今一度、欧州先進都市から学ぶ「スマートシティプラットフォームのあり方」

2023-03-07

デジタル田園都市国家構想の実現に向けてスマートシティの取り組みが加速している一方で、その取り組みはさまざまな課題を抱えています。今一度、欧州先進都市の取り組みを参考に、スマートシティ推進に携わるにあたって持つべき視点について考察します。

国が推進するデジタル田園都市国家構想の後押しにより、全国のさまざまな地域でスマートシティ実現に向けた取り組みが加速しています。内閣府は、2020年に「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」を公表しました。スマートシティを推進する各自治体は、これを参照することで、地域課題の解決に向けて効率的にスマートシティの取り組みを進めることができるとともに、各都市が共通の指針や相互運用の考えを持つことで、都市の成果や共通課題に対する解決策を共有しながら実施することが期待できます。

多種多様な地域の課題を解決するためには、データ連携基盤を介して分野の垣根を越えてデータを連携し、共有・活用しながら、地域の課題解決につながるスマートシティサービスを作る必要があります。しかしながら、住民ニーズが取り込まれず、補助金による一過性の取り組みに終わっている事業が散見されており、真の地域課題の解決は容易ではありません。

このような背景のもと、今一度、スマートシティ先進地域である欧州の取り組みを参考に、日本の取り組みに活かすべき点を考察します。

必然性から生まれた欧州先進都市のデータ連携プラットフォーム

日本のリファレンスアーキテクチャでは、さまざまなデータを分野横断的に収集・整理し提供する「データ連携基盤」(都市OS)が、サービス・アセット・他システム・他都市の都市OSと相互連携することで、統一的な地域プラットフォームを実現可能としています。このような重要な機能を担っている都市OSは、欧州などの先行するスマートシティの取り組みやデータ連携プラットフォーム(以下、データ連携PF)を参考に、より進化させた概念で設計されています。一方、欧州のスマートシティアーキテクチャは、欧州各都市が各地域の課題に向き合いながら個々のスマート化の取り組みを重ねた結果として、各サービス、オープンデータ、センサーなどのIoTデータなどを結びつけ付加価値を高めるために、必然的にデータ連携PFが生み出されたと考えられます。

そのため、欧州各都市ではこれまで独自で構築されたスマートシティサービスやデータ連携PFに対し、データ連携基盤の考え方を元に、サービス・アセットの集約化に向けて改修が行われています。また、地域の課題や取り組みの目的に応じて、既存のデータ連携PFとは異なる新たなデータ連携PFを生み出しています。

先進的なスマートシティ事業を推進している欧州5都市(アムステルダム、バルセロナ、コペンハーゲン、ヘルシンキ、ロンドン)では、一般的なデータ連携PFに加えて、領域特化型のデータ連携PFや、都市間連携型のデータ連携PFが存在します。(図1参照)

図1:欧州5都市のデータ連携プラットフォーム(抜粋)

1. 領域特化型

領域特化のデータ連携PFは、特定領域やテーマに特化しています。例えば、患者の医療情報を扱うために行政と医療関係機関のみが参画する、クローズドなデータやユースケースを提供するPFサービスがあります。英国の国民保健サービス(National Health Service)を運営主体とするDiscovery Data Serviceでは、過去30年にロンドンに居住していた約1,400万人の市民の長期記録を保管し、リアルタイムで更新される医療関連情報を用いて、疾患の早期発見、緊急度の高い患者の早期特定、データに基づく医療資源配分など、効率的かつ効果的な都市の医療提供の実現に寄与しています。

また、コペンハーゲンのCity Data Exchange(CDE)は、実証的にデータマーケットプレイスに取り組み、官民データを用いてビジネスモデル構築を試みた事例です。民間データの提供が少なく、売買も限定的であったために2年でサービスは終了しましたが、同市はCDEの取り組みから得られた効果的なデータPF構築に向けた教訓を報告書にまとめており※1、その後の取り組みに反映しています。一部を抜粋すると、データ利活用方法を定めた明確なユースケースの重要性、ユースケースに適したデータ提供・利活用を検討するためのコミュニティ形成およびデータに関わる協業の重要性、その橋渡し役の重要性を挙げています。

2. 都市間連携型

都市間連携の取り組みは、コペンハーゲンおよびヘルシンキで積極的に実施されており、両都市の主要データ連携PFは、それぞれ各国内の複数都市で共同利用されています。

ヘルシンキでは、フィンランドの6大都市による共同実施都市開発戦略6Aikaの一環で複数のスマートシティプロジェクトおよびデータ連携PFサービスの実証的な取り組みを行うなど、地域課題に応じた新たなデータ連携PFサービスの創出に継続的に取り組んでいます。

Select for Citiesは、ヘルシンキのForum Virum Helsinkiが主導的な役割を果たす異分野データやIoTセンサーデータのデータ連携PF実証プログラムであり、アントワープ、コペンハーゲン、トスカーナなどとの連携のもと、City Enabler、Onesait Platform、Snap4Cityなどの民間PFを採用して都市間でのデータ連携・可視化を実現しています。

以上のように、欧州先進都市ではその取り組みの経緯から、一般的なデータ連携PFだけではなく、地域課題に応じたさまざまなデータ利活用のニーズに応える形で複数のデータ連携PFが並存する場合もあります。データ連携PFの集約化だけに注力するのではなく、地域の産官学民で連携するコミュニティを形成し、イノベーションを生み出すプログラムを継続的に立ち上げて、課題抽出からソリューション実証を行う仕組みを設けることで、新たなソリューションを模索し続けています。その背景には、理想の地域を実現することを目指し、地域課題と向き合う活動が根底にあることがうかがえます。

基本に立ち返り、地域の目指す姿、地域の課題と向き合う

日本においては、スマートシティリファレンスアーキテクチャの活用により効率的なスマートシティの推進が期待できる一方で、都市OSの導入が目的とすり替わってしまうと、地域課題、ニーズの把握、およびそれらのスマートシティサービスへの反映が疎かになってしまい、目指す成果が得られない結果となってしまう恐れがあります。

そうならないためにも、基本に立ち返り、中長期的にどのような地域課題があるかをしっかりと把握し、どのような街を目指すかを地域の関係者(住民や地元企業など)と共有し、その上で都市OSをどのような必然性で活用するかを検討した上で、取り組みを推進することが重要です。

また、欧州と比較して住民のコミュニティ帰属意識が低く、データ利活用に対する理解醸成が進んでいない日本の現状においては、スマートシティサービスやデータ連携PF導入に対する住民合意のハードルが高いことも課題です。

地域の関係者との対話を重ねながら、まずは重要性の高い地域課題や、住民満足につながる1領域のユースケースに絞ったサービスの実装を通じて理解者を増やすことから始め、1つ1つのソリューションを着実に作っていくことが重要であると考えます。

参考資料

※1 CITY DATA EXCHANGE –LESSONS LEARNED FROM A PUBLIC/PRIVATE DATA COLLABORATION
https://cphsolutionslab.dk/media/site/1837671186-1601734920/city-data-exchange-cde-lessons-learned-from-a-public-private-data-collaboration.pdf

執筆者

益田 浩

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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