
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
2022-03-01
スマートシティの取り組みを活性化させるには、「継続的に住民満足度を高める仕組み」が必要という考え方が拡がっています。住民からの困りごとや課題意識を利用者、住民の視点から収集して満足度を高めることの重要性は本連載の「住民満足度を高めるスマートシティプラットフォーム 」の回で既に取り上げていますが、今回はスマートシティで提供するサービスを開発する「サービス提供者」の視点から、どのような仕組みが必要かを考えてみます。
そのヒントとなるのが、内閣府が提示している都市OSリファレンスアーキテクチャーです。「都市OSが実装したAPIやデータモデルは、開発ポータルなどを用い、オープンデータとして外部に公開し、都市OS利用者にとって使いやす環境を整備する」ことを推奨していますが、浜松市は図1のとおり、これに従ってスマートシティの構築に取り組んでいることがうかがえます。
出典:浜松市デジタル・スマートシティ構想【解説版】(https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/111253/digital_kaisetsu.pdf)最終閲覧日:2022年2月21日
浜松市の「デジタル・スマートシティ構想」では、「アジャイル型まちづくり」を必要な視点の1つに掲げ、ニーズにあったサービスを素早く提供することで変化への対応力を高めようとしています。加えて、同構想の基本原則では、「多様な主体が参加することによるイノベーションの創出」や「運用面、財政面において持続可能であることが重要であることを十分に認識すること」がうたわれています。
つまり「多様なサービス提供者が、運用面、財政面で負荷が少ない形で参加できる」仕組みを提供することも、スマートシティプラットフォームに求められる要件と考えられます。
この要件を充足する上で、サービス提供者が開発を行う際、必要な機能やデータを共有する「オープンな開発であること」は、浜松市だけでなく加古川市(兵庫県)や長崎県などでも取り組まれています。一方、多様なサービス提供者が参加することを意識した場合は、さらに踏み込んで、「誰でも安全、安心にサービス開発できる環境を提供すること」も重要となります。これを実現するための機能として以下のようなものが挙げられます。
上記機能は、どれもソフトウェアサービスとして既に提供されていますが、サービス提供者である1つの企業または団体が全てを用意することは大きな負担となります。また個別のサービス提供者がそれぞれの機能を持つ場合、スマートシティ全体でその実現レベルに差が生じ、結果的に安全、安心が損なわれセキュリティリスクを顕在化させる可能性があります。
そのため、これらの機能をスマートシティプラットフォームに組み込み、サービス提供者に開放することで、安心、安全を実現するために必要な運営面、財政面での負担を軽減することが求められます。
これまでも、スマートシティの安心、安全については、企画、設計段階からリリースまでの各段階でその要素を組み込むこととされているものの、実際にはサービス提供者が参画する際の「入口審査」やサービスリリース段階での「出口審査」、それに関連するルールやプロセス、体制といった人的観点での議論が優先されています。
しかし、スマートシティの取り組みが進展し、多様なサービス提供が進むにつれて、人間の審査のみに依存するのは限界が生じ、結果アジャイルなサービス展開が頭打ちになります。それはスマートシティの取り組みの魅力が住民から見て失われていくことにつながり、「継続的に住民満足度を高める」ことが難しくなります。
スマートシティの取り組みを持続させるには、人的な審査に依存するだけでなく、上記のようなテクノロジーを駆使してサービス開発そのものをアジャイルに行う仕組みをプラットフォームとして提供することが求められています。そうすれば、結果として住民満足度の継続的な向上につながるでしょう。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた取り組みの進捗状況と、今後の展開について考察します。
「2025年の崖」に伴う問題について、ITシステムの観点ではなく、 人口ピラミッドの推移による生産年齢人口の変化に起因する問題の観点から解説します。
未来の都市を想定する際には、フレキシビリティを備えた建築計画を事前に策定しておくことが重要です。スマートシティにおける建築物は持続可能であることが求められており、そのためには新たな技術や設備に迅速に適用できることが不可欠です。