物流の進化を導く荷主と物流統括管理者が創る新たな連携モデル

  • 2025-03-13

はじめに

物流業界は今、これまでにない大きな転換期を迎えています。2024年問題に象徴される働き方改革対応によりトラックドライバーの稼働時間が制限され、これまで運べていた距離が確保できない事態が起きています。また省エネ法等で定められた貨物輸送量に伴う二酸化炭素排出量の厳密な情報管理、稼働時間制限・人手不足、少し視野を広げると地政学リスクや関税問題など、さまざまな問題を並行して考えていかなければならない状態であり、荷主・物流事業者ともに厳しい局面にさらされています。今後さまざまな事柄が継続的に発生し、厳密な情報管理の必要性がより強く求められるにつれ、これらの潮流に適応できるか否かで、企業の競争力を左右する時代が到来しています。

こうしたさまざまな変化において、物流はもはや「コストセンター」ではなく、企業価値を創造する「戦略的資産」として捉えていく必要があります。特に、2026年より特定事業者において選定が求められる物流統括管理者は、従来の物流の役割を超え、持続可能な物流モデルの構築を実現する存在になる必要があります。言い換えれば、物流が企業の中心的役割になる世の中に近づいてきたと考えることができます。

本稿では、「荷主と物流統括管理者が創る新たな連携モデル」という視点から、物流の進化をリードするために必要な物流統括管理者の役割や具体的な実践内容について考察します。また荷主企業・物流事業者両者が連携することで実現できる、目指すべき未来の物流モデルとはどういうものかを解説します。直面する課題の解決と物流の未来像を描く一助となれば幸いです。

1. 荷主・物流事業者に対する規制的措置の概要

物流の持続可能性や効率化を目指す中で、国は荷主企業と物流事業者に対し、さまざまな規制的措置を導入し始めています(図表1)。注目度が高まった事項としては2024年問題(働き方改革関連法の適用拡大)が挙げられるのではないでしょうか。この状況に対して荷主企業は、運送会社への各取引条件の見直しや、効率的な物流スケジュールの構築を主導することにより、ドライバーの労働時間を確保し、運べる距離や回数を増やす努力義務が課せられました。特に2024年11月27日に新物効法(物流総合効率化法)の施行に向けた国土交通省・経済産業省・農林水産省3省の審議会の合同会議にて、全ての荷主(発荷主、着荷主)、連鎖化事業者(フランチャイズチェーンの本部)、物流事業者(トラック、鉄道、港湾運送、 航空運送、倉庫)に対し、トラックドライバーの負担軽減を主とした国が定める基本方針、判断基準、特定事業者の指定基準等の具体的な内容が公表されたことは、今後の物流改革の加速を推進する材料であると考えられます。

具体的に取り組むべき主な内容として、①荷待ち時間の削減、②荷役時間の削減、③積載効率の向上が挙げられており、今後2026年度から指定される特定事業者については、物流統括管理者の専任義務が課せられ、取り組むべき措置を含めた中長期計画の作成や定期報告を実施する必要があります(新物効法第42、43条記載)。

図表1:荷主企業に求められる取り組み

2. 物流統括管理者に必要な役割

物流統括管理者は、単なる物流現場のオペレーション管理ではなく企業ビジネス全体を見据えて物流変革推進を担い、各部門と協力体制を築き実行する「意思決定を持ち合わせた役割」と考えなくてはいけません。国も選定に対して「役員等」と表現しており、役員会議などで物流議題を経営層レベルで認知し、議論・決定していくことが必要というメッセージを与えています。

以降の物流統括管理者に必要な役割イメージの前に、CLO(Chief Logistics Officer:最高ロジスティクス責任者)との違いについて述べたいと思います。物流統括管理者とCLOは同じ意味合いで使用されることが多くどちらも経営層レベルが関与する点は同じですが「物流を安定的・効率的にする役割」が物流統括管理者、「製品を安定的に供給する役割」がCLOと考えられ(図表2)、特に重要なポイントとして在庫コントロールを実施する役割なのか否か、に違いが生じてきます。ここでは、「物流を安定的・効率的にする役割」の物流統括管理者について考えていきます。

図表2:物流統括管理者とCLOのポジションイメージ

まずは物流統括管理者の役割をイメージしやすいように、すでに多くの企業が役職を設けているCFO(最高財務責任者)を例にして、理解を深めていきます。図表3に示すのが、CFOの役割イメージをビジネス/アカウンティング、またプロアクティブ/リアクティブの軸で表現したものです。

図表3:求められるCFOの役割イメージ

(1)経営層として各部門のビジネスアドバイザーとなることに加え、(2)関係するステークホルダーに対してデータに基づいた正確な解釈と洞察の解説者する役割を担います。また(1)(2)(3)の根拠となる正確かつ迅速な情報記録者として、(4)グループ全体の信頼性担保・リスク管理の責務が求められている役割イメージと想定されます。

一方、アカウンティングをトランスポーテーション/ディストリビューションに変え同じ軸で物流統括管理者の役割イメージを表現していくと、図表4のようになります。

企業の物流をビジネスとして捉え各部門へアドバイスする(1)の役割をはじめ、ステークホルダーとの対話、デジタルを活用した意思決定、アドバイスの根拠を構築し、経営レベルでグループ全体の物流に関する職務に責任を負う役割、と考えることができます。

図表4:求められる物流統括管理者の役割イメージ

CFO同様、物流統括管理者も経営層の中でも中心的役割として企業全体、またCEOをサポートし企業の屋台骨である物流を支えていくポジションになると考えます。

3. 物流統括管理者が理解しておくべきこと

3-1. 国が要請している努力義務事項の推進と現状把握の重要性について

物流統括管理者がやるべき最も重要なことは、将来の物流に安心感をもたらすことです。そのためには、まず国が努力義務と課している、

①荷待ち時間の短縮
②荷役時間の短縮
③積載効率の向上

を中心に物流改革を進め、これまでトラックドライバーが費やしていたさまざまな作業時間を運送時間に集中させていく必要があり、実現していくためにまずはしっかりとした現状把握が必要と考えます。ただ現状把握方法を悩まれている関係者は多いのではないでしょうか。

①~③は物流事業者(例:トラック)が1日の運行終了時に作成・保管しておかなければいけない運転日報に記載する情報であることはご存じのとおりかと思いますが、情報精度がどこまで高いのか、を見直す必要があると考えています。

例えば、運転日報はデジタルタコグラフ(デジタコ)を活用して作成しているケースが一般的です。現在荷役(荷卸・荷積等)中か否かは、利用しているデジタコ製品種類にもよりますが、トラックドライバー自らがデジタコ上の作業ステータスボタンを選択・押下しており、操作ルールの曖昧さ、押し間違いなどで正確な荷役時間を運転日報から取得することが難しい可能性が考えられます。また、紙や表計算ソフトなどで運転日報を作成している場合は、ドライバーの記憶に頼らなければいけないこともあります。荷主側が該当情報を管理するケースもありますが、荷役・荷待ちは倉庫関連が中心です。倉庫関連業務は3PL(サードパーティー・ロジスティクス)などに依頼しているケースも多く、荷主が直接管理するケースは少ないと想定されます。

各情報把握のため、例えばバース予約管理システム導入を推進しているケースもありますが、業界によって便数が少ないケースなどもあり、バース予約システムを導入すれば解決する問題とは限りません。

3-2. 国が要請している努力義務事項の推進で考えるべきポイント

  • ドライバー業務の現状把握(荷待ち時間、荷役時間)
    トラックが各営業所を出庫し、最後に営業所に入庫するルート、荷卸・荷積、途中休憩時間等を含めた、現状の全体を把握することから開始し、ポイントごとにルールメイクを検討していく必要があると考えます。ドライバーの運転時間の確保が必要事項であるため、まずはドライバーの現状を把握し、そこから無駄な作業を削減、また必要なルールメイクを検討していく形こそが、国が努力義務としている内容を満たす一番の近道だと考えます。
  • 積載率の向上について
    以前は積載率表記だった内容が、2024年11月27日の合同会議取りまとめより積載効率に表現変更されました。積載効率は積載率×乗車率で計算する形であり、積載率は載せる荷物の重量や容積に関連する内容であるため、荷主側主体での管理が必要と考えます。荷物の形状により重量、もしくは容積どちらで積載率を計算するのか、検討が必要ですが、まずは道路交通法違反にならないため、重量優先で考えていくことは言うまでもありません。
    しかしながら、この点についても重量や容積を正確に管理している企業は実は少ないのではないでしょうか。積載率の向上も、まずは重量・容積をどのように管理しているのか、現状の把握が必要と考えられます。(図表5)
図表5:荷主企業に求められる取り組み
  • テクノロジーの利用について
    物流業界はテクノロジー進化が激しい業界の1つでもあります。実はトラックは以前からLTE通信による緯度経度の把握をはじめ、乗用車よりも早くテクノロジー進化を実現している乗り物です。またトラックのみならず、物流に関連するアプリケーションなど、日々、課題解決の手段は増えています。ただし、速いテクノロジー進化とは反対に、契約や業務、社風など昔からの慣習や問題は多く残っています。解決すべき問題・課題への対処を一番に着手していかないと、テクノロジーを利用しても実は何も変わっていないなど、その場しのぎの対応になり、企業や物流業界全体が良い方向になっていかない懸念があります。根底にある問題・課題は何か。そのためにはまず現状把握という遠回りと思われることから、物流統括管理者を中心に推進していただきたいと考えます。

3-3. 物流統括管理者が考えるべきサプライチェーンマネージメントについて

サプライチェーンマネジメント(SCM)は、需要と供給のバランスの最適化を図り在庫を不足させないこと、といえます。そこには、コスト削減と収益向上という視点も必要であるため、物流の場合、物流効率化を通じて、コスト構造を最適化し、利益率向上に寄与すること、と表現することができます。

冒頭述べたように在庫の適正化管理はCLOの役割であり、物流統括管理者が実施できることではありません。顧客要求に対する物流を実現し、無駄なルートの排除や荷物の載せ方の改善による物流効率化を実現し、物流コストを削減する方策を考えていくことが物流統括管理者に求められるサプライチェーンマネージメントとなります。

物流コスト削減を実現するにあたり倉庫関連の荷役や保管料はもちろんですが、物流費の大きな割合を占めるのは運送費と考えられるため、効率的な運送を目指すにあたっての無駄なルート排除や荷物の載せ方の改善による積載効率の向上は重要です。国が努力義務と課している内容とも関係が多く、物流統括管理者を中心として、荷主、物流事業者全体でサプライチェーン全体を俯瞰した改善・改革を進めていく必要があります。この点においても、まずは現状を把握し、仮説をたて、さまざまなテクノロジーを利用してくことで物流効率化によるコスト削減が可能になると想定されます。

コスト削減に伴う収益向上分を、ガソリン・電気料金、人件費など、増加していく物流事業者の負担を補う金額として利用することができれば、業界全体が上手く循環し、持続可能なモデルになっていくと考えられます。

3-4. 物流統括管理者が知っておくべき、物流事業者が荷主に本来求めていること

改めて国が要請している各種努力義務の大きな3項目(①荷待ち時間の短縮、②荷役時間の短縮、③積載効率の向上)は、2024年問題に対応したトラックドライバーの稼働時間確保のため、です。しかし、物流事業者側として本来求めていきたいことは、荷主から提供される荷物量情報を事前に明確に教えてほしい、また配車依頼注文をなるべく早く出してほしい、ということではないでしょうか(図表6)。例えば11トンのウイング車等、車格・車種の台数のみ確保依頼され、当日倉庫に行くまで載せる荷物が分かっていないケースや、直前でトラックが追加されるケースなどもあると想定されます。

業界によって需要予測の仕方は異なり、予測が100%合うことはないと考えておくべきですが、物流事業者側としては、正確な情報や注文依頼が早ければ早いほど自社便ドライバーの調整や委託先への依頼に時間的余裕ができます。将来を見越した人員配置や配車計画、休暇計画等の検討も可能になります。物流統括管理者は国が要請している各種努力義務はもちろんのこと、本来物流事業者が必要としている身近な事項についても理解しておき、改善・改革につなげていくべきだと考えます。

図表6:物流事業者の業務改善例。業務内容から、物流事業者が荷主に求めていること

3-5.物流統括管理者が知っておくべき、荷主が物流効率化に伴い本来やるべきこと

荷主側は、需要予測精度が向上することにより、例えば特車便が減少する、モーダルシフトに変更する、車建から個建請求に変える、将来のフィジカルインターネット化も見据えた準備をしていく等、コストを削減する策も可能となります。従って、在庫適正化を含む在庫配置の見直し活動、予測精度向上施策などを、国が要請している努力義務と並行して推進していく必要があります。これらは物流統括管理者の役割エリアではなく、CLOが中心となって、各部門、各担当者が連携して推進していくことが求められます。

4. 荷主、物流事業者の業務・システム連携で考えるべきポイント

これまで述べてきた内容に対して、以下に荷主企業の役割、物流事業者の役割概要を記載し、実現するためのシステムでの連携ポイントを示します。

【荷主企業の役割】

  • 運送会社への早めの配車依頼注文、正確な積載荷物情報(ケース・パレット数、重要・容積等)の提示
  • 需要予測精度の向上、在庫最適化等

【貨物事業者の役割】

  • 運ぶプロフェッショナルとしての品質担保
  • トラック積載効率向上につながる載せ方・運び方
  • 効率的な運送ルート情報の提供等

各役割に対して今後さまざまな形で倉庫管理システム(WMS)や輸配送管理システム(TMS)に代表される物流パッケージ等の利用が増える見込みです。また最近ではデジタコを有効的に利用するケース(デジタコ等は各社製品と異なるものの、ファイル出力可能なアプリが多く、例えばファイルを指定フォルダやクラウドに簡単に上げるIoT連携等は容易)も増えているため、ますますシステム推進が進んでいくとみられます。図表7に示すように多くの検討ポイントがある中で、案外載せる荷物と運ぶトラックがデータ連携していない、もしくはするのが難しいと感じられる方は多くいるのではないでしょうか。

前提として何のために荷物とトラックを連携するのかは明確にしておくべきですが、最終的には、どこの倉庫で何の荷物を積んだトラックが今どこを走っているのか、を管理したいという企業は多いのではないでしょうか。

これらの実現に向け、WMS-TMSシステムを連携する、動態監視のアプリを利用する等、手段は多数考えられます。ただ、実態として連携ケースはコード体系、データ連携の仕方、システムの持ち主など、さまざまな問題・課題から実現できないケースが多いのではないかと推察します。改めて全体像を理解し、業務・システム両面で問題・課題を解決、検討していく必要があります。一つの具体策として、図表8にデジタコデータの連携イメージを示します。

図表7:荷主・物流事業者(運送)の全体概要イメージ(検討ポイント)
図表8:デジタコデータ連携イメージ

まとめ

今後2026年には特定事業者が選定され、中長期計画の作成や定期報告義務付けが始まります。これまで以上に荷主と物流事業者の連携やコミュニケーション、調整が重要性を増し、相互の情報提供も必要となります。またより広い視点として、今後の人口動態変化に伴う流れの中で、物流会社の組織構造の変革、社員に求められるスキル変化が進み、物流に対するコア・ノンコアの考え方も変わって、M&Aなど大胆な改革を実施する企業も増えてくると考えられます。

物流の進化を導くためには、今後特定事業者において選任される物流統括管理者が果たすべき役割は極めて重要です。国が本格的に物流領域に注力している中で、規制への適応だけでなく、革新的な物流モデルを創造することが期待されています。実現するためには、デジタル技術の活用やサプライチェーン全体の最適化が鍵となります。また忘れてはいけなのがテクノロジーは手段であるということです。そもそもの現状把握による問題/課題の深掘り、ルールメイク等をしっかりと充実させることで、テクノロジーがより活きてくるかたちにしていかなければなりません。

最後に、私たちはこのような取り組みを全面的に支援し、持続可能で効率的な物流の実現に向けて日々各クライアントと、物流の未来をともに築いていきたいと考えています。

執筆者

堀尾 宜史

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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