都心部におけるスマートシティ

2020-03-24

「都市OSを実装したい」こうした言葉を眼前のプロジェクトの中で日常的に聞くようになりました。都市OSとは、都市で創出されるさまざまなデータを一元的に統合管理するプラットフォームです。筆者が10年前にスマートシティに関わり始めた頃を思い返すと、隔世の感があります。当時も都市OSの概念は存在しましたが、どちらかというと「都市伝説」的な存在でもあり、世界的にも実装されているものはほぼないという状態でした。それが今や日本では、大手町・丸の内・有楽町地区のように、エリアマネジメントの仕組みと都市OSのようなデジタル基盤の両面を統合して検討し、スマートシティの実装に向けて取り組むプロジェクトが実際に進行しています。

近年、東京都心部を中心にスマートシティ化が加速している理由について、次のように考えています。東京都心部は、日本を代表する大都市として、激化する世界の都市間競争を生き抜くことを迫られています。社会変化を適切に読み解き、絶えず街をアップデートすることが求められる中、今、最も都市に影響を与えている変化が「デジタル」です。都心部のスマートシティの特徴の一つは「都市データの利活用」であり、時々刻々と変化する都市の挙動を捉えるIoTデータを含めた多様な都市データを高度に利活用することで、エリアのマネジメントモデルが変わり、地区の付加価値を一層向上させる期待が持たれています。IoTが新産業の主戦場の一つとなっていることも背景にあり、都市OS実装などの取り組みが加速している状況につながっています。

しかし、これらのスマートシティ化の推進には課題もあります。その大きな課題の一つがスマートシティ全体の持続可能な事業モデルです。都心部のスマートシティは、主に大企業の不動産デベロッパーを中心としたエリアマネジメント団体に類する主体が推進の中心に立ち、今後もさまざまなスマートシティにかかる投資を遂行することが求められています。スマートシティでは従来の街にはなかった都市OSやデジタルツイン、センサーネットワークなどの新たな投資コストが発生します。それら新たな投資コストを、どのような収入モデルによって、地区として持続可能に賄っていけるのか。この点が社会全体に問われている喫緊の課題となっています。

この課題解決には、まず官民連携(PPP:Public Private Partnership)が欠かせないことは言うまでもありません。スマートシティ化することによって、都市では時間や空間の選択が最適化され、より高次の欲求を満たせるようになると考えられます。目下、先の投資コストに充填するため、このような街の向上した付加価値を経済的価値に変換する具体的な方策が求められています。エリアマネジメントが取り組むスマートシティ化は、その目的からも公益的な要素が強くなります。公益性へのインセンティブの前例として、従来、都心部の不動産開発では公共貢献施設の設置などに対して、当該不動産の容積率緩和などの仕組みがありました。今後は、スマートシティ化という公益的な取り組みに対して、固都税(固定資産税・都市計画税)の減免といったインセンティブを与えることにも議論の余地があります。

また、官民連携による着実な合意形成の上に成り立つスマートシティは、都市データ、特に動的データを組織間で共有することにおいても有効に働くものと考えられます。かつて日本が高度経済成長期に製造業を中心として世界の産業をリードしていたように、この官民連携による地域に根付いたエリアマネジメント型スマートシティモデルの実装は、世界から再び一目を置かれるようになる可能性を秘めています。日本が有する地域づくりの確かなノウハウに、デジタルを融合させたアジャイル型のまちづくりへの進化が期待されます。

※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。

執筆者

石井 亮

ディレクター, PwCアドバイザリー合同会社

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