
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2020-06-30
スマートシティ構築においては、構成要素や活用すべき技術が多岐にわたり、構築の手順もさまざまで、何にどう着手すべきかが分からないという課題があります。日本だけではなく、世界のスマートシティ関係者が抱えるこの課題を解決するため、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)、国際電気通信連合(ITU)など、多様な標準化機関が規格を作成していますが、10,000件とも言われるスマートシティ関連規格の乱立により、どれを参照すればよいか分からないという問題も発生しています。一方、欧州には、すでにこうした状況を克服してスマートシティの社会実装を促進するサイクルが存在しています。日本にも同様の状態を構築できるか、今が重要な局面だと考えます。
2017年から2019年に欧州を中心に実施されたスマートシティの社会実装プロジェクト「SynchroniCity[English]」では、図1のように標準化と社会実装のサイクルが機能しています。
まず、さまざまな標準化機関が公開した技術やアーキテクチャに関する規格群を整理し、分野間・都市間のデータ連携を実現するためのリファレンスアーキテクチャと共通データモデルを設定します(「最適な規格の選定」)。
次に、欧州8都市を中心に最終的には20都市で、リファレンスアーキテクチャと共通データモデルが社会実装・運用され(「社会実装」)、段階的な評価を受けて改善点を洗い出します(「技術・標準の改善」)。
さらに、社会実装を通じて得た知見は、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)やETSI(欧州電気通信標準化機構)などの標準化機関での規格策定に活用され(「標準化」)、策定された規格は次の社会実装で活用されます。例えば、SynchroniCityプロジェクト中に策定されたコンテキスト情報管理APIの規格「NGSI-LD」は、次期の欧州における社会実装プロジェクトで活用される予定です。
また、SynchroniCityプロジェクトをリードしたグローバルなスマートシティ推進組織OASC(Open & Agile Smart Cities)は、個人データ管理やAIに関する最低要件(MIMs、Minimal Interoperability Mechanisms)を新規提案しており、今後、社会実装の対象となる可能性もあります。
日本では、2020年3月に「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術のアーキテクチャ構築ならびに実証研究事業」の成果として、内閣府から「リファレンスアーキテクチャ ホワイトペーパー」と「リファレンスアーキテクチャの使い方」が公開されました。詳細設計は継続して行う必要がありますが、日本も「最適な規格の選定」から「社会実装」に移ろうとしています。
日本が今後スマートシティに関して世界をリードし、関連インフラやサービスを輸出するためには、上記のサイクルを回しながら他国に先んじて社会実装を行い、得られた知見・経験から国際標準化を推進できる体制の整備が求められます。
※詳しくは「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」レポートをご覧ください。
杉原 潤一
シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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