仕組みの確立」「リスクとESG観点を踏まえた実行」の3つのステップを踏むべきだと考えます。
既に多くの企業では、直接材領域において事業活動に影響力の大きい調達品目が特定され、地政学リスクも踏まえた対応策が検討されていると考えられます。一方で、間接材の中でも製造に近い品目(副資材、燃料、補修用品など)については、直接材ほどのクリティカルさは無いものの、リスクが顕在化した場合の影響は大きいため、バリューチェーンシナリオプランニングの中には間接材調達の観点も入れて検討することが望ましいと言えます。その上で改めて、調達品目に応じた現状のリスク評価を実施することが必要です。
調達品目に応じたリスク評価をした後は、リスクに対して現状どの程度の対応ができるのかを確認すべきです。また、取り組み状況を可視化するとともに、それを評価する仕組みを確立することも肝要です。例えばサプライヤに対するQCDのみならずESG観点も含めた評価実施や、Tier1サプライヤのみならず、さらにその先々にいるサプライヤについての情報を把握するなど、調達リスクに応じて可視化の範囲を定めることが必要です。
対応状況がある程度可視化され、評価の仕組みを確立した後は、施策を実行する段階となります。ここでは洗い出されたリスクの大きさとその状況に応じて、優先順位を付けて対応することが求められます。例えば、供給リスクの高い調達品目に対しては、調達経路の複線化や代替サプライヤの確保、あるいはサプライヤとの戦略的アライアンス関係構築も見据えたプリファード化といった施策が考えられます。また、企業全体として再生可能エネルギー比率を高めるといった目標を掲げている場合は、再生可能エネルギー比率を向上させることが最優先課題となるかもしれません。
調達領域においては、前述したように直接材調達と間接材調達の間の横断的な取り組みが求められる時代になりつつあります。先進的な企業では既にこういった取り組みに着手していますが、それでもまだ最適解を模索している段階だと言えます。特に、サステナビリティ調達の観点ではグローバルにさまざまなポリシーやフレームワークが提示される中で、「どのレベルまで取り組む必要があるのか」といった疑問に対する明確な答えはまだありません。ただ、答えがないから何もやらないということではありません。各社各様の企業課題に基づき、間接材調達と直接材調達で横断的に取り組むべき部分とそうでない部分を明確化していくことが、これからの時代の調達に進化していくための第一歩だと言えるでしょう。
グローバルでのサステナビリティ意識の高まりと、ロシアのウクライナ侵攻といった地政学リスクの顕在化は、COVID-19の流行と同等、またはそれ以上のインパクトを企業にもたらしています。今回はサプライチェーン全体の中でも、特に調達領域に焦点を当てます。
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