「スマートシティで描く都市の未来」コラム

日本の資源調達・循環における「サステナブル・スマートシティ」の可能性

  • 2023-11-07

概要

持続可能な社会を実現するには、地球環境に配慮した資源調達と、調達した資源の循環利用を行うことが重要です。将来、資源調達力が弱まる可能性がある日本の暮らしの安全保障につなげるため、資源調達・循環システムを都市OSに組み込む形で地域の持続可能性を実現する「サステナブル・スマートシティ」を検討することは有用であると考えます。

現在における「もったいない」の取り組み

「もったいない」は「ものや資源を大切に使う」という意味の言葉で、日本に昔からある考え方です。2004年ノーベル平和賞受賞の故ワンガリ・マータイさんがこの考え方に感銘を受け、世界に広めたことで「MOTTAINAI」は有名になりました。現在、この「もったいない」に通じる取り組みとして、循環経済というシステムが欧州を中心に広がっています。

今後、世界の人口が増え、経済成長と環境負荷が高まると、資源が相対的に不足し、調達価格の上昇が予測されます。それに伴って大量生産・大量消費・大量廃棄の経済活動が持続可能ではなくなる中、「循環経済」によって資源を循環させることで、ビジネスの継続性と安全保障と廃棄物削減を担保するアプローチが重要になります。

そして日本では環境省と経団連が2021年1月に「循環経済パートナーシップ」を立ち上げることに合意し、官民連携による循環経済の取り組みが進められています。このパートナーシップには150以上の企業や業界団体が参加し、これまで約160件の取り組みが進められています。具体的な例として、再生可能な植物由来原料を用いた材料を開発することにより、自動車の内装・外装やスマートフォン筐体などの材料を循環可能なものに置き換える取り組みなどが挙げられます。

資源循環と地球環境

持続可能な社会を目指し「ものや資源を大切に使う」ためには、資源をどのように循環させるかという点だけでなく、資源をどのように手に入れるかという点も考慮する必要があります。現在、私たちが暮らす地球の環境を人々の生活を支える重要な投資すべき「資本」として捉える「自然資本」という考え方が注目されています。

「自然資本」は、豊かな天然資源・森林・豊かな土壌・きれいな空気・きれない水・生物多様性など、地球環境や地域自然によって生み出されており、私たちが当たり前だと思って使っている価値のことで、自然資本を再生スピード以下で持続可能に管理することが暮らしや経済の維持には欠かせません。

木材資源を例にとると、「使用する木材が地域の住民や生態系が大切にしている森林由来ではないか」「林業が絶滅危惧種など地域の自然を乱していないか」「木材を再利用する試みを検討できるか」といったことは、国際的な取引において重要な確認事項となります。

このように、地域経済は世界とサプライチェーンでつながっており、地球規模環境の変動リスクの中で自然資源の出所の安全性を把握することや、長く利用して循環させる工夫を考慮した仕組みを検討していくことが、地域の暮らしが長期で持続的に安定するための第一歩となります。今は大丈夫かもしれませんが、中長期的には資材が入手できなくなり、壊れたまま放置せざるを得ないリスクがあるからです。

国や地域ごとに異なるスマートシティの形

スマートシティの取り組みを通して、インフラの耐久性を予測したり、再利用可能な資源データを収集して資源リサイクルで需要に合わせて備蓄したりすることは、今後その町が100年、1,000年と続く地域づくりを行うために、有効なアクションと考えられます。欧州ではスマートシティの取り組みとして循環経済の社会実装が進められており、オランダのアムステルダムでは2050年までに完全な循環経済を達成するという野心的な目標が立てられるなど、街の中で資源を自給自足することが検討されています。

日本の街は海外の大陸の都市と比べて狭く、密度が高く、また地方部においては公共サービスや社会インフラが行き届いているという特徴があります。しかし、資源自給力が低い日本は、インフレやサプライチェーンに係るリスクが高く、今後少子高齢化が進み低成長であることを踏まえると、国際的には相対的に資源調達力は低下し続けると考えられます。そのため、地域の資源を管理し、自給力を高める価値は高そうです。

一方、一部の地域を除けば、日本では環境問題解決への体系的なアプローチが弱いため、欧州のような都市資源循環の社会実装が実現するまでには、もう少し時間がかかると考えられます。スマートシティを環境保全の側面から成功させるためには、自治体のルール、住民の意識や課題を社会構造に即した形でステップアップさせる必要があり、心と協力を惹きつけるメニューをデザインすることが重要です。

循環経済と自然資本の適切な管理を実現する日本型のサステナブル・スマートシティ構想

地域のサステナビリティを高める「サステナブル・スマートシティ」を日本で実現させるためには、近隣の自治体から収集した資源を再利用するルールやインセンティブ、市町村を超えて地域の資源を管理する仕組み、地域の需給に沿って運用するシステムが必要となります(図1参照)。

図1 日本型の循環経済と生物多様性を両立するスマートシティのイメージ図

資源を調達するプロセスにおいては、環境ラベルなどの生態系に配慮した資源情報、調達経路(卸、小売り、メーカーの情報)、再利用や資源循環の保証、資源を活用するための技術情報を都市OSに蓄積し、管理することが重要になります。これにより、域内の資源のストックと耐用期間が把握できるようになり、新規に購入するか、再利用品を活用するかを選択することができるようになります。

スマートシティにおける都市OSに近隣の資源の調達先や地域で保有している再利用可能な資源をインプットしておくことで、建物や地域でのインフラの利用者やオーナーが変わったとしても、都市OSが資源情報を管理しているため、サービス地域内での資源の循環と安全保障を高めることができます。一番身近で、小規模に実現できるバイオサーキュラー(生物系資源の循環)を例にすると、地域の農場や養殖場で育てている食材の供給可能量や各小売店で食物の在庫状況と需要、加工キッチンの空き状況、気象や交通やイベント情報、キッチンカーの所在管理、フードバンクへの需要、転用するリサイクルセンターの稼働情報、食料残差や廃棄食品への需要量などの情報から、地域資源流通において最適な取引価格(グリーンに対するプレミアム)を導き出すことができます。すなわち、都市OSに接続することで農家や食品事業者、販売事業者、NGOなどのそれぞれが情報を探し求め、正しい情報に基づいて適切なタイミング・場所・価格・経路で提供できるようになります。

一定の規模があるとばらつきが正規分布してしまいますが、地域を跨いで都市OSが連携することで、市町村や業界・業者の壁を越えて資源の循環を最適化することができます。それぞれの資源を使い捨てではなく、寿命近くまで(移動に対するエネルギー消費を少なく)使い切ることが現実的になってきます。また、こうした再利用可能な都市内の資源への需要と、備蓄している静脈物流の倉庫が都市OSにつながることによって、地域内において備蓄すべき資源量を最適化でき、管理コストを抑えつつ、資源枯渇に対する安全性を高めることができると考えられます。

図2 建築物に使用する木材の資源の調達から再利用までの運用例

建築物を例にとると、公共投資などで新たな建築を行う際には、将来の資源がより入手困難になることが想定されます。そこで、循環および再利用を前提とした長寿命な部材調達と再利用性の高い設計を行い、建材のスペックや寿命や加工、処分情報などのデータを都市OSに登録します。もし建築物をリノベーションしたり取り壊したりする計画が判明すれば、建材をオークションにかけることで再利用者を見つけたり、再加工を行ったりすることで資源の再利用が可能となり、無駄の削減につながります(図2に建築物に使用する木材の資源の調達から再利用までの運用例を示します)。都市OSに地域の資源が登録され、管理が進めば、地震などで大規模な破壊があり、再生が必要なシーンにおいても、全てを処分するのではなく、再資源化や再利用などの意思決定が迅速化すると考えられます。

日本から広がるスマートシティの新たな形

資源が少なく、低経済成長に向かう日本で求められる循環経済と自然資本の適切な管理を行うスマートシティ構想として、日本の社会課題を解決し、調達・連携・運用を都市OSで実現するユースケースを「食」と「建材」の2つでイメージアップしました。

こうした新たな社会課題を解決するシステムを構築するには、官民で課題意識を共有し、連携を進めることが重要になります。その際、PwCはスマートシティを構成する産業・公共事業に関するさまざまなナレッジや、多様な専門性を有するプロフェッショナルを有しており、貢献できる領域は非常に大きいと考えています。公共事業においてはグリーンインフラに係る取り組みとの連携、産業においては資源の在庫と需要のマッチングサービスを民間企業と共同で進めるということも考えられます。

また、日本型のモデルを構築することは、日本と人口形態が似ているインドや東南アジア諸国の先進モデルとなることが考えられます。循環経済などの社会課題解決に向けた取り組みは、欧州が先行していますが、日本型モデルを構築することで、日本から世界へ新たなスマートシティの形を広めるということができるのではないでしょうか。

執筆者

服部 徹

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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石崎 祐大

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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