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2022-07-19
スマートシティに関わる方であれば、「スマートシティ・リファレンスアーキテクチャ」(SCRA)という言葉をお聞きになったことがあると思います。これは内閣府が2020年に発行した「スマートシティ・リファレンスアーキテクチャ ホワイトペーパー」(以下、「ホワイトペーパー」)において「スマートシティを実現しようとするものが、スマートシティを実現するために必要な構成要素と構成要素間の関係性、そして、スマートシティ外との関係を確認するために参照するもの」と定義されています。
ではなぜ、リファレンスアーキテクチャを参照して確認しなければならないのでしょうか。その理由は、「アーキテクチャ」という考え方の特徴に表れています。
「アーキテクチャ」という言葉は、建築物や建築様式を指す英語の「Architecture」に由来します。これが工学や科学に派生し、設計思想や構造、様式という意味で使われるようになりました。システムズエンジニアリングの世界では、「システムの構成要素とそれらの関係性の抽象的記述」(de Nufville, R. 2004)、「構成要素の設計や進化を左右するような、構成要素の構造、構成要素間の関係、そして原理や指針」(IEEE STD 610.12, 1990)といったように、明確な定義が確立しています。また、ホワイトペーパーにおいては「(一般論として)特定の目的を実現するための、「『システムとその外界との関係』及び『システムを構成する要素間の関係性』を記述したもの」と定義されています。
スマートシティのアーキテクチャを明確にするということは、スマートシティを構成する要素とその関係性を表すことと同義です。つまり、ステークホルダーがスマートシティとどのように関わればよいか、関係する他のステークホルダーが誰でどのような役割を果たしているのか、新たな施策やステークホルダーに対応させる時に影響する範囲はどこかなど、適切な抽象度で揃えられたスマートシティ全体の理解を均質化することにつながっていきます。
SCRAは、スマートシティを構成する要素とその全体の関係性を、多くの可能性を残しながら定義し、一定の抽象度で表現したものです。スマートシティ化を進める地域は、その要素と関係性を地域の特性に合わせて工夫することによって、その地域に合った詳細な実現方法を検討することができます。このように、大まかにどのような構成要素が必要であるかを明らかにし、その役割と他の構成要素との関係性の整合性を担保しつつ、具体的な施策は地域に合わせて具現化できるということが、「統一感のあるスマートシティ化につながる」という点において重要なのです。
アーキテクチャという考え方に基づくことで、異なる主体者がステークホルダーとともに推進する取り組みに一貫性を持たせることができます。そしてそれと同時に、それぞれの事情に応じてカスタマイズする、または工夫する余地を残した取り組みにできる、という点こそが、リファレンスアーキテクチャの本分なのです。
欧州では、ステークホルダーが集まって協調的にアーキテクチャ設計を先に進める、という流れがここ10年くらいのメジャーな方法論となっており、たとえばGAIA-Xなどがその事例に当たります。
日本では、政府がこれまでにスマートシティを推進するために、ホワイトペーパーの他に、「スマートシティ・リファレンスアーキテクチャ ガイドブック」や「スマートシティ・ガイドブック」を発刊しています。
日本におけるこれまでのスマートシティに係る取り組みは、個々の自治体が抱える課題をデジタルテクノロジーによって解決しようとする試みがほとんどです。一方、スマートシティが本質的に持つ魅力は、共通課題に対する解決策の「横展開」であり、課題が同じであれば、施策や方略を日本全国どこの自治体とでも共有し、実施できる点にあります。
また、スマートシティが前提とするデジタルテクノロジーは、利用者が増えることによって内部の価値を高めることができます(ネットワーク外部性)。つまり、もし公共事業的にスマートシティの整備を進めるのであれば、共通するアセットや都市OSをできるだけ多くの利用者に提供することで、ネットワーク外部性を最大化し、単位コストあたりの価値を高める方略が不可欠となります。
このような視座からSCRAおよび関連するドキュメントの果たすべき役割を改めて考えると、「より多くのステークホルダーが参加できるのに必要十分な内容と構成でスマートシティの意義と価値を示すこと」が求められていると言えます。このような観点から、SCRAおよび関連するドキュメントは、現行版で述べられている基本理念や考え方を踏襲しつつ、多様な読み手を意識した内容とすることで、望ましい未来に向けて持続可能なスマートシティ施策へつながる道標の役割を果たすことが求められています。