デジタル田園都市国家構想推進交付金申請に向けて押さえるべきポイント

2022-12-20

内閣府は2023年1月から2月にかけて、デジタル田園都市国家構想推進交付金の令和4年度補正予算分の申請受付を開始することを予定しています。本構想で政府が目指す地方創生について、自治体がビジョンを設定する際の留意点と、自治体が本交付金活用を検討するにあたってのポイントを整理します。

デジタル田園都市国家構想とは

デジタル田園都市国家構想(以下、構想)は、2021年に岸田総理により提案された概念であり、「デジタル技術の活用により、地域の個性を生かしながら、地方を活性化し、持続可能な経済社会」を目指しています。

デジタル田園都市国家構想推進交付金(以下、推進交付金)は、構想に基づき地方の取組を支援することを目的に創設されました。

政府は、構想を各府省のさまざまな取組を包摂する概念として位置づけ、資源を集中させることも検討しており、今後、構想関係の交付金がさらに強化されていくことが予想されます。

これからの地方創生を踏まえて自治体が検討すべきビジョン

推進交付金では、自治体は目指すビジョンを設定した上での事業推進が望まれています。従来の地方創生の取組でもビジョンの設定は求められてきましたが、本構想では持続可能性の向上に焦点が当たっており、ビジョンもこれらの要件の変化に合わせて適宜アップデートしていく必要があります。ビジョン設定の際の留意点として、1.好事例を活用した継続的な事業拡充、2.ビジョンと連動したKPI、3.独自性の追求の3点が挙げられます。

1.好事例を活用した継続的な事業拡充

本交付金での取組は単年度のデジタル化で終わらせるのではなく、継続的に事業を拡充する足掛かりとなることが求められています。一方で、基礎となるデジタル基盤整備や制度改革を国が担うことで、「横展開がしやすい」というデジタルの特徴を最大限活かせる土壌ができつつあります。すでに横展開できるメニューが充実し始めており、今後も新たな好事例が数多く生まれると予想されます。他自治体の取組も柔軟に取り込み、検討に係るリソースや時間を最小限に抑えながら、継続的に事業が推進できるようなビジョンを設定することが重要です。

2.ビジョンと連動したKPI*の設定

事業を進める際は、パートナーであるサービス提供者の意向が反映されやすい状況といえます。特に推進交付金の一部では事業を複数実装することが求められ、まち全体が目指す方向性が不明確になりやすい状況です。ビジョンの達成度を測るために、事業を総括する適切なKPIを設定し、各事業がそのKPIに寄与しているかを常に意識しなくてはなりません。デジタル化により、定量的なアウトカムが手に入れやすくなったことで、今まででは把握できなかった指標の活用を検討しても良いでしょう。ビジョンの達成度を測る適切なKPIが設定できれば、事業の途中経過が見える化され、実施状況に合わせた効果的な事業推進も可能となります。

*KPI・・・「重要業績評価指標」を指し、組織の動向を定点的・定量的に評価するために用いる

3.まちの個性・独自性の追求

「東京のスモールコピーを目指さない」というメッセージも重要です。Well-Being指標をはじめ、全ての指標で満点を目指すことは現実的ではありません。従来の地方創生は、官主導で取組が進められた側面が強く、取組の種類が限られていました。本構想では、デジタルを軸に、対象として非常に多様なテーマや取り組みやすいメニューが提示されており、各自治体の個性・強みを活かした独自性の追求が可能となっています。

推進交付金(デジタル実装タイプ)申請に向けたポイント

政府では推進交付金のデジタル実装タイプについて、各自治体の取組の成熟度を基にTYPE別に分類し、申請を受け付けています。

推進交付金(デジタル実装タイプ)の全体像(11月時点)

出典:デジタル田園都市国家構想交付金説明会にて提示された内閣府作成資料

  • TYPE1:優良モデル導入支援型
    他の地域で確立された優良モデル・サービスを活用した実装を目指すTYPEです。令和3年度の採択事業では、行政サービスと住民サービスの数が最も多く、各自治体が身近な事例から取組を開始していました。今後はTYPE1の採択が重点化される方針とのことで、今後はより多くの自治体がTYPE1を活用することが予想されます。このTYPEはデータ連携基盤の整備が必須ではなく、まずは個別の課題解決に活用することが可能なTYPEですが、さらなるデジタル化等の長期的な活動に戦略的につなげる一手とすることが不可欠です。
  • TYPE2:データ連携基盤活用型・TYPE3:マイナンバーカード高度利用型
    TYPE2/3では、データ連携基盤を活用した、複数のサービスを実装し、他地域のモデルケースとなりえる取組が求められます。エコシステムの構築や新しいビジネスの創出まで取り組むなど、それぞれ特徴のある取組が採択されています。令和3年度の採択自治体では、健康・医療やモビリティに関わるサービスが多く、これらとは違う切り口、もしくはさらに踏み込んだ内容での検討が必要だと考えられます。
    加えて、交付金後の事業継続の観点も重視される方針です。交付金に頼らない事業化のために、地域の関係者や地元企業・スタートアップを巻き込んだ企業連携、ひいては資金が循環し新しい事業が継続的に生み出されるスタートアップ・エコシステムの形成に向けた取組も戦略に盛り込めると良いでしょう。
    一方で、令和3年度に採択された27自治体のうち、採択の際にデータ連携基盤が整備済みだった自治体は8自治体と限られており、現時点でのデータ連携基盤の整備状況は重視されていません。まずはビジョン、事業構想、事業プロセス・体制をしっかりと確立することがポイントです。
TYPE別の分野別採択団体数(単位:団体)
 

TYPE1

TYPE2

TYPE3

行政サービス

157

3

3

住民サービス

94

7

4

健康・医療

74

13

4

教育

46

2

0

防災

71

4

1

交通・物流

58

9

1

農林水産

43

2

2

しごと・金融

44

5

2

文化・環境

23

2

0

観光

20

5

0

出典:内閣府公開資料などを基にPwC作成

注:採択団体が実装を予定する事業の分野を整理。一団体が複数の分野にまたがる事業を実施する場合もあり、総数は採択団体総数と一致しない。

全てのTYPEに共通して、デジタル化という手段が目的化しないように常に留意するべきです。そのためには、東京やほかの都市にない独自の強みや進むべきビジョンをまず自治体自身が考えぬき、ビジョンを構築する必要があります。ビジョン実現に向けて、正確な現状分析を通じてビジョンで目指す姿と現状との差異を明らかにした後で、はじめてデジタル化という手段を用いて解決できる課題に対して事業を具体化していくことが可能になります。その一方で、変化の激しい現代においては、常に変動する状況に合わせて迅速かつ柔軟な対応が必要です。戦略を洗練させることも重要ですが、まずは「デジタル化への小さな一歩」を踏み出すことが飛躍につながる扉となるでしょう。

執筆者

山口 智佳

アソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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