
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
内閣府が2022年に公表した「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」によると、全国の自治体で導入されているスマートシティのサービスは多岐にわたり、その多くが実証実験による検証を想定したものとなっています※1。実証実験とは、完成されたシステムを恒久的に採用するのではなく、新しい技術や設備を実際の環境下で稼働させ、試験的な運用を通じて課題を浮き彫りにし、得たデータをさらなる発展のために活用していく手法です。具体的には自動運転の段階的なレベル試用や、水素エネルギーの活用などが挙げられます。仕組みとして現行法規では追い付いていないものについては、「サンドボックス制度」などの積極的な活用も望まれ、規制改革を推進する動きも活発になっています※2。
ではそれを導入するための都市や建築側はどうあるべきでしょうか。実証実験においては、センサーや設備機器などの交換や更新が想定され、フレキシビリティを備えた建築計画を事前に策定しておくことが重要です。これは、建築物は時代や状況に応じて変化するものであり、新たな需要や環境への対応が可能であることを意味します。スマートシティはその性質上、竣工したら終わりではなく、「都市OS」と表現されるようにパソコンなどと同じく、常にアップデートが不可欠です。
都市や建築の設計において、まだ完成していない技術や設備をどの程度見込むかは非常に難しい問題です。1つの考え方としては、更新性を上げ、部分的な改修や増改築が容易に行えるようにし、都市の変化に柔軟に対応できるようにすることが挙げられます。現在でも長期優良住宅法における認定制度においては、維持管理等級や更新対策等級が求められています※3。これは更新やメンテナンス性を考慮することで、建物の長期需要化を向上させるもので、現状は補助金などのために採用するという側面もありますが、スマートシティにおける更新性を考える上でも考慮すべき視点です。
また、モジュール化をすることも解決策の1つとして挙げられます。建築は一品生産であり、地域や風土により条件が異なるため、電化製品や車のような画一的なモジュール化は現実的ではありません。しかし、例えばサッシ、昇降機、シャッター、防災設備などの環境性能や安全性に関わるものや、センサー類などの更新性を考慮したモジュール化は今後重要となってくるでしょう。
日本では一般的な住宅の平均寿命は約30年といわれています。建設業界ではスクラップアンドビルドといわれるように、「つくっては壊す」フロー消費型社会から、「きちんと手入れして、長く大切に使う」ストック型社会への転換が急務となっています※4。そして国土交通省においても、既存建築ストックの長寿命化に向けた規定の合理化を目的に、建築基準法の見直しが随時行われています※5。
技術の進化は速く、特にスマートシティでは都市や建築自体が柔軟に変化に対応することが求められています。フレキシビリティを考慮した建築は、新しいテクノロジーの導入に柔軟に対応でき、将来のアップデートや変更がスムーズに行えます。これにより、建物が時代に即した機能を提供し続けることを可能とします。エネルギーの効率的な利用や自然エネルギーの導入など、環境に配慮した取り組みを柔軟に組み込むこともできるでしょう。
フレキシビリティを軸に据えたスマートシティが進む未来の都市は常に成長し続けます。そして維持管理を良好に継続できれば、建物の寿命を延ばし、コストを削減させるだけでなく、都市全体の魅力や機能性を保つことにもつながります。
※1:内閣府「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/pdf/r4_sc_besshi5_4.pdf
※2:内閣府「サンドボックス制度」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/topic01.html
※3: 一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅に係る認定基準技術解説」
https://www.hyoukakyoukai.or.jp/chouki/pdf/choki_gijyutu10.pdf
※4:国土交通省「長持ち住宅の手引き」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/tebiki.pdf
※5:国土交通省「既存建築ストックの長寿命化に向けた規定の合理化」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/r4kaisei_kijunhou0006.html
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
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未来の都市を想定する際には、フレキシビリティを備えた建築計画を事前に策定しておくことが重要です。スマートシティにおける建築物は持続可能であることが求められており、そのためには新たな技術や設備に迅速に適用できることが不可欠です。