「調達ROI」:調達のパフォーマンスを最適化するための共通言語

  • 2023-11-27

企業の調達部門は、社内と社外の繋ぎ目となる窓口として重要な機能を担っています。そして、事業遂行のためのQCD(品質、コスト、納期)だけでなく、事業継続性や法令順守に関わる期待も高まってきています。

他方、経営者や社内の他部門の中には、いまだに調達部門を依然としてバックオフィスの1つとして捉える者もおり、そのようなケースでは残念ながら積極的な投資の対象になっていません。調達部門への高まる期待に応えるためには、その優先順位を高めるなど、いくつかの課題を乗り越える必要があります。

本稿では、調達部門が直面する3つの課題を検討した上で、調達を取り巻くステークホルダー間の共通言語として「調達ROI」を活用することを提言します。

調達部門が直面する3つの課題とは

各社の調達部門は、それぞれ固有なものも含めてさまざまな課題を抱えていますが、調達担当の役員の方々との議論を踏まえると、共通の課題として以下の3つが挙げられます。

① 調達部門の貢献度を経営層が十分に認知していない
調達部門はどのような貢献をしているのか、その貢献度は十分なのか、改善可能なのか――。これらについて経営層には十分な理解がなく、また調達部門からも経営層に対して自らの貢献、パフォーマンスに関わる情報提供ができていません。このような場合、調達部門は経営層の注意を引くことができず、投資対象の優先順位も低位に留まってしまいます。

② 調達部門内のカテゴリー間・拠点間がサイロ化され、全体最適が阻害されている
調達部門としての貢献をアピールできていない背景には、カテゴリーの担当者任せになっていたり、拠点ごとに意思決定が分散していたりするなど組織的な障害があり、調達活動の量や内容、効果に関して全体像が捉え難いというケースがあります。このような場合には、組織内でベストプラクティスを共有したり、活動内容に応じてリソースを配分したりすることができず、全体の最適化が遅れてしまいます。

③ 調達人材の獲得・動機づけが困難である
調達部門としての貢献をアピールできないと、人材配置の面でも優先順位が下がってしまいます。その結果、所属する要員の士気が低下するなどの影響を及ぼし、一枚岩となって戦うことが困難になります。

必要となるもの:調達のパフォーマンスを測る共通言語

これらの課題を踏まえると、調達部門を取り巻くステークホルダーの誰もが理解できるような、調達のパフォーマンスを測る共通言語が必要と考えます。PwCが提唱する「調達ROI」の枠組みを図―1に示します。

図―1 「調達ROI」の枠組みとは
調達の貢献にはさまざまなものがありますが、分かりやすいのは収益面に直接貢献する「コスト削減」でしょう。コスト削減に着目した調達ROIにより、調達部門が収益に寄与する部門であることを明確に示すとともに、調達ROIを8つのレバー(構成要素)に因数分解することにより、調達ROIを高めるための具体的な打ち手につながります。

共通言語としての調達ROIの活用による効果

この枠組みを活用することで、前述の3つの課題を解決することが可能となります。

① 調達部門の貢献度を経営層が十分に認知していない
調達ROIにより、投下したリソース以上にリターンが得られる部門であることが明確になります。同時に、「その効率(ROI)を高める上でのボトルネックは何か」「経営の視点で何を支援すべきか」も見えてきます。例えば、カバー率の向上に課題がある場合には「調達部門への権限の委譲」、見直しのスピードに課題がある場合には「IT投資による業務の効率化」など、具体的な打ち手の方向性も見えてきます。

② 調達部門内のカテゴリー間・拠点間がサイロ化され、全体最適が阻害されている
図―2に「調達ROIのヒートマップ」を示します。調達ROIの分子を拠点別またはカテゴリー別に分解し、レバーごとにバラツキの大小に応じて三色に塗分けたものです。
調達活動のパフォーマンスを拠点またはカテゴリー横断で比較することで、「平均を上回るものはどこか」「改善が必要なものはどこか」が一目瞭然となります。パフォーマンスを比較するだけでなく、なぜそのような結果になっているのかを深掘りすることで、ベストプラクティスや改善点が具体的に見えてきます。結果として、全体最適が実現されます。

図-2 調達ROIのヒートマップ

③ 調達人材の獲得・動機づけが困難である
調達人材が所属するチームのパフォーマンスや各個人が担当する領域のパフォーマンスが見える化されることによって、経営への貢献に自信が持てるとともに、さらなる改善に向けた動機づけにもなるでしょう。

まとめ

調達領域では、さまざまな可視化の取り組みが行われてきました。調達実績の可視化、調達の意思決定プロセスの可視化などです。これらは、QCDの各要素で改善を促す着眼点として有効です。他方、調達部門は自らの経営貢献やその裏付けとなる調達活動のパフォーマンスを見える化する取り組みを劣後してきたのではないでしょうか。

一次サプライヤーの背後にあるサプライチェーン、そしてサプライチェーンに作用する社会的な変化などを踏まえ、最適な供給体制を築くことが調達部門には求められています。このような重責を担っていくためにも、自らのパフォーマンスを見える化し、経営層や他部門の支援を得ることが重要になってきています。そのために「調達ROI」を活用してはいかがでしょうか。

執筆者

野田 武

シニアアドバイザー, PwCコンサルティング合同会社

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SCMオペレーション改革/コラム・対談

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